考えるのが好きなの、かもしれない。 人生の中で、なかなか答えの出ない「問い」を一つでも持つことができれば、人生は豊かになるんじゃないか―。 そう考え始…
心地よい季節、本が無性に読みたくなって。
美しい季節だ。木々は紅葉し、空は青く晴れ渡っている。うろこ雲がずっと遠くまで続き、
夕方になればピンクやオレンジが混じった夕焼けが鮮やかに一帯を染める。朝、犬の散歩をしていると、上勝特産の柑橘「ゆこう」を搾る匂いが、どこからともなく漂ってくる。「コッ。コッ」と小さく連続的に聞こえる音は、アスファルトにどんぐりが落ちる音だ。
太陽が山の高さを越えて、我が家に陽が当たりはじめるのは朝8時頃。カフェは10時を過ぎても、まだ日が差さない。その後、やっと温かくなったと思うのも束の間、14時を過ぎると途端に日が陰り、風も冷たくなる。今日も一日が終わる。暗さがどんどん迫ってくる。早く家に帰りなさい、と言われているようだ。
日中過ごしやすくなるこの季節は、気持ちを軽やかにしてくれる。週末ともなれば、イベントが至る所で行われていて、そこに向かう自身の足取りも軽い。美味しい食材も次から次に旬を迎えるから、あれもこれも食べたい!とついつい食べ過ぎてしまう。
夜は長く、家で映画を見たり、友人とたわいもない話を延々と続けたりする時間もできてしまう。
そして、この季節は自然と読書欲が湧いてくる。「○○の秋」と様々な言い方があるが、昔から私たち人間の習性は変わっていないのだろう。秋になれば、無性に本に触れたくなる。
先日、上勝町にフィールドワークでやってきた大学生に「最近どんな本を読んでいますか?」と聞かれたので、いくつか答えたのだが、改めて自分の周りに置かれている本を並べてみることにした。
「村上春樹」という文字を見つけたら、ほとんど条件反射で購入してしまう。高校生の時に友人からすすめられて読んで以降、彼の作品はいろいろと読んだ。『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』が一番のお気に入り。彼のラジオ番組を聴きながら事務作業をする時間は、私が好きな時間の一つである。小説に出てくる料理をまとめたレシピ本もあって、それを見ながらいくつかの料理を作ってみたこともある。
幼い頃、我が家では漫画が禁止されていた。「想像力を失ってしまうから」という理由だった。大学生になって、友人たちが漫画の話に花を咲かせている時に、私は話題に入れずにいた。とてつもない疎外感だった。その反動だろうか。最近では自らすすんで漫画を読むようになった。『宇宙兄弟』や『3月のライオン』などから始まり、今年は『スラムダンク』を人生で初めて読んだ(やっと安西先生が誰だかわかった)。
ここ最近読んだ漫画の中で最も印象的だったのが、隣町で古書店を営む友人に借りた『ファイアパンチ』である。今の自分にとても刺さる内容であり、描き方が凄まじくて驚いた。漫画は、こんなにも物事の見方を自由にしてくれるのか。今になって、そう感じ入りながら読んでいる。息子には、いくらでも読んでいいと言いたい。
自分が知らない世界を覗かせてくれたり、作者独自の物事の捉え方を教えてくれたりする本に、特に惹かれる。先日、東京に行っていた友人がお土産に、とくれた『茶と美』という古書。近頃、私が「茶室が欲しい」と言っているのを覚えていてくれたようで、買ってきてくれた。この本を読むと「物を見る」ことについて書かれていた。そこにはこんな文章がある。
「誰だとて物を見てはいぬ。見ても見誤れば見ないにも等しい」。この一文だけでも痺れる。今見ている物を、物事を、正しく見ているだろうか。正しく見るとは、どういうことだろうか。そんな疑問が湧いてきて、ワクワクする。
はてはて。いろいろな本はあるものの、多くは積読状態。夜はこれからもっと長くなる。少しずつでも読み進めたい。しかしながら、夜になるのが早くなれば、私の体内時計も早まる。「もう寝ましょう」と瞼を重くし、体を横に倒すように言ってくる。しょうがない、早起きを頑張るか。
「読書の秋」のための「早起きの秋」がやってきた。
プロフィール
東 輝実 / Cafe polestarオーナー
1988年徳島県上勝町生まれ。関西学院大学総合政策学部在学中よりルーマニアの環境NGOや東京での地域のアンテナショップ企画のインターンを経験。
2012年大学卒業後、上勝町へ戻り仲間とともに「合同会社RDND(アール・デ・ナイデ)」を起業。2013年「五感で上勝町を感じられる場所」をコンセプトに「カフェ・ポールスター」をオープン。その後はカフェを拠点として「上勝的な暮らし」の発掘、情報発信、各種プログラムの開発などに取り組んでいる。2015年、男児を出産し1児の母。