2023年4月、徳島県の山あいにある町、神山町に開校した「神山まるごと高専」。全国で20年ぶりに新設された、全寮制の高等専門学校として全国から注目を集…
2023年4月、徳島県の山あいにある町、神山町に開校した「神山まるごと高専」。全国で20年ぶりに新設された、全寮制の高等専門学校として全国から注目を集めています。“テクノロジーとデザイン、起業家精神”を学べるユニークな学校には、いったいどんな学生が集まり、どのような勉強や寮生活を送っているのでしょうか。気になるあれこれを学生自らが綴る、人気連載です。
この秋より月2回の更新とさらにパワーアップ! これまで以上に“神山まるごと高専生”の今がわかります。お楽しみください!

【第10回】「まるごと祭2025の振り返り(2)
「まるごと祭で生まれたアイドル『ATHENA』の舞台裏」
書き手:瀨川理楽(2年生)
12月号後半を担当するのは、前回に続き2年生の瀨川理楽(せがわりら)です。
今回は、10月に開催された神山まるごと高専最大のイベント「まるごと祭2025」の中でも、ステージ企画として生まれたアイドルグループ「ATHENA(アテナ)」について、メンバーの1人として関わってきた私の視点で振り返ってみたいと思います。
前回でもご紹介しましたが、神山まるごと高専では、毎年秋に「まるごと祭」という文化祭があります。学生が企画から運営までを担い、展示、飲食、体験企画、ステージなどを、学校全体を率いてつくり上げるお祭りです。今年のまるごと祭では、新しい挑戦として「野外ステージ」が企画されました。屋根のない場所で、照明や音響を一から組み、夜の時間帯に行うステージ。学校としても初めての試みでした。

「ATHENA」は、その野外ステージに立つために、オーディションを通して結成されたアイドルグループです。アイドル企画があると聞いたとき、正直なところ、強い興味があったわけではありませんでした。面白そうだなとは思ったけれど、私ができるものではないと、どこか最初から線を引いていた気がします。そんなとき、友達が「一緒にやってみようよ」と声をかけてくれました。その一言に背中を押されてチャレンジしてみようと思えたのが、オーディションを受けるきっかけでした。

踊る曲を決めて、毎朝みんなで練習しました。私はこれまでダンスの経験がほとんどなく、正直あまり上手にはできませんでした。それでも、誰かと一緒に何かを表現することが昔から好きで、みんなで動きをそろえたり、試行錯誤したりする時間は、とても楽しかったです。一方で、心のどこかにずっと不安もありました。自分は分不相応なのではないか。そんな気持ちが、何度も頭をよぎりました。
オーディション当日、私は別の予定があり、会場での実技審査には参加できず、動画提出での審査になりました。ダンス動画は、これまで一緒に練習してきた友達に何度も撮り直してもらい、アドバイスをもらいながら仕上げました。歌はあまり練習できなかったけれど、好きな歌を、今の自分なりに精一杯歌いました。
しばらくして、突然「オフィスに集まってください」と呼び出されました。正直、まさか受かっているとは思っていなくてドキドキしていたら、ステージのアイドルとして自分の名前が呼ばれました。たくさんの応募があったと聞いていたので、本当に?という気持ちでいっぱいでした。それでも、この本気な人たちがつくろうとしているステージに、自分も参加できることにとても嬉しく感じていたのを覚えています。一緒に練習してきた友達も選ばれていて、帰り道、「一緒にやろうって言ってくれてよかった」という友達の言葉が、今も心に残っています。この日から、私のまるごと祭とATHENAの時間が、本格的に始まりました。
ATHENAという名前には、ギリシャ神話の女神・アテナが由来。「知恵」「技術」「芸術」の意味が込められています。

私たちは、Awakening(目覚め)、Technology(技術)、Harmony(調和)、Empathy(共感)、Nature(自然)、Art(表現)という6つの想いを、身体と音、そしてテクノロジーにのせて表現することを目指しました。披露した楽曲は、XGさんの「IYKYK」。強さと繊細さが同時に存在するこの曲に、自分たちの葛藤や野心を重ねながら、ステージをつくっていきました。

練習は、決して余裕のあるものではありませんでした。楽曲が決まってからは、全員の予定が合うことが少なく、基本は個人練習。とくに夏休み中は特に寮が閉鎖され各々自宅に帰っているため、ひとりで踊り続ける時間が多かったです。夏休みが終わると、一気に練習の密度が上がりました。朝8時から基礎練、放課後にフォーメーションを合わせ、夜は歌とダンスを個人練習してから全体で合わせる。体力づくりのために、グラウンドで歌いながら走ったこともありました。
夏休み明けに行った強化合宿のとき、学校の理事でありプロデューサーでもある山川咲さんに、「りらは、まだアイドルになりきれてないよ」と言われたことがあります。正直とても悔しかったです。他のまるごと祭実行委員の仕事とも重なり、練習に十分な時間を割けていない自分が嫌で、自信を持てていないことも分かっていました。悔しい思いを糧に、アイドルのドキュメンタリーやライブ映像をたくさん見て、表情の使い方、立ち姿、視線の向け方、今まで飛び込んだことのなかったアイドルという分野の奥深さを知っていきました。自分は魅力で溢れていると常に意識して、日常から笑顔を保てるように意識するようにしました。

今回の野外ステージは、まるごと祭としても初めての挑戦でした。照明や音響、ステージ構成、天候への対応。どれも簡単ではなく、ステージチームの人たちは何度も調整と検証を重ねていました。夜遅く寒い中でリハーサルをしている姿を、何度も見かけました。このステージは、多くの人の本気の積み重ねで成り立っているのだとひしひし感じながら、私も練習に励んでいきました。
そして本番一日目、雨が降りました。野外ステージは中止になり、体育館での開催に変更され、どうにもできない悔しさがありました。野外でやることに込められていた想いや、準備してきた時間を知っていたからこそ、「この場所でやりたかった」という気持ちが消えませんでした。今となっては、体育館でのステージは観客との距離が近く表情がよく見えるため、目を合わせながら踊れる良さもあったなと思います。

二日目は、無事に野外ステージで披露することができました。舞台袖では、寒い中ぎゅーっと抱きしめ合い、他の出演者の人たちに励まされ、裏方の人たちのテキパキした立ち回りにグッと勇気をもらいながら、出番を待っていました。ステージに立った瞬間、目の前に広がった景色は、胸がぎゅっとなるほど美しかったです。お客さんの顔が見える距離で踊れたこと。ソロの場面で、自分の名前を呼ぶ声が聞こえたこと。どれも、今もはっきり思い出せる宝物のような記憶です。


本番が終わったあと、ATHENAのみんなで抱き合って涙しました(泣いていない人もいましたが笑)。今までの努力から人を感動させられるステージにできたこと、このメンバーでできたこと、ATHENAでの活動が終わってしまう寂しさ、本番発揮できなかったことのある悔しさ、いろんなものが混ざった涙でした。正直に言うと完璧ではなかったけれど、ちゃんと向き合ってきた時間を認めることができました。そんな私たちのダンスは「まるごと高専」のYouTubeで見ていただけます。ぜひご覧ください。
今年のステージテーマは、「野心から生まれる未来」。どんなモノを生み出すにも、どんなコトを起こすにも、世界を動かす瞬間には、必ず誰かの野心があります。私たちの野心は、まだ言葉や形にしきれない部分もたくさんあり、その掴みきれない想いを、ステージという場で音や身体にのせて表現しました。
ATHENAは、このまるごと祭で生まれました。本気で向き合った仲間と出会えたこと、支えてくれる人たちの中で挑戦できたこと。そのすべてが、私にとって大切な経験です。そして、ATHENAはまだ終わりません! 実は、新曲の練習がすでに始まっています!

どうか、学生たちの野心がつくる未来に、これからも目を向けていただけるととても嬉しいです!ついつい気持ちが高まり長くなってしまいました。最後まで読んでいただき、ありがとうございました。次回もお楽しみに!
<書き手:瀨川理楽(2年生)>
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