進化する和紙の表現!
暮らしを彩る
「阿波和紙」[第3回]

進化する和紙の表現! 暮らしを彩る 「阿波和紙」[第3回]

「阿波和紙」は、吉野川中流に位置する吉野川市山川町で漉(す)かれている和紙のこと。徳島の伝統工芸品のひとつです。文化の継承と発信に丁寧に取り組み、和紙の可能性と向き合い続ける阿波和紙。その歴史と魅力を探ってきました。第3回目では、同じく徳島の伝統産業である「阿波藍」で染めた阿波和紙の作品づくりについてご紹介します!



第3回
阿波和紙と阿波藍の融合で生まれる美しい景色


阿波和紙×阿波藍を復活させたい!

「徳島ならでは」の伝統産業のひとつとして外せない「阿波藍」。
作業着や高級衣服などあらゆるものに藍で染めた布が使われ、日本の生活の中に藍色が溶け込んでいた江戸時代。
その当時、藍染めを支えていたのが阿波・徳島でつくられる藍でした。県を東西に横断する一級河川「吉野川」が運んでくる栄養たっぷりの土のおかげで藍の一大産地に発展。
全国各地の染め師へ出荷され、いつしか「藍と言えば阿波(徳島)」と言われるほどの名産地となっていました。

▲ 堤防が整備されるまで毎年のように氾濫していた吉野川。その氾濫のおかげで上流から肥沃な土が運ばれ、藍の栽培に役立ったのだそう。

そんな阿波藍と阿波和紙との初めての出会いも、江戸時代の頃でした。

阿波和紙が残る徳島県吉野川市山川町でも、かつて周辺には藍をつくる農家も多くいたことから、藍で染めた阿波和紙もあったようです。

しかし、洋紙や化学染料が普及してきたことで産業は衰退。
和紙職人も藍農家も急激に減少した結果、長い間途絶えてしまっていた阿波和紙×藍染めでしたが、再び出会わせたのが「アワガミファクトリー」ブランドの6代目・藤森実さん。「藍染め和紙を復活させたい!」と、1960年代に徳島県工業技術センターに通って技術を習得。
実さんの妻・藤森ツネさんも、染めの技法を受け継ぎ、二人で強い和紙の開発や技術の工夫を試行錯誤し、数々の美しいデザインの藍染め和紙を生み出していきました。


受け継がれるノートと想い

現在、この染めの技術を受け継いでいるのは藤森美恵子さん。
阿波和紙伝統産業会館の染師として作品づくりを行っています。

▲ 藍液から引き上げて染め具合を確認する藤森美恵子さん。

「義母であるツネが大きな和紙の乾燥板を抱えて引きずりながら運ぶ姿を見て、自分がこの染めの技術を受け継いでいかなくては、と思ったんです」。

長年、ツネさんが藍染めをする姿を側で見続けてきた美恵子さんが、藍染めの技術を継承してから約12年。
ツネさんが当時からノートのまとめていた染めの記録を参考に、今も美恵子さんが受け継いで記し続けています。

▲ これまでの染めの記録を書き留めているノートは何冊も束になって保管されている。

染め時間を変えてグラデーションにする技法、紙を漬ける方向を変えながら色を重ねていく技法。
研究熱心なツネさんが生み出した独自のパターンは、今も藍染和紙の代表的なデザインになっています。


藍染め和紙ができるまで

藍の染料液は、藍の乾燥葉を100日ほどかけてじっくり発酵させて出来上がる「スクモ」と呼ばれる染料のもとを使用してつくります。その「スクモ」をさらに藍甕(あいがめ)の中で還元させて、ようやく藍色に染める液へと仕上がります。

▲ 藍の畑の様子。収穫せずに育てておくと、きれいなピンク色の花を咲かせます。
▲ 藍液は生き物のように状態が変化していくので、一日一回混ぜて丁寧に管理します。

阿波和紙伝統産業会館の一角に置かれた藍染めの工房。
「こんなに深い藍甕は見たことがない」と言われたことがあるという工房の藍甕の深さはなんと2メートル。
布を染めるのと違って、和紙は折らずに真っ直ぐ甕の中に入れなければならないことから、より深さのあるものが必要になったのだそう。

▲ 藍液から引き上げられて出てくるのは茶色く染まった和紙。空気に触れることで、みるみるうちに青みがかった色へと変化していきます。

「和紙を染めることは、糸や布を染めるようにはうまくはいかないんです」。

薄い紙だとすぐにシワができてしまったり、折れてしまったり、染めた部分同士がくっつきやすかったり、深い色にしようと繰り返し藍液に漬けると破れてしまったり……。話を聞けば聞くほど、和紙を染めるのは想像している以上に繊細な作業が必要になってくることがわかります。

破れにくくするために、染色前の和紙にこんにゃく糊を塗って耐水性を高めておく、という手間も布染めとは違う工程のひとつ。

▲ 漉き方でもともと模様を付けていた和紙を、藍で染めあげると、より立体的な作品に。

アクを落とすためにしっかり水をかけて流します。
すると見る見るうちに鮮やかな藍色に!

▲ 年中湧き出る伏流水は和紙づくりに欠かせない存在。

また、しばらく水に浸けてアク抜き。その後、しっかりと乾燥させて完成です。

▲ 阿波和紙伝統産業会館の一角にある藍染め工房にて。


暮らしの中に藍染め和紙を

伝統工芸士でもある藤森美恵子さんは、県内外の美術展にも出品。
和紙と藍の双方から生まれる表現の可能性を追求しています。

▲ 場所:日亜化学工業株式会社 鳴門第二工場

「染めた大きな紙を後から何枚も繋げてひとつの作品にしているのですが、色が繋がっているように合わせるのが大変だったんです」。

山並みの重なりを藍染めで表現したという作品づくりでは、特に色のつなぎ目の色の濃さや位置の合わせ方に苦労したそう。「どうやって染めたのかを聞かれることも多いんですが、これだけはごめんなさい」ということから、その大変さが伺えます。

▲ 涼しげな印象の藍染め和紙のうちわ。

阿波和紙伝統産業会館で手にとれる藍染め和紙の作品は、うちわや扇子、トレイなど。

和紙の風合いの温かみも合わさって、落ち着きを感じる美しい商品ばかり。
日本の暮らしに馴染む藍色の日用品を、あなたの生活の中にも取り入れてみてはいかがでしょう。


阿波和紙伝統産業会館
TEL 0883-42-6120
http://www.awagami.or.jp/


藍染 団扇(うちわ) 段染縦 贈答用箱入り

阿波藍染めの涼し気な団扇(うちわ)です。藍色と白色のコントラストが美しい染め模様の団扇は、大きめのサイズなので、インテリアとしても活躍しそう。