[連載コラム][第14回]
今日はどこから見てみましょうか。

[連載コラム][第14回] 今日はどこから見てみましょうか。

BELLS OF PARADISE /パラダイスの鐘


9年お店をやっていると、「よくある質問」ができてくる。


当店の「よくある質問ベスト3」を紹介すると、「お店はできて何年目ですか?」が第3位。第2位は「この植物は何という名前ですか?」という庭の草花に関する質問。そして堂々の第1位は「この風鈴、どこで買ったんですか?」である。


「風鈴」と書いたが、そう呼ぶには少し大きすぎる気もする。いや、かなり大きい。吊るす部分から下の風を受けるパーツまでを合わせると、全長81cm、幅が15cmほどで、一つ一つ異なる音を奏でるバー(筒)は、リレーバトンのように太い。徳島市内の雑貨屋さんで5年ほど前に購入したもので、買った当初は店の玄関ドアに吊るす計画だった。お客さまが来たときにドアを開ければ鳴る、「カラン」という音を想像していた。


しかしながら、ドアにかけておくにはやっぱり大きすぎた。「なぜこんな大きな物を買ったんだ」と、夫からもブーブー言われた。もっと計画的に大きさを選べばいいのに、と。仕方なく、自宅に持ち帰り、風が通りそうな所にかけてみる。鳴らない。風が足りないのか? 場所が悪いのだろうか? どちらにせよ、家で飾るにしても大きすぎた。夫の顔が頭をよぎる。どこに吊るせば、本来の持ち味を発揮できるだろう。

今ではすっかり店の大切なアイテムの一つとなって活躍しているチャイム。

試行錯誤の末に行き着いたのは、店先のビワの木の枝だった。しなやかに揺れる枝にS字フックをかけて吊るすと、たちまち風を受けて美しい音色が響いた。高音過ぎず、低音でもない音は、心が落ち着く、どこか聞き慣れた音のように感じる。


何と近いんだっけ。耳を澄まして考えていると、その和音は鳥たちの鳴き声に似ていた。さまざまな種類の鳥たちが、そのときどきに鳴く上勝の日常。大きすぎる風鈴は自然の中に晒(さら)される結果になったけれども、緑の山々や庭の木々に囲まれ、鳥たちが仲間と交信し合う「ポールスターから見える風景」と、とても良く調和している。そよそよと風が吹けば、いくつかのバーだけが鳴って、少し寂しく聞こえる。反対に、嵐のような強い風が吹くと、ピアノの鍵盤をデタラメに弾いたときにように、すべての音が激しく鳴る。


その音に、ご来店いただく多くのお客さまが反応を示してくれる。きっとその音がここに「フィットしている」という感覚を共有できているのだろう。自然の中で奏でる音が癒しになっているようだ。写真を撮ってくださる方もいる。そして、冒頭の第一位の質問、「どこで買ったんですか?」と、聞かれるのである。店で販売することを検討しようかな、と考えるほど、多くの人たちを魅了している。

いろいろな音が作られている。サイトでは試聴も可能。

この風鈴を作っているのは、「ウッドストック・パーカッション(ウッドストック・チャイム)社」で、1979年にニューヨークのハドソンバレーという地域で設立されたそうだ。“美しい光景と音を通じて幸福感を高めること“を会社の使命と掲げている。そしてこの商品名は「ウィンド・チャイム」。「チャイム」と名前がついているため、そう呼んだ方が正しいのだろう。さまざまな音色があり、当店のチャイムは「BELLS OF PARADISE(ベルズ・オブ・パラダイス)」という名前がついている。そう、「パラダイスの鐘」。


今年は梅雨が短く、暑い日が続いているが、上勝の山の中にあるカフェで耳を澄まし、少しの間だけでも暑さを忘れてチャイムの音色に癒されてほしい。


プロフィール
東 輝実 / Cafe polestarオーナー

1988年徳島県上勝町生まれ。関西学院大学総合政策学部在学中よりルーマニアの環境NGOや東京での地域のアンテナショップ企画のインターンを経験。

2012年大学卒業後、上勝町へ戻り仲間とともに「合同会社RDND(アール・デ・ナイデ)」を起業。2013年「五感で上勝町を感じられる場所」をコンセプトに「カフェ・ポールスター」をオープン。その後はカフェを拠点として「上勝的な暮らし」の発掘、情報発信、各種プログラムの開発などに取り組んでいる。2015年、男児を出産し1児の母。