[連載コラム][第6回]
今日は、どこから見てみましょうか。

[連載コラム][第6回] 今日は、どこから見てみましょうか。

考えるのが好きなの、かもしれない。

人生の中で、なかなか答えの出ない「問い」を一つでも持つことができれば、人生は豊かになるんじゃないか―。


そう考え始めたのは昨年のちょうど今頃だった。同じものを見ていても、少し角度を変えて見れば全く違う世界が広がっていたり、底しれぬ深さを感じたり。そんな「世界観」を持つことができれば、きっと毎日楽しく過ごせるのでは。

私は上勝町という町で生まれ今も暮らしているが、この町は葉っぱビジネスの「いろどり」と、ごみをできる限りゼロにしようと続けてきた「ゼロ・ウェイスト」という取り組みで有名になった町だ。私の母親が役場でゼロ・ウェイストの担当者だったこともあり、幼い頃からごみの分別を手伝ったり、開催される勉強会などに付いて回ったりしていた。その影響もあって「上勝」と「ゼロ・ウェイスト」というキーワードは、私にとって重要かつごく自然に自分のそばにあるものだった。当たり前だったからこそ、思考が停止していたのかもしれない。取材や大学の講義など、ゼロ・ウェイストについて語る場面が増えれば増えるほど「私の考える『ゼロ・ウェイスト』って何だ?」という問いを持つようになった。

そこからはまるで、沼に落ちたかのようなものだった。これまで何度も使ってきた「ゼロ・ウェイスト」という言葉なのに、考えれば考えるほど違う側面が見えてくる。「この切り口かな?」と関連の本を読んだり、人に話をしてみたりすると新しい世界が顔を出す。そんな発見に触れ、小さな感動を味わう。それと同時に、一つの言葉に隠れている背景が大きく深すぎて怖くもなる。終わりのない個人研究を継続中なのだ。


息子が好きな絵本の一つに、ヨシタケシンスケさんの『りんごかもしれない』(ブロンズ新社)がある。ある日、男の子が家に帰ると机の上に置いてある一つのりんご。しかし男の子は、「本当にりんごなのか?」と疑問を持ち始める。どう見てもりんごなのに。そこから彼の愉快な妄想が広がっていく。本の紹介文には「哲学?妄想?発想力?かんがえる頭があれば、世の中は果てしなくおもしろい」とある。当たり前をじっくりゆっくり捉え直せば、あなたが今まで気づかなかった世界が広がっている、かもしれない。

もうすぐ冬がくる。家に籠もる時間も多くなる。そんな時、ごく自然に自分のそばにある何かをじっくり観察してみてはどうだろう。誰も否定も肯定も止めもしない、妄想時間のすすめである。

昨年書いた自分メモ。ゼロ・ウェイストとは?という問いから始まって、「多様性」や「草刈り」など新しいキーワードが出てきた。汚い字で恥ずかしい……。
『りんごかもしれない』。隣の家のおばあちゃんがくれたもの。

プロフィール
東 輝実 / Cafe polestarオーナー

1988年徳島県上勝町生まれ。関西学院大学総合政策学部在学中よりルーマニアの環境NGOや東京での地域のアンテナショップ企画のインターンを経験。

2012年大学卒業後、上勝町へ戻り仲間とともに「合同会社RDND(アール・デ・ナイデ)」を起業。2013年「五感で上勝町を感じられる場所」をコンセプトに「カフェ・ポールスター」をオープン。その後はカフェを拠点として「上勝的な暮らし」の発掘、情報発信、各種プログラムの開発などに取り組んでいる。2015年、男児を出産し1児の母。