「変えないという進化」
美味しさに正直なものづくり

「変えないという進化」 美味しさに正直なものづくり

120年以上「変えない」ものづくり

「変えないという進化」。
「濱醤油醸造場」の暖簾をくぐった先、店内奥の部屋に飾られている言葉です。必要なところは今の時代に合わせながらも「変えない」ことを大切な指標にしながら、醤油や味噌を醸し続ける「濱醤油醸造場」。四国霊場19番札所「立江寺」の門前町の一角に構える明治30年創業の蔵元です。

創業以来受け継いできた杉樽での醤油づくりを、今もなお守り続ける4代目の濱晃博さんと眞理子さん。
かつて一般的だった杉樽仕込みですが、時代とともに醸造の機械化や効率化が進み、昔ながらの杉樽仕込みで醤油をつくる蔵元は徳島県内ではここだけになりました。

蔵に並ぶ20本の杉樽。大人が頭まですっぽり入るほどのこの大きな杉樽には、1年以上長期熟成させたもろみが浸かっています。このもろみを長い棒でかくはんし発酵を促す「かい入れ」という作業は、力の強い男性でも重労働だそう。

▲時季ごとに回数を見定めながら「かい入れ」を行い、もろみを熟成させていきます。

そんな大変な労力を伴う杉樽仕込みにこだわる理由は、一番に「風味」を守るため。

「杉樽にいる乳酸菌や酵母菌などの微生物が、醤油をより美味しくしてくれるんです」。
身の回りのあらゆる場所に存在している乳酸菌や酵母菌。実はこれら微生物が醤油や味噌の風味や旨味を引き出してくれているのだそう。120年以上「濱醤油醸造場」の醤油を醸してきた杉樽に棲み着いているこの小さな小さな菌たちが、「濱醤油醸造場」にとって欠かせない相棒となっているようでした。

▲ もろみを火入れしてろ過すると醤油に。この一番絞りが「秘蔵しょうゆ」です。醤油を絞りきった後のもろみの残りかすは、農業用の肥料や鶏の餌として使われているそうです。

こうじの小さな声に耳を澄まして

この日は朝早くからこうじの仕込みが行われていました。
蒸した米にこうじ菌を付けて醸し、4日間かけて米こうじが出来上がります。

▲米こうじの仕込みをする濱眞理子さん。

ムシロに包んで丸一日寝かせておいたという米こうじを敷布の上に広げると、およそ8畳ほどのこうじ室(むろ)はあっという間にじんわりと温かな蒸気で包まれました。米こうじの発酵が進んで発熱をしているのだそう。サウナのような室の中、晃博さんと眞理子さんは素早い手つきでほくほくとした米こうじをほぐしていきます。

「こうじ作りを機械化している醸造所もあるけれど、うちは手作業。温度が上がってくると“熱いけん、早く手入れしてくれ!”というこうじの様子を感じたところで手入れをしてあげて、人肌くらいまで冷ましてあげるんです」。

まるでこうじ菌と会話をしていたかのように話す眞理子さん。
こうじ菌の静かな声を聴きながら、発酵によって刻々と変わる状態を瞬時に察知し、手が離せない作業をテキパキと進めていきます。

▲出来立ての生こうじ。「お菓子代わりに食べてもらいたいんです」と眞理子さん。

「このままでも美味しいんですよ」と、出来たばかりの生こうじをひと口分手渡してくれました。いただくと、口の中にほんのりと華やかな香りが広がり、かむごとに甘みを感じます。米を醸しただけのシンプルな生の米こうじは、普段口にする炊いた米よりも風味が奥深く優しい甘さを持っていました。

「醤油づくりも味噌づくりもこうじが一番大事」と眞理子さん。
美味しいこうじが仕上がれば、味噌も醤油も美味しく仕上がる。一番の要がこうじづくりなのだと話します。

こうじ菌を生かし、信頼できる素材を選ぶ

「濱醤油醸造場」は、醤油や味噌のほか、塩麹や甘酒などの発酵食品を手がけていますが、徳島県内のどのスーパーマーケットを探してもなかなか見かけることがありません。実はごく一部の限られた店舗での委託販売と、「濱醤油醸造場」での直接販売が中心。顔の見える距離でのやりとりを大切にしながら、商品を届けています。

「うちの味噌はこうじ菌を殺していないので、袋詰めをした後も発酵が進んでいくんです」。

発酵が進むとガスが出て袋が膨らむほか、賞味期限が早くなるなど、販売上不都合なことも多く出てきます。そのため、市販されている発酵食品の多くは発酵が進まないよう加熱処理をされていますが、「濱醤油醸造場」の商品はあえて発酵を止めずに店頭へ並べているのです。

理由は単純でした。「その方が美味しいから」。
見た目や賞味期限など、売り手の都合を中心に考えるのではなく、ただ美味しいものを届けたい。「美味しさ」を優先にしたものづくりを大切にしています。

▲米こうじに塩水と蒸した大豆を合わせ、杉樽に入れて1年以上寝かせると味噌が出来上がり。

晃博さんと眞理子さんがここを継ぐことになった25年前。「美味しさ」に加え、「安心で安全な」ものづくりを求めて、変えたものがありました。
それは原材料。

徳島県樫山農園の米。徳島県美馬町の小麦。秋田県大潟村の大豆。醤油づくりには徳島県鳴門の塩、味噌づくりには長崎県の塩を。

醤油も味噌も、シンプルな原材料でつくるからこそ、素材選びに手を抜きませんでした。生産者の元に赴いて現場を見て、直接話を聞いて、信頼できる原材料を一つひとつ探していったのだそうです。

これからも長く愛される家庭の味に

「昔は味噌も甘酒も、どの家庭でも手作りしていたんですよね」。
時代とともに生活環境が変化し、味噌を毎年仕込むという家は少なくなりました。「家庭でつくれなくなった代わりに」と始まったのか、いつからか“家庭の味”も受け継ぐようになりました。

「濱醤油醸造場」の基本となる配合をベースに、大豆とこうじの量を変えることで希望する甘さや風味に近くよう調整。オーダーメイドで仕上げて、各家庭へと届けています。2代3代と、代々味噌づくりを請け負っている家もあれば、「祖父母が昔作っていた味噌を再現したい」と訪ねてくる人もいるのだそう。徳島県内外から100軒弱の家庭用味噌をこしらえています。

ただ、「味噌汁を飲まない家庭が増えてきていると感じています」と眞理子さん。
オーダーメイドの味噌づくりをする中で、味噌の使用量に年々変化を感じていると言います。

「お味噌汁は一日一杯。塩の代わりに塩麹。嫁いできて毎日毎食この家で作っている発酵食品を食べるようになってから、私自身、花粉症が改善するなど体調が変わってきたんです」。
そんな実感があるからこそ、発酵食品を毎日の食事に取り入れて欲しいと熱がこもります。

▲ 「濱醤油醸造場」の味噌は常温で保存すると発酵が進んで熟成されていくため、販売店では冷蔵コーナーに並んでいます。

2020年からは「発酵食品の良さを伝えたい」と、味噌づくり体験の教室を始めました(完全予約制)。

体験後には眞理子さんがこしらえたプチランチも。
「塩麹がいろんな料理に使えるんだということを体感してもらえたら」と、塩麹漬けのハモ焼き、塩麹で漬けたお漬物、野菜の塩麹炒め。そして、原材料で使用している樫山農園のコシヒカリで作った土鍋ごはんとお味噌汁が並ぶ、ささやかなお昼ごはんです。

塩麹は、「毎日のごはんに使える塩加減」にこだわり、ちょうど良いバランスを試行錯誤してつくった一品だそう。

もちろん醤油も味噌も、日々の料理には欠かせない調味料。
だからこそ、毎日使える「安心安全なもの」でつくった、毎日使いたい「美味しいもの」を、と「濱醤油醸造場」は正直なものづくりに向き合い続けます。これからも家庭の味として長く長く受け継がれていくように。


濱醤油醸造場
徳島県小松島市立江町字若松34
https://www.oshouyu.com/


濱醤油醸造場の商品は、Lacycle mallでお買い求めになれます。

秘蔵しょうゆ
料理のプロたちにも絶賛されている、濱醤油を代表するお醤油です。原料はすべて国産。この味をベースに、ポン酢やだし醤油など、濱醤油のすべての商品ができています。 創業以来の伝統と技術をすべて継承している味です。