創業以来守り続ける手づくりの味
山あいから届く昔ながらのビッグエビフライ

創業以来守り続ける手づくりの味<br>山あいから届く昔ながらのビッグエビフライ

徳島県唯一の村、佐那河内村(さなごうちそん)の山あいに工場を構える「阿波鳴食品(あわなるしょくひん)」。今では地域の人々に“エビ工場”の名で親しまれるほど、「阿波鳴食品」のエビフライは地元でも愛される看板商品へと成長しています。きっと多くの人が「山の中でエビフライ?」と思うでしょう。畑で採れる農産物ではなく、海のものを工場で扱っていることが意外ですよね。それには理由があるんです。

さかのぼること50年前。創業者である先代の山本佳文さんは元農協の職員。当時、栽培が盛んだったみかんの缶詰工場を立ちあげ、加工を行っていました。ある年、みかんの木が雪で傷んで収穫ができず、工場は大打撃。そこで、佳文さんは「みかんが採れない年でも地域の人々が安定して仕事を続けられる会社を作ろう」と独立。新会社を創業し、冷凍エビフライの製造をスタートさせました。

二代目の山本正子さんによると、「なぜエビフライだったのかは、先代から直接聞いてないから詳しいことは分かりませんが、知り合いにパン粉を製造している人がいるから、その人の紹介じゃないでしょうか。当時、エビフライを食べること自体が珍しく、冷蔵庫のない一般家庭も多いなかで、冷凍エビフライに目をつけたのは先見の明があったと思います」。

▲自然豊かな県道33号線沿いに工場があります。
▲今では食卓に欠かせない冷凍食品。半世紀前の創業当初は珍しいものでした。

手作業がエビの鮮度を守る

創業時より、エビフライづくりの工程はすべて手作業によるもの。エビの殻をむくところから始まり、家で調理するときに少量でも面倒な背わた取りでさえも1尾ずつ丁寧に除いています。
「殻をむいた状態のエビを仕入れることもできますが、鮮度が落ちてしまうため手間をかけてでもおいしく仕上がるほうを優先しています」。しかも、むきたてのエビは身が潤っているため保湿剤のような役割を果たす添加物を使用する必要がなく、エビ本来の食感を引きだせるのだとか。

▲写真は、「フラワー」と呼ばれる天然エビの背わたを取り除いている様子。天然エビは砂を噛んでいるため、食べた時に背わたがジャリジャリするので取り除きます。

殻をむいたエビは、包丁で切りこみを入れて塩水を噴霧し、すぐに小麦粉や卵、バターなどを煮つめた特製のバッター液に浸し、最後に生パン粉の衣をまとわせます。フライする時にこの“生パン粉”に含まれる水分がいい仕事をしてくれるんです。高温に熱した油の熱をエビにじっくりと伝え、表面の衣はサクッと軽く、中はフワッとした食感を実現します。

エビと衣の比率は6:4。しっかりとエビの味を堪能してもらうための工夫です。殻むきから衣つけまでスピーディーかつノンストップで行い、素早くマイナス20度の冷凍庫へ。丸一日寝かせ、新鮮さを閉じこめます。

▲生パン粉の中にエビをダイブさせて、むらなく衣をつけていきます。包みこむようにフワッと握るのがポイント。

家族に食べさせたいものだけを

「子どもや孫に安心して食べさせられる商品しか作らない!」という思いが人一倍強い山本さん。

それは、手間を惜しまないフライ作りにもつながっていて、「機械はね、採り入れようと思えばなんぼでもあるんです。でも、手作業やけん身を押しつぶさずに包丁で切り込みが入れられるし、手作業やけんフワッとパン粉が立つようにつけられる。手作業のほうがおいしいし、おいしさに一番こだわりたいから、今も昔と変わらないやり方を続けています」。

エビは一番大きいもので約16センチ! これは500mlのロング缶と同じくらいの長さ。食卓が一気に華やぐビッグサイズで食べ応え満点です。

▲さっくりと薄づきの衣に包んだボリューミーなエビが自慢。油で揚げるだけで簡単にできあがる冷凍エビフライは主婦の心強い味方。

そして、冷凍エビフライのおいしい揚げ方は、“一度にたくさん調理しすぎないこと”。

油の温度が下がって衣がベチャベチャになってしまうので、たくさん入れたくなっても我慢! 家庭用サイズのフライパンだと多くても3尾程度、エビたちがフライパンの中を泳げるくらいの量にとどめるのがコツです。油の温度は170度を目安に。凍ったままのエビフライを1尾ずつ投入し、約5分間しっかり揚げるとサクッと仕上がります。衣がきつね色になり、油の泡が小さく均等になったら中まで火が通ったサインです。

▲添加物を使わず、素材のよさがダイレクトに伝わる手づくりのエビフライ。

火事からの再スタート

2023年4月で創業50周年を迎えた「阿波鳴食品」。山本さんが義父の先代からたすきを受け継いだのは2010年。それからすぐに、先代と山本さんの夫が亡くなったり、工場が火事になったりと、大変なことが連続して起こり、「会社を継続するか悩んだ」と振り返る山本さん。
「親戚には辞めなさいって会社を続けることを反対されました。でも、エビフライを待ってくれている取引先の方や従業員みんなの顔を思い浮かべたときに、もう一度頑張ろうと思って……」。

そんな山本さんをいつもそばで支えているのが娘の山村ひとみさん。「娘からも“協力する”と心強い言葉をもらって決心がつきました」。山本さんは火事から約1年後に工場を再建。「注文いただいたものを忠実に作っていこう」という気持ちで、コツコツと製造を続けてきたといいます。

▲代表の山本正子さん。「娘に尻を叩かれながら仕事しています」とチャーミングに話してくれました。

学校給食に食卓に、求められる味

現在では、エビフライのほかに「白身フライ」や「チキンカツ」といった肉や魚のフライの需要も増え、1日約1万個もの冷凍食品を生産しています。また、学校給食のおかずとして出荷する商品は、アレルギーを考慮して卵や乳製品を使わない独自のレシピで製造。徳島をはじめ大阪や神戸、愛知、岐阜など県内外の給食センターへ運ばれています。

また、娘のひとみさんの提案で誕生した「端っこグルメ」。作りすぎてしまったフライや製造の際に形が不揃いで出荷できないものなど規格外の商品を詰めあわせたお得なセットです。

工場で作っているさまざまなフライ約25個をぎゅうぎゅうに箱詰めして、期間限定で特別販売しています。何が入っているかは開けてからのお楽しみ。「味はほかのものと変わらないのに昔は廃棄するしかなかったワケあり商品。娘のアイデアでお得にお客さまに提供できて嬉しい」と山本さんは微笑みます。

▲(右から)山本正子さん、山村ひとみさん、スタッフの志摩さん。工場に併設する直売所でも商品を購入できます。

最近では、新たな試みとして「スチームコンベクション」を導入。スチームによって蒸し料理や焼き料理ができる調理機器で、照り焼きチキンやハンバーグなど、揚げもの以外の冷凍食品を作ることが可能になるそう。「スチームコンベクションは蒸し器の大きい版。昔ながらの製法は守りつつ、フライと並行して油を使わず調理ができる冷凍食品をこれから作っていきたい」と展望を語る山本さん。

50年間培ってきた手づくりの技術に最新調理機器がプラスされ、アップデートを重ねる「阿波鳴食品」。人気商品のエビフライに続いて、今後どんな新商品が飛び出すのか楽しみです。


阿波鳴食品
徳島県名東郡佐那河内村下字仕出113
Tel.088-679-2417



阿波鳴食品の商品は、Lacycle mallでお買い求めになれます。

昔ながらのえびフライ(天然えび)

創業当初の製法と今も変わりなく、一尾ずつ手作りで作っています。こだわりのタレも自家製で地元に愛される味となっています。「天然のえび」を使った贅沢なえびフライです。