第1回<後編> そば米のある町と山 【前編】では“にし阿波”ならではの傾斜地を訪ねました。後編では、“にし阿波”の伝統的な傾斜地農法で400年以上にわ…
はじめに
“日本の原風景”を感じる風景や文化に出合うことができる場所として、近年、徳島県内で注目のエリアというのが“にし阿波”。県西部に位置する「三好市」、「美馬市」、「つるぎ町」、「東みよし町」の2市2町の総称で、吉野川を挟んで、北岸には標高1060メートルの竜王山を含む讃岐山脈、南岸には徳島県最高峰の標高1955メートルの剣山を含む四国山脈という険しい山々が連なっています。海外でも知名度の高い三好市の祖谷地区をはじめ、山間部を中心に独自の食文化や伝統が色濃く残る、徳島の“桃源郷”です。
徳島市内から高速道路で西に向かって2時間弱。“にし阿波”を訪れ、その山や町の暮らしを知り、そこから見えてくる魅力をシリーズでご紹介します。
第1回前編は“にし阿波”を象徴する景観のお話です。
第1回<前編> そば米のある町と山
箸蔵山から“にし阿波”を望む
海が近くて川が多い徳島市内に住んでいると感じにくいけれど、徳島県の約8割は山地だそうです。四国の真ん中に源流を持ち、徳島県を西から東に向かって横断して流れる吉野川の沿岸をよく観察しながら上流に向かって並走すると、徐々に山深い風景になっていく様に気付かされます。
吉野川沿いに形成された徳島平野に広がる市街地を抜けると次第に田畑が増え始め、吉野川上流に近づくにつれて周囲は山、山、山、と景色は移り変わります。
露天風呂やキャンプ場等のレジャー施設を併設した、県西部の観光スポット「吉野川ハイウェイオアシス」に到着。吉野川インターチェンジから高速道路を下りたあと、「この辺りの全景を眺めたい」と思い立ってまず向かったのは、池田町にある箸蔵山ロープウェイ。
このロープウェイに乗れば、たった約4分の乗車で、箸蔵山の山腹に建つ箸蔵寺の境内まで辿り着きます。きっとそこからならこの辺りを一望できるはず! と、15分毎にやってくる発車時間を待って、ロープウェイに乗り込みました。
箸蔵寺の境内へ着くと、さっそく眺めの良い場所を探すためカメラを持ってうろうろ。山下の町並みが見られる場所を探しましたが、雄大な四国山脈が望める一方で、残念ながら目の前の木々に阻まれて町並みを見下ろすことができません。
せっかくなので帰りの乗車時間まで境内を散歩していると、納経所から「こちらは初めてですか?」との声が。事情を話すと「それならすぐ隣の船原集落に行けば眺めが良い場所があるかもしれないですよ」とありがたいお言葉をいただくことができました!
278段もの石段を息切らしながら登って本殿を拝んだあと、うなだれるように帰りのロープウェイに乗り込み、携帯電話で教えてもらった場所までのルートを検索。その集落の人しか通らないような山道を車で走って約8分後、突如パッと視界が開け、四国山脈の尾根が遠くまで見渡せる絶景ポイントにたどり着きました!
船原集落の最頂部にあるそこからは、眼下に吉野川や東みよし町の南岸やつるぎ町の半田地区、貞光地区などの町並みが見渡せます。雲の下、ひときわ飛び出た高い尾根は、剣山や次郎笈など徳島県最高峰の山々でしょうか。
この“にし阿波”の山々には、なんと200近くの集落が点在していると言います。しかも険しい山肌を這うような厳しい斜面に集落が形成され、その傾斜地を利用した農耕やそれに伴う行事や食文化が発展してきました。そうして400年以上もの間、“にし阿波”独自の伝統的な暮らしが育まれてきたのです。
急斜面で畑を耕して400年以上
厳しいところでは傾斜度40度近くにもなるという“にし阿波”の傾斜地。均等に日光が当たる土地を確保できるということから、急斜面をそのまま畑に利用し、そのための技術や知恵を発展させてきたこの地ならではの農耕は、「傾斜地農耕システム」と呼ばれています。2018年には、国連食糧農業機関により「世界農業遺産」に認定されました。
詳しくは「にし阿波の傾斜地農耕システム」で知ることができます。
稲作に不向きな土地柄、400年以上に渡り米の代わりとして雑穀栽培が盛んに行われてきたと言います。そんな雑穀文化のなかでも徳島らしい食文化と言えば「そば米」です。
ソバの実を収穫したら粉にして蕎麦にするのが一般的ですが、ソバの実を塩茹でして殻を取り除き、乾燥させたものを「そば米」と呼んでいます。そば米とともに、ニンジンやシイタケなどの野菜と鶏肉を出汁で煮込んだ「そば米雑炊」は、徳島の郷土料理として“にし阿波”のみならず県内の給食で提供されるほど県民に親しまれている一品です。
2021年には、そんな伝統的な食材「そば米」を使ったお菓子が発売されたことが話題に。後編では「そば米」について深掘りしていきます。