考えるのが好きなの、かもしれない。 人生の中で、なかなか答えの出ない「問い」を一つでも持つことができれば、人生は豊かになるんじゃないか―。 そう考え始…
BELLS OF PARADISE /パラダイスの鐘
9年お店をやっていると、「よくある質問」ができてくる。
当店の「よくある質問ベスト3」を紹介すると、「お店はできて何年目ですか?」が第3位。第2位は「この植物は何という名前ですか?」という庭の草花に関する質問。そして堂々の第1位は「この風鈴、どこで買ったんですか?」である。
「風鈴」と書いたが、そう呼ぶには少し大きすぎる気もする。いや、かなり大きい。吊るす部分から下の風を受けるパーツまでを合わせると、全長81cm、幅が15cmほどで、一つ一つ異なる音を奏でるバー(筒)は、リレーバトンのように太い。徳島市内の雑貨屋さんで5年ほど前に購入したもので、買った当初は店の玄関ドアに吊るす計画だった。お客さまが来たときにドアを開ければ鳴る、「カラン」という音を想像していた。
しかしながら、ドアにかけておくにはやっぱり大きすぎた。「なぜこんな大きな物を買ったんだ」と、夫からもブーブー言われた。もっと計画的に大きさを選べばいいのに、と。仕方なく、自宅に持ち帰り、風が通りそうな所にかけてみる。鳴らない。風が足りないのか? 場所が悪いのだろうか? どちらにせよ、家で飾るにしても大きすぎた。夫の顔が頭をよぎる。どこに吊るせば、本来の持ち味を発揮できるだろう。
試行錯誤の末に行き着いたのは、店先のビワの木の枝だった。しなやかに揺れる枝にS字フックをかけて吊るすと、たちまち風を受けて美しい音色が響いた。高音過ぎず、低音でもない音は、心が落ち着く、どこか聞き慣れた音のように感じる。
何と近いんだっけ。耳を澄まして考えていると、その和音は鳥たちの鳴き声に似ていた。さまざまな種類の鳥たちが、そのときどきに鳴く上勝の日常。大きすぎる風鈴は自然の中に晒(さら)される結果になったけれども、緑の山々や庭の木々に囲まれ、鳥たちが仲間と交信し合う「ポールスターから見える風景」と、とても良く調和している。そよそよと風が吹けば、いくつかのバーだけが鳴って、少し寂しく聞こえる。反対に、嵐のような強い風が吹くと、ピアノの鍵盤をデタラメに弾いたときにように、すべての音が激しく鳴る。
その音に、ご来店いただく多くのお客さまが反応を示してくれる。きっとその音がここに「フィットしている」という感覚を共有できているのだろう。自然の中で奏でる音が癒しになっているようだ。写真を撮ってくださる方もいる。そして、冒頭の第一位の質問、「どこで買ったんですか?」と、聞かれるのである。店で販売することを検討しようかな、と考えるほど、多くの人たちを魅了している。
この風鈴を作っているのは、「ウッドストック・パーカッション(ウッドストック・チャイム)社」で、1979年にニューヨークのハドソンバレーという地域で設立されたそうだ。“美しい光景と音を通じて幸福感を高めること“を会社の使命と掲げている。そしてこの商品名は「ウィンド・チャイム」。「チャイム」と名前がついているため、そう呼んだ方が正しいのだろう。さまざまな音色があり、当店のチャイムは「BELLS OF PARADISE(ベルズ・オブ・パラダイス)」という名前がついている。そう、「パラダイスの鐘」。
今年は梅雨が短く、暑い日が続いているが、上勝の山の中にあるカフェで耳を澄まし、少しの間だけでも暑さを忘れてチャイムの音色に癒されてほしい。
プロフィール
東 輝実 / Cafe polestarオーナー
1988年徳島県上勝町生まれ。関西学院大学総合政策学部在学中よりルーマニアの環境NGOや東京での地域のアンテナショップ企画のインターンを経験。
2012年大学卒業後、上勝町へ戻り仲間とともに「合同会社RDND(アール・デ・ナイデ)」を起業。2013年「五感で上勝町を感じられる場所」をコンセプトに「カフェ・ポールスター」をオープン。その後はカフェを拠点として「上勝的な暮らし」の発掘、情報発信、各種プログラムの開発などに取り組んでいる。2015年、男児を出産し1児の母。