新しく連載コラムがスタートします。書き手は、徳島県の山あいにある上勝町という町で、カフェ「ポールスター」を経営されている東さん。 上勝町は、「ゼロウエ…
「お正月らしさ」を、つくるもの。
師走に入ったかと思えばクリスマスはすぐにやってくるし、大晦日に夜更しをしてお正月を迎え新年の挨拶を済ませれば、もう仕事初め。休みの間に重たくなった身体を起こして仕事をし、2、3日経つと、商売繁盛の神様「えべっさん(えびす祭り)」に茶色く色褪せた笹を手に、祈願に向かう自分がいる。
慌ただしい日々。気づけば1月も十日が過ぎているではないか。「一月往ぬる 二月逃げる 三月去る」とはよく言ったもので、先人たちも同じように時の経つ早さを感じていたのだろう。昔の言葉は現代を生きる私たちの状況・状態をもとても上手く表現してくれる。
毎年12月から1月上旬までの気忙しさと、一旦の区切りを迎える「切なさ」のような雰囲気が私は好きだ。私が幼い頃は今のように元旦から営業する店も少なかった。そのため大晦日から「三が日」までは、みなが家に籠もるので街が静まっていた。寒さや、ときにはしとしとと降る大粒の雪も手伝って、より静寂の度合いを高めていた。年末に家で餅をつき、「おとこ(床の間)」に飾られた神様に鏡餅や「おしめ(しめ縄)」をお供えし、徳島駅近くの中洲市場でお魚やお節料理の材料を買い込むために出かけた記憶がある。そうして迎える正月は、朝一番に庭で木の桶に入った水を手に汲んで顔や口を清め、神様に挨拶をしてから干し柿やお菓子など供え物の中から何か1つを選んで口にする。街がしばし眠り、一連の「儀式」が執り行われる。それがお正月だった。
今では餅やお節料理は購入するし、寒い中で震えながら顔を洗うことも無くなった。いつからか、次第に無くなった。両親が居なくなってよりそのスピードは加速したように思うが、最近では正月となれば夫の実家に帰り、義母に甘えて用意された食事を囲んで家族とゆったりと過ごす「新しい正月」がスタンダードになった。街は眠らず、余暇を持て余す人たちの心と身体を満たそうとショッピングモールが暖かく迎えてくれる。私自身はその変化を楽しみつつも、あの静けさと特別な冷たさを時折懐かしく思うことがある。
昨年12月初旬、所属する上勝町商工会婦人部の小さな忘年会があった。70歳を超えても日本酒をコップに並々と注いでは飲み干すかっこいい先輩達とお正月の話をしていると、お雑煮の話題に。白味噌でつくる家、醤油で餅を煮てお砂糖を加える家、餡入りの餅を入れる家など様々で各家庭の「お雑煮事情」について私は興味深く聞き入った。
「お正月」は人、家族、地域によってそれぞれ。決まりきった「型」というものは今の時代ないのかもしれない。しかし型が無ければ懐かしむことも、お正月が例となるような「日本らしさ」を実感することも薄れていくような気がする。
光陰矢の如し。大切な人たちと限られた時間を濃密に過ごし、共有できるものを瞬時につくってくれる「儀式・習わし」は、これからの時代、私たちに大事な価値観や考え方を授けてくれる知恵ではないか。やはり、先人たちは偉大である。
2022年が始まった。今年もどうぞよろしくお願い致します。
プロフィール
東 輝実 / Cafe polestarオーナー
1988年徳島県上勝町生まれ。関西学院大学総合政策学部在学中よりルーマニアの環境NGOや東京での地域のアンテナショップ企画のインターンを経験。
2012年大学卒業後、上勝町へ戻り仲間とともに「合同会社RDND(アール・デ・ナイデ)」を起業。2013年「五感で上勝町を感じられる場所」をコンセプトに「カフェ・ポールスター」をオープン。その後はカフェを拠点として「上勝的な暮らし」の発掘、情報発信、各種プログラムの開発などに取り組んでいる。2015年、男児を出産し1児の母。