新しく連載コラムがスタートします。書き手は、徳島県の山あいにある上勝町という町で、カフェ「ポールスター」を経営されている東さん。 上勝町は、「ゼロウエ…
うちの皿は、果たしてどのように「うちの皿」になったのか。
「てるみちゃん家の皿、いいのばっかりだね。」
うちに夕食を食べに来て、皿洗いをしていた人が何気なくそう言った。うち、そんな「いい皿」あったかな?彼が言ったことが気になって、家の皿をしげしげと眺めてみる。うちの皿の大半は、お店で使っていて欠けてしまったものか、上勝の「くるくるショップ」という無料のリユースショップでもらってきたものだ。
店の皿には、思い入れが深い。どんな皿を使うのかについて、店を始める前に当店を担当してくれた二人の建築士たちと夫とともに、「うつわ会議」なるものを開いた。徳島市内の雑貨屋さんに集まってもらって、それぞれの器を提案してもらい、コーヒーカップやランチの皿、デザートの皿など、一つ一つ決めていった。朝5時頃まで、何杯もコーヒーを飲みながら、徹夜で話をしたことは良い思い出だ。特にランチ皿は皆で島根まで買いに行った。「どんな器を使うかは、良い空間を作るために極めて重要だ」という設計士の言葉に、それまで「建物」を建てることが設計士だと思っていたけれど、「空間づくり」が設計士の仕事だと知って、その奥深さと細部にこだわる大切さを学んだ。
一方、「くるくるショップ」からきた器は、なぜだか少し、温かみを感じる。新品の皿も良いけれど、使い込まれた「お宝」を見つけて、家に連れて帰る(持ち帰りは誰でも無料で可能。ユースされた量を記録するために、持ち帰り時には計量にご協力を)。上勝町民限定で持ち込みが許されていることも、親しみ感じる要素かもしれない。誰だかわからないけれど、ここで暮らしている人の家で使われていたものが、今私の家で使われている。
器は、その人の価値観が出やすいアイテムかもしれない。私の母の友人で、亡くなった旦那様が陶芸をしていた方がいる。絵付けは奥さんの担当。若い頃、ネパールやインドを旅していた時に影響を受けた絵柄や、上勝の花などが登場する。彼女の家にいくと、いつもその素敵な器のもてなしに感嘆する。当たり前のように「自分たちの器」を使っている風景をみて、贅沢だなと感じる。毎日使うものだからこそ、値段に関係なく、自分の好きな器を使うこと。それは誰にでもすぐにできる、自分を幸せにする方法なのだろう。
そう考えれば、たしかに我が家の皿は、「なぜここに?」と疑問符がつくものはない。先に述べたような思い出や、自分の心が動いたものなど、すべて理由があって、ここにある。
うちの皿たちよ、なんでも「めぐ(壊す)」私だけれど、これからもよろしく。
プロフィール
東 輝実 / Cafe polestarオーナー
1988年徳島県上勝町生まれ。関西学院大学総合政策学部在学中よりルーマニアの環境NGOや東京での地域のアンテナショップ企画のインターンを経験。
2012年大学卒業後、上勝町へ戻り仲間とともに「合同会社RDND(アール・デ・ナイデ)」を起業。2013年「五感で上勝町を感じられる場所」をコンセプトに「カフェ・ポールスター」をオープン。その後はカフェを拠点として「上勝的な暮らし」の発掘、情報発信、各種プログラムの開発などに取り組んでいる。2015年、男児を出産し1児の母。