[連載コラム][第17回]
今日は、どこから見てみましょうか。

[連載コラム][第17回] 今日は、どこから見てみましょうか。


衣替えを始めたら、普段の風景を変えることに。


ここ最近、休日ともなれば掃除や片付けをする日が増えた。10月に入っていきなり寒くなり、衣替えを急いだせいもあるだろう。長袖のパーカーや、今の時期しか着られないような薄手のコートなど、秋冬物の衣類を引っ張り出し始めると、「掃除スイッチ」が入ったようだ。服の整理だけで終わらずに、本や生活用品などの片付けをしている。


最初に断っておくと、私自身は掃除が苦手なタイプだ。夫の方がその点、しっかりしている。このコラムでも何度か「ごみ」のことについて書いているが、実は夫の方が家庭のごみの分別は得意だ。上勝町ではごみ収集車が走っていないため、町内一ヶ所の回収拠点「ごみステーション」に住民自らがごみを持ち込む形式で収集している。我が家では2週間ほどすればごみが溜まってくるので、その度に夫が家のごみを車に乗せ、出しに行ってくれている。「得意だ」と書いたが、私が溜め込んでしまう性格なので、そんな私を見兼ねて、彼が仕方なく持っていってくれているとも言える。そんな不精者の私が、休日になれば片付けや部屋の模様替えをするようになったのは、なぜなのか。

上勝町の資源回収拠点「ごみステーション」。自分達のタイミングで毎日持ち込みが可能。

上勝町にUターンして、はや11年が経とうとしている。戻る前は、あらゆる土地に暮らしていた。高校時代は徳島市内で一人暮らしをしていたし、大学時代は兵庫で過ごした。大学3年生の時には、ルーマニアという東欧の国に2ヶ月ほどインターンに行ったし、大学4年時には1年間休学をして、東京の両国というお相撲さんの町で暮らしたこともある。


だから私にとって、11年も上勝に住み続けているという事実はちょっとした驚きであった。帰りたくて帰ってきた町。心地よくて、気が付けば時が過ぎていたという感覚にも近い。


その一方で、「この町でこの先も暮らすのだろうか? 環境を変えることはないんだろうか?」次に浮かんだのはそういった類いの質問だった。他の地域で暮らすことにも興味はあるし、まだまだ行きたいところもたくさんある。でも、環境を大きく変えることって、今すぐには難しそう……。


「環境を変える」ことは何もどこかに自分の身を移すことだけじゃない。毎日を過ごす部屋を整えることもその方法の一つでは。


改めて家について考えてみる。食卓は家族や友人と一緒にテーブルを囲むことができる“集まる場所”だと、すぐに思い当たった。では、寝室は? お風呂場は? あの大量の本や雑貨で眠っている部屋は?

自宅図書館化計画は静かに進行中。

自分の暮らしに意識的になると、どうしたいかが、自ずと見えてくる。新しいワークスペースが欲しいな。本をちゃんと整理して、息子の友達が来た時にも彼らが使える「自宅図書館」も作りたい。

寝室の一角に新しく作ったスペース。あたかも仕事しているかのように演じる息子。

掃除と片付けが苦手な私が、休日に空間の手入れをする。新しい環境を作るために。寝室の窓は、ただの窓だったところから、新しく作ったワークスペースから見える風景を切り取るフレームとなった。


衣替えから、思いがけず家の模様替えに発展してしまった。しかしながらこれ、実は秋が来て少しセンチメンタルな気持ちになっただけの、衝動的なものである気もしているが、部屋が片付くことを嫌がる人はいないので、またそれも良しとしよう。


プロフィール
東 輝実 / Cafe polestarオーナー

1988年徳島県上勝町生まれ。関西学院大学総合政策学部在学中よりルーマニアの環境NGOや東京での地域のアンテナショップ企画のインターンを経験。

2012年大学卒業後、上勝町へ戻り仲間とともに「合同会社RDND(アール・デ・ナイデ)」を起業。2013年「五感で上勝町を感じられる場所」をコンセプトに「カフェ・ポールスター」をオープン。その後はカフェを拠点として「上勝的な暮らし」の発掘、情報発信、各種プログラムの開発などに取り組んでいる。2015年、男児を出産し1児の母。