上勝の棚田米で作ったお酒で
ふるさとの原風景を守りたい

上勝の棚田米で作ったお酒で<br>ふるさとの原風景を守りたい

建設会社が純米吟醸酒を!?

徳島県のほぼ中央部に位置する勝浦郡上勝町は、約1400人が暮らす四国でいちばん人口規模の小さな町。千年の森・高丸山や殿川内渓谷をはじめ豊かな自然に囲まれた山あいです。2003年に全国で初めてゼロ・ウェイスト(無駄や浪費、ゴミをなくす取り組み)を宣言した自治体として注目を集め、住民自ら45分別した家庭ゴミのリサイクル率は80%を達成。先進的な環境政策を学ぼうと、世界中から視察者が訪れています。

 町内には『日本の棚田百選』に選ばれている樫原の棚田など多くの棚田を有し、NPO法人「日本で最も美しい村」連合にも加盟。一方、日本各地の山あいがそうであるように、ここ上勝町も人口減少と過疎高齢化が進み、人手不足やかさむ経費面から棚田の維持管理が難しくなってきているのも実状です。

 2011年、静岡県で開催された全国棚田サミットに上勝町商工会会長として参加した「株式会社高鉾(たかほこ)建設」代表取締役の山下俊洋さん。その時、荒廃した土地を開墾してお米を栽培し、焼酎を作っている方の話を聞きました。それが酒づくりを始める大きなきっかけになったと振り返ります。

「私は上勝で生まれ、育ちました。ここで骨を埋めるつもりで父が創業した建設業を営んでいます。同じように子どもの頃から親しんできた棚田の景観をこれからも絶やさないようにしたい。上勝をもっと元気にしたい! いろんな加工品を考える中で、選んだのが日持ちがするもの。そして地元の農家さんが一生懸命育てたお米を高く売れるようにもしたい。そんな思いからこの事業をスタートさせました」と力強く語ります。

 ▲日本の棚田百選にも選ばれている、『樫原の棚田』。写真提供/株式会社高鉾建設 
▲「棚田の景観をこの先も守りたい」。上勝の日本酒を商品化した山下俊洋社長。


棚田米を使ったお酒で町を元気に!

農家が上勝で育てたお米を買い取り、お酒にして販売することで、「ふるさとの棚田を守りたい」。同年、山下社長は社内に酒販事業部を創設します。当時、一番多く作っている品種がキヌヒカリであったため、酒米ではなくあえてそれで日本酒を仕込むことに。そしてふるさとへの熱い想いで誕生したのが、「上勝の棚田米と湧水と負けん気でこっしゃえた純米吟醸原酒」。日本酒の醸造は文化元年(1804年)創業の「本家松浦酒造」(鳴門市)に依頼しました。

 純米ならではのピュアな味わいで、フルーティな香りが特徴。鯛の刺身や鮎の塩焼きなど日本料理はもちろんのこと、イタリアンにもよく合います。

 「精魂込めて作った棚田米と美しい水、そして負けん気で作ったこの酒を呑みつつ、遠いふるさとのことを、そして上勝のことを思い浮かべていただければ、こんなに嬉しいことはありません」と目を細めます。

▲日本料理はもちろん、イタリアンとも相性のいい純米吟醸原酒。写真提供/株式会社高鉾建設


山あいの酒屋さんとしても営業

 また酒販事業だけでなく、耕作放棄地を再生すべく自社で木の伐採や草刈りを行い、整地も始めます。翌年にはその棚田でお米を自社栽培し、収穫も行いました。米作りは5、6年間継続し(本業である建設業が忙しくなったため、現在は草刈りなど維持管理に務めているそう)、自社米の山田錦100%で作った桐箱入りの「山田錦純米大吟醸 上勝」も販売したところ、完売しました。

▲耕作放棄地を再生すべく自社でも木を伐採し、整地を進めました。写真提供/株式会社高鉾建設
▲復元された棚田。米作りを行い、山田錦で仕込んだ大吟醸も販売、完売しました。写真提供/株式会社高鉾建設

 山下社長が生まれ育った傍示(ほうじ)地区は、かつて食料品店や酒屋、米穀店、雑貨屋、たばこ店などで賑わっていましたが、現在は商店も大幅に減少。そんな中、地元の酒屋としても営業を開始。自社商品だけでなく、他の日本酒や焼酎、ウィスキーやワイン、清涼飲料水なども販売し、地域の賑わいづくりに貢献しています。

▲地元の酒屋としてもオープン。商店が減少していく集落の活気にも貢献しています。

 そして酒販事業部の創設当初から、営業活動を続けてきたのが山下社長の妻で、専務の山下和美さん。県内はもとより県外、海外のイベントにも積極的に出店してきました。コロナ禍が落ち着いてきたのもあり、2022年は東京、シンガポール、2023年は、海外の日本酒コンクールで金賞を受賞したのが縁で京都へ。高鉾建設のお酒は、現在県内のさまざまな飲食店や物産販売店、そして酒類卸会社等で取り扱われています。


フランスで金賞受賞、イタリアでW受賞

2022年、海外から朗報が届きました。「上勝の棚田米と湧水と負けん気でこっしゃえた純米吟醸原酒」を海外向けにパッケージした商品『純米吟醸原酒「上勝」』が、フランスの『クラマスター2022』(フランス人のための日本酒コンクール)純米吟醸部門で金賞を受賞したのです。

また同年、酒と食、デザイン等の専門家がイタリア・ミラノで審査する日本酒品評会『ミラノ酒チャレンジ2022』の純米吟醸・吟醸部門利き酒部門でプラチナ賞を受賞、フードペアリング部門魚介のパスタでベストフードペアリング賞と、ダブル受賞を果たしました。

▲フランス、イタリアで好評価された『純米吟醸原酒「上勝」』。

 「それは嬉しかったです。受賞を機にさらにいろんな方に知ってもらえるようになりました。10年以上経って、いろんなことが繋がってきたと思います」と山下専務は笑顔を浮かべます。

▲国内外を飛び回り、地道に営業活動を続けてきた専務の山下和美さん。

 なお酒販事業部では日本酒だけでなく、上勝のお米を使った焼酎などの商品化も行ってきました。その第一号が「上勝の棚田米と湧水と負けん気でこっしゃえた米焼酎」。クリアで、香りの余韻がある大人の飲み口です。また、女性におすすめなのが「上勝の米焼酎 いろどり」。キレがあって香りも華やか。かわいい300ミリリットルサイズや度数を抑えた20度のものもあります。


上勝特産のゆこうを使ったリキュール

「香りゆず、酸味すだち、味ゆこう」と称されるゆこうは、上勝町特産の香酸柑橘(こうさんかんきつ)。おそらく柚子とダイダイが自然交配したもの、と言われています。生産量が少なく、果汁として出荷されるため、果実として店頭に並ぶことはほぼないため、「幻の果実」とも呼ばれています。2022年には、そのゆこう果汁を使ったリキュール「上勝 幻の果実 ゆこうのお酒」も販売開始。ゆこう独特の香りや酸味が心地よい、すっきりとした味わい。炭酸割りや水割りにぴったりのお酒です。

▲「上勝 幻の果実 ゆこうのお酒」。ラベルには写真家・大杉隼平さんが撮影した写真が使用されています。

 事業を始めて丸12年。栽培農家の高齢化に伴い、お米作りを引退した方もいますが、「休耕田になったらいかん。山下さんが買うてくれるなら、私が作ってあげるわ」と代わりに頑張って作ってくれる方がいるのが嬉しい」と山下夫妻。

 「人との出会いが次々と生まれて、今があります。棚田で生まれたお酒を通じて多くの交流が生まれ、この仕事は本当に元気の源と言ってもいいほどです。あとは後継者を見つけること」と、顔を見合わせて微笑まれました。どうかお二人の願いが叶い、いつまでも美しい上勝の風景が守られ、美味しいお酒づくりが続きますように、と願ってやみません。

▲上勝町特産のゆこう果汁を使ったリキュール。爽やかな柑橘の香りがクセになる逸品。

株式会社高鉾建設 酒販事業部
徳島県勝浦郡上勝町大字傍示字西峯146-4
tel.0885-44-1388
https://takahokosake.com



高鉾建設 酒販事業部の商品は、Lacycle mallでお買い求めになれます。

純米吟醸原酒「上勝」&ゆこうのお酒

上勝の棚田米と清らかな湧き水がつむぐ、すっきりとしたピュアな味わいの純米吟醸原酒と香りが爽やかで酸味が抑えめなゆこう果汁を使ったリキュールのセットです。