6年経った後もずっと一緒に。匠のものづくり“ランドセルリメイク”

6年経った後もずっと一緒に。匠のものづくり“ランドセルリメイク”

「ミニランドセルを作ってほしい」から始まった

「友人から『子どものランドセルで、小さなランドセルを作ってほしい』と依頼されて、ミニランドセルを作ったのがリメイクを始めたきっかけですね」。

▲最初に手がけたのは2017年。赤いランドセルを手のひらサイズのミニランドセルに。

2008年にオープンした、レザークラフト「黒革」。手縫いを基本とする財布やバッグなど、革製品の製造・販売を行っています。革職人である店主・黒地倫行(ともゆき)さんの手から生まれるオリジナルアイテムはどれも細部に渡って仕上げが美しく、表から裏からと見入ってしまうほど。確かな技術と情熱を伺い知ることができます。

そして近年、黒地さんが力を注ぎ、評判を呼んでいるのが、“ランドセルリメイク”。お店には、一年を通してその役目を終えたランドセルが全国から送られてきています。

「卒業式を終えた春が一番多いですね。もちろん、県内の方の持ち込みも多く、長い間大切に保管していたものを大人になってから持ち込まれたり、おじいちゃん、おばあちゃん、もしくはご両親が思い出深いものだからと持ち込まれたり……。ランドセルの数だけエピソードがあります。ランドセルは家族にとっても特別なものですよね」。

現在、黒地さんが手がけているランドセルのリメイクは、〈ミニランドセルセット〉と、〈小物10点セット〉の2パターン。ちょうど取材時に、小物セットにリメイクしてほしいというオーダーがありました。せっかくなので、持ち主に話を伺いつつ、ひとつのランドセルが生まれ変わり、新しい命が吹き込まれるまでを追わせてもらうことに。

▲革製品や洋服などが並ぶ店内の奥に工房を構え、作業をしています。
▲藍染めシリーズは革も黒地さん自ら、手染めするほどのこだわりよう。
▲愛用歴5年目のスタッフの財布(手前)。使うほどに味わいが増していくのが革の魅力。

「できるだけ残す」ものづくり

依頼主は県内で暮らす、曽我部あすかさんと中学1年生の娘、乃愛(ののあ)さん。リメイクされるのは、乃愛さんがこの春まで6年間使っていた水色のランドセル。

「ランドセルってもう使い道がないですよね。だからといって、捨てるのも忍びないし、どうしたらいいのかわからなくて困っていました。知り合いにこちらでリメイクしてくれるよと聞いて」と、あすかさん。乃愛さんも愛着のあるランドセルがまた違う形で使えるなら、と楽しみにされているそう。

▲ランドセルと乃愛さん。入学時に撮影したもの。
▲6年間背負ったランドセル。生まれ変わる前、「今までありがとう」の記念にパチリ。

「最近は小物セットが人気です。小物入れやキーケース、キーホルダーなど、家族で共有できるのが魅力なのかなと。ミニランドセルは飾っておきたい人向けですね」と、黒地さん。

リメイクを始めた当初、小物の点数は6点ほどでしたが、その数は徐々に増え、今ではなんとほぼ倍。「数をこなすうちに、あ、ここも、ここも使えるなと残す部分が増えてきて気づいたら10点を超えていました(笑)。世界にひとつの自分だけのランドセルですしね、使えそうなところはできるだけ残してあげたい。喜んでもらえると、やっぱりうれしいですから」と照れたように笑います。

▲店主の黒地倫行さん。リメイクだけでなく、オーダーにも応えてくれます。

ランドセルによってリメイクは違う

「最近のランドセルは昔とは違って、6年間毎日使っていたと思えないほど状態のいいがものが多いですね。もちろん、多少傷んでいてもそれが風合い。オンリーワンの魅力に繋がります」。

乃愛さんのランドセルを手にとり、外側と内側の状態を確認。「基本的に使うのは、ふたになっている背の部分が中心です。ただ背の部分もステッチが入っていたりしてランドセルごとに使える範囲が違ってくるので、毎回どう取る(使う)かを見定めるのに一番苦労しますね。あとは、金具や装飾、窓付きのポケット部分もできるだけ使います」。

ただ、20~30年以上も前のランドセルだと、今のサイズより一回り小さいうえ、革がボロボロに割れて傷みが激しい場合も。それでもどこか少しでも使える部分があれば、と相談に乗っているそう。

▲ランドセルの状態を確認するところから。

頭でイメージができたら、いよいよランドセルの解体がスタート。まずはカッターを用いてフタの部分やポケットを裁断。ハサミやペンチへと持ち替えてカバーや金具などを取り除きながら、流れるように作業を進めていきます。

目を見張る私に、「初めて見ると心が痛いかもしれません」と気にかけてくれましたが、心を痛めているわけではなく、まるで魚をさばくかのような鮮やかな手さばきにすっかり見惚れていたのでした。

▲2017年から累計で数百個ものランドセルを解体しているので慣れたもの。
▲金具も飾りも傷つけないようにひとつずつ慎重に外します。

およそ3週間で完成

汚れを拭き取ったら、クリッカーと呼ばれる機械を用いて型を抜きます。型の種類は四角や丸などのほか、ハートやクローバーなどかわいらしいものも。

「無駄なく革を使いたいとやっているうちに型のバリエーションが増えて……。型も職人の手作りなんですが、これ以上小さなものはできないと言われています(笑)」。 1つでも多く型を抜けるように、型を抜く順番や置く位置をあらかじめ決めたら、これも慣れた手つきで進められ、あっという間にすべての型が抜けました。

▲クリッカー(油圧式裁断機)でひとつずつ型を抜いていきます。
▲型は香川県白鳥町の職人さんによる特注品。

この後、それぞれのパーツが小物へと生まれ変わります。基本的にはオーダーを受けてからお届けまで3週間程度かかりますが、この日は特別に小物入れを仕上げてもらいました。もともときれいなランドセルだったこともあり、まるで既製品のような美しい小物入れが完成!

▲縫いやすいように革漉き機で革をそいだ後、ミシン縫い。ステッチは1年生のときにもらうランドセルカバーの色にちなんで黄色の糸で。
▲四隅に穴を開けたら鋲を差し込みます。
▲黄色のステッチが効いた、キュートな小物入れになりました。

ランドセルの面影を残して

後日、仕上がった小物セットを受け取る曽我部さん親子を再び訪ねました。やや緊張した面持ちの乃愛さん。小物セットが入った箱をあすかさんと一緒に開けると、瞬く間に満面の笑顔!

「これはあのポケットの部分やね」「あ、このハート!拭いても落ちなかった汚れの部分が残ってる。うれしい」「キーケースもかっこいいなあ。大事に使って自分の子どもにもお母さんのランドセルから作ったんよって見せたいなあ」。

乃愛さんのランドセルから生まれた、世界でひとつの小物の数々。ひとつひとつを手に取りながら二人の会話は弾み、見ているこちらまで幸せな気持ちで満たされます。乃愛さんいわく、「ストラップとキーホルダーは両親にプレゼントしようかな」とのこと。

「想像以上に素敵な仕上がりでした。普段使いできるものに生まれ変わってこの先もずっと大切に使ってもらえるならうれしいですね。それに、私は気づかなかった小さな汚れまで娘は覚えていて、ランドセルのことを大切にしていたんだなあと改めて知りました。お願いしてよかったです」とあすかさん。

革職人が確かな技術で大切に、美しく仕立てる、ランドセルリメイク。思い出とともに愛らしい姿となって、6年後も持ち主や家族の暮らしのなかに寄り添い続けます。

▲「わあ!かわいい!」うれしくて仕方がない乃愛さん。お母さんもその表情を見てうれしそう。
▲小物は全10点。金具や使えそうな部分もおまけで残してくれるのは黒地さんならでは。

黒革
徳島県徳島市中昭和町5丁目54-11
https://kurokawa96.com/index.html


黒革の商品は、Lacycle mallでお買い求めになれます。

ランドセルリメイク「小物10点セット」
【リメイク後の送料無料】6年間共に過ごしたランドセルを記念に残せる形にリメイクいたします。リメイク後はご自身で記念に飾るもよし、贈ってくれた祖父母や両親に贈ることで感謝の気持ちを伝えることができます。