「阿波和紙」は、吉野川中流に位置する吉野川市山川町で漉(す)かれている和紙のこと。徳島の伝統工芸品のひとつです。文化の継承と発信に丁寧に取り組み、和紙…
「阿波和紙」は、吉野川中流に位置する吉野川市山川町で漉(す)かれている和紙のこと。徳島の伝統工芸品のひとつです。文化の継承と発信に丁寧に取り組み、和紙の可能性と向き合い続ける阿波和紙。その歴史と魅力を探ってきました。第2回目では、阿波和紙が国内外でどのように愛されているのかをご紹介します!
第2回
和紙の多様な表現力! 魅了されるアーティストたち
和紙の表現方法は無限大!?
阿波和紙のさらなる魅力を探るべく阿波和紙伝統産業会館に通うこと数日。
ある日は漉き舟を器用に操って薄い和紙を漉いていたり、ある日は藍で染め上げた和紙作品を仕上げていたり、また、原料液を溜めた漉桁(すきげた)の上からシャワーをかけて無数の小さな穴が空いた和紙をつくっていたり……訪れる度に様々な職人の技を目の当たりにして驚かされる日々でした。
ちょっと変わった色をした原料液を見ることもありました。
なんと混ぜ込まれているのは玉ねぎの皮!
ベジタブル紙というシリーズで、農家さんから譲り受けた廃棄予定の野菜を素材に使った和紙なのだそう。
また、阿波和紙会館へ訪れた際には館内をよくよく見てみることもおすすめ。
あちこちに和紙を使用した平面作品や立体のオブジェなどが飾られていて楽しめます。様々な発想で生み出された和紙のアート作品を見ると、その表現方法の多様さを感じます。
技術革新で広げた和紙の可能性
さて、種類豊富な阿波和紙の商品ですが、実際どんな風に使用されているのでしょう?
一般的に「紙」の用途といえば、字を書くことや印刷すること。
和紙ももちろん、洋紙とその用途に違いはさほどありません。
ただ、でこぼことしていて手触りの強い和紙。コピー機をすんなり通ってくれるのでしょうか。
そこは長年積み上げた技術の賜物! 厚みを均一に漉く技術、そして和紙の風合いを損なわない特殊なコーティング材の開発により、インクジェットプリンタやコピー機などでも利用できる阿波和紙を多数展開しています。
手漉きの和紙でも印刷できるものはありますが、多くは機械抄き。
機械抄きを担う富士製紙企業組合では、一定の品質を保ちながら大量生産できる和紙づくりを実現させました。
出来上がった大判の和紙はふすまや障子に、繊維の風合いで模様を付けたものや色付きのものはラッピングやクラフト用に、また、断裁されて大小さまざまな印刷用和紙へと変身します。
阿波和紙×デジタル印刷のプロ
「写真やグラフィックデザインを和紙にプリントしたい」、そんな方に向けて生まれたのが、高画質デジタル印刷用和紙「アワガミインクジェットペーパー(AIJP)」。
このAIJPは、国際的に活躍する写真家グレゴリー・コルベールさんや、徳島出身の写真家・三好和義さん、また写真家・荒木経惟さんの写真展にも使用されたことがあるほど国内外から愛用者の多い一品なのです。
AIJPへのプリントを専門に行う部署があるというので覗いてきました。
その名も「アワガミプリントラボ」。
取材日はワークショップを開催中。参加者は持参した写真データをAIJPにお試しでプリントを行ってました。
東京から参加した関愛子さん。
「写真展を開催する会場の雰囲気や自分が撮る写真には、和紙の質感が合いそうだと思って興味を持ちました」。
阿波和紙にプリントされた作品を見て、その色合いの柔らかさに感動されていた様子。
「和紙プリントは、人肌や毛並みなどの質感、湿度、温かさを表現することが得意なんです」と、スタッフ髙田友季子さん。
「“楮(コウゾ)”は繊維が長く、より和紙らしい風合いを持っているのが特徴。“竹和紙”は繊維が短いのでするっと滑らかな質感に仕上がります。表現したい内容に合ったものや、作品の魅力を引き出すものとして、使用する和紙を選んでもらえたら」と、出力選任技師の郷司史郎さん。
インターネット注文でプリントサービスも行っているアワガミプリントラボ。阿波和紙の知識とプリントの技術を持ち合わせたスタッフたちが、プロアマ問わず、多くの表現者たちの片腕となって制作サポートをしている場所でした。
阿波和紙で写真作品を作る人
そんなAIJPを長年愛用しているという方のお話を伺ってきました。
12年ほど前からフィルム写真で地元の写真を撮り続けているという料理人の阿部和剛さん(徳島県吉野川市在住)。
「一般的な写真プリントの光沢ある発色に馴染めなかったのですが、阿波和紙では柔らかな色合いで落ち着いた表現にできるのが自分好み。保存性が高いことも魅力です。それに、地元でつくられた和紙で地元の写真作品を仕上げたいということも愛用している理由のひとつです」。
家庭用インクジェットプリンタで印刷できるサイズのものは自宅で。それ以上大きな作品づくりになるとアワガミプリントラボで印刷をお願いしているのだそう。
「普段よく使用しているAIJPは“竹和紙”や“三椏(ミツマタ)”。手漉きの“眉山”でプリントしたものをプレゼントすると喜ばれます」。
作品展では、掛け軸にしたり、額もすべて和紙で仕上げたりと、和紙そのものの風合いを生かした展示ができることも魅力だと教えてくれました。
阿波和紙に描く人
デジタルプリント以外のアート表現にも愛用者が多い阿波和紙。
もともと銅版画や木版画などの版表現で多く使用されてきましたが、書や水墨、水彩画や日本画でも阿波和紙を愛用している方がいます。
日本画材の岩絵具や水彩絵具などを使用して作品づくりをしている画家の冨本七絵さん(徳島県徳島市在住)。4〜5年前から作品づくりに阿波和紙を使用しています。
「岩絵具を何重にも塗り重ね、さらにその上に色鉛筆でガシガシと描き重ねて作品を仕上げることもあるんですが、阿波和紙は薄いけれど丈夫で強い紙。破れることがないんです」。
土や風や植物など自然の気配からインスピレーションを受けて作品づくりを行う冨本さん。中でも「水」は作品づくりの大切なテーマのひとつだと話します。
「自分の暮らしの近くにある、同じ水から育った和紙を使いたいと思うようになって阿波和紙伝統産業会館にどの種類の和紙が良いか相談しに行ったんです」。
選んだ阿波和紙は「白峰」と「白鳳」。
滲みがどんな風に出るのか、筆のひっかかり(描きやすさ)はどうか、感覚を掴むために試行錯誤した期間はあったものの、今は冨本さんらしい表現を生み出してくれる良き相棒になっているようでした。
アーティストへの手厚いサポート
「アーティストが滞在制作をする」と聞いて阿波和紙伝統産業会館を訪ねると、これまでの取材では見られなかった巨大な漉桁(すきげた)を使って和紙製造をしている方々が。
神奈川県からやってきた現代美術家の栗林隆さんと写真家の志津野雷(らい)さん。阿波和紙伝統産業会館が行う「ビジティング・アーティストプログラム」を利用し、この秋にドイツで開催する作品展に向けての作品づくりのために来館したのだそう。
ビジティング・アーティストプログラムは、アーティストに和紙を使った制作活動ができる場をサポートする事業です。
約10年、毎年のように阿波和紙伝統産業会館に通って制作をしているという栗林さん。和紙を使った作品の代表的なものに、植物の種を入れて漉き込んだ和紙から芽を生やすというインスタレーション作品があるのだそう!
今回の滞在制作では、大判の手漉き和紙を製造し、そこへ志津野さんの写真作品をアワガミプリントラボにて印刷。さらに、そのプリント作品の上に栗林さんがペイントを施して作品を完成させる予定だと教えてくれました。
阿波和紙が世界で愛される理由
2年に一度、阿波和紙伝統産業会館では「アワガミ国際ミニプリント展」を開催しています。和紙を使った版画やデジタルプリントなどの版表現を行うアーティストの作品を国内外から募り、2019年度には世界61カ国から1193名の応募がありました。
このように国内外から注目を集める阿波和紙。
様々な方法で和紙を使って表現をする人たちに、阿波和紙伝統産業会館含め、阿波和紙ブランド「アワガミファクトリー」が寄り添ってくれているからこそ、長きに渡り、広く、大勢の方々に愛されているのだと感じます。
漉き方、原料、加工方法、またその組み合わせによって幾通りもの和紙が出来上がること。そして、その和紙を素材として使用することで表現の可能性が何倍にも広がっていくこと。知れば知るほど奥深い、阿波和紙の世界がありました。
さらに第3回目では、「徳島ならでは」の和紙の表現方法についてご紹介します。
阿波和紙伝統産業会館
TEL 0883-42-6120
http://www.awagami.or.jp/
アワガミファクトリーの商品は、Lacycle mallでお買い求めになれます。
端紙セット 大
種類、色、サイズ違いの和紙が約500g入っているお得なセット。 手芸用のほか、スクラップブッキング、折り紙、メモ帳、コラージュ、その他多用途にお楽しみいただけます。