上勝 定点観測室「INOW(いのう)」より
[第2回]上勝に軸足を置きながらも。

上勝 定点観測室「INOW(いのう)」より<br>[第2回]上勝に軸足を置きながらも。

INOWは、主に海外から上勝町を訪れる方々に向けた体験プログラムです。“ゼロ・ウェイスト”というごみをできる限り作らないことを目的とした取り組みを、上勝町では町ぐるみで実践しています。その町の暮らしやごみ分別のシステム(上勝はごみを45種類に分別)を見てみたいと、世界各国から視察や観光客が訪れるようになりました。2020年から始まり、延べ30カ国、300名くらいの方が参加されました。

私たちが暮らす場所は変わらず上勝だけれど、取り巻く環境は変わっていく。
人口1300人の小さなこの町に、どんな人たちが来ていて、滞在中は何をしているのかを書いていくことで、上勝に対する解像度が高まることを期待しています。

上勝 定点観測室「INOW(いのう)」、楽しみながら読んでいただけたら幸いです。


[第2回]上勝に軸足を置きながらも。 (2024年4月27日〜5月26日観測)

「あぁ、5月を体調も崩さずに走り切った自分に乾杯‼」と言いたくなるような1ヶ月を終えました。今は6月も半ば。振り返りも含めて、この定点観測記録を書いています。

怒涛も怒涛。4月末から始まったGW、カフェ・ポールスターは休日を返上してお店を営業。それと同時に、5月17日・18日に東京で開催された上勝町主催のイベント「FUTURE BEER GARDEN」への出店を控えていたので、イベント用の準備も並行して進める日々。

5月9日には京都の南山城村のレストラン「山のテーブル」から對中(たいなか)さん、柳本さんを招いての<葉っぱを使った食事会>を開催しました。

「山のテーブル」さんを招いた食事会での一皿。葉っぱ、花は全て「つまもの」として上勝で生産され、出荷されている商品。飾りだけでなく、全て食べることができます。

5月下旬にはアメリカ イリノイ州から、サステナブルデザインを学ぶ大学生16名のINOWプログラム参加や、日本全国各地から20名ほどの参加者を迎えての町内イベントの予定があり、もうこれだけでお腹いっぱいな感じだったのですが……。

なんと、このタイミングで国際連合人口基金(UNFPA)の日本事務所から5月15日・16日にバングラデシュの首都ダッカで開催される、国際人口開発会議(ICPD)の30周年を記念した国際会議でのセッション登壇の打診が!

「えーーー待ってー! 気持ちが追いつかない! でも行きたい!」ということで、波乱の5月を駆け抜けることになったのです。

国際会議のオープニングセレモニーの様子。バングラデシュに首相がいらっしゃるということで、警備も厳重でした。

いろいろな物事が重なると、人間、ランナーズハイ状態になるものですね。

なんだか無駄に元気。周りからも心配されるくらいに元気。その一方で、ストレスから寝ても疲れが取れないし、気を抜けば吐き気が襲ってくるほどの緊張を感じていました。特にバングラデシュは訪れるのも初めてだったし、英語でのプレゼンテーションや、ディスカッションが予定されていたので、とてつもなく緊張していました。

いろんな事がやりたい性分なのですが、さすがに今回は詰め込みすぎたかな? と少し反省したものの、今こうして懐かしさも含めて記録できているのは、周りの人たちのおかげです。

東京最終日の片付けの様子。東京のど真ん中で美しいビルに囲まれながら、みんなで分別する様子が印象的でした。

東京のイベント(FUTURE BEER GARDEN)は、これまでカフェが出店したイベントの中で一番集客見込みが多いイベントということで、商品選定や価格づけ、製造数についてはかなり悩みました。また、直前で私が国際会議に出席することになったため、前日準備やイベント初日はカフェスタッフに任せるしかありません。

16日の朝に東京入りする予定のスタッフたちから、空港までの道中で渋滞にはまってしまい、もしかしたら飛行機に乗り遅れるかもしれないと連絡があったのは、バングラデッシュの現地時間の朝4時半頃。手に汗をかきながら、スマホを握り、飛行機に乗れなかった時のシミュレーションをしていた自分を覚えています(結局間に合ったからよかった!)。

出発前夜の様子。シルは私のプレゼン資料を作ってくれていて、カナは東京イベント用の上勝阿波晩茶のパッキング中。夜遅くまでありがとう…!

私がバングラデシュに出発する前夜、遅くまでシルは私のプレゼンテーション資料を何度も作り直してくれていました。カナは、彼女自身が以前2年ほどバングラデシュで暮らしていた経験から、現地のビザや事前提出書類の英語チェック、おすすめのバングラ音楽を紹介してくれるなど、2人がフルサポート。本当に、このサポートなしでは私は何もできなかった。出発日の朝は激励に来てくれるなど、優しく温かく、心強い2人がいたからこそ国際会議に登壇するという無謀な挑戦ができたと思っています。

そのほかにも、会う人会う人に「私が無事5月を乗り越えたら、抱きしめてください」とお願いしていました(笑)。その度に、笑顔で送り出してくれ、帰った時に温かく迎えてくれた方々には本当に感謝です。

さて、「国際会議で東は何をしたの?」と思う方もいると思うので、少しだけ説明を。

今回は、世界の人口動態と持続可能性が会議全体のテーマで、その中でも私は「No one left behind(誰も取り残さない)」をテーマとしたセッションに登壇させてもらいました。同じセッションには、ベトナムやボスニア・ヘルツェゴビナ、パキスタンからの登壇者がいて、それぞれの地域や取り組みを紹介した後、参加者と個別のディスカッションに移るという形。

私は上勝町の<いろどりビジネス>や<ゼロ・ウェイスト>など、これまでの上勝における産業や暮らしの変化に町がどう対峙してきたかについて説明し、少子高齢化社会の現状とこれからについてお話しさせてもらいました。ちゃんとしゃべれたのかどうかも、スポットライトの光の強さと緊張で、あまり記憶がありません(苦笑)。ただ、この場に立てたことがとてもありがたく、楽しかった感覚は覚えています。

セッション登壇者たちと。ちなみに、今回私が会議に持って行った服は町内の「くるくる工房」や「KINOF」で作っているものばかり。写真のジャケットが「KINOF」の藍染ジャケット。パンツは黒の夏着物をリメイクしたもの。熱帯気候のバングラデシュでも心地よく着られました。

6月はちょっと落ち着くかな?と思っていますが、4月末にINOWプログラムに参加してくれた台湾のYouTuberイアンさんの動画をご覧いただいた方々から、多くの問い合わせをいただいている状況で、ちょっとソワソワしてきました。

上勝町という小さな町の具体的なアクションは、「Think Globally, Act Locally(世界規模で考え、地域レベルで行動する)」という言葉を体現していると改めて実感する日々です。




プロフィール
東 輝実 / 
合同会社RDND 代表社員
カフェ・ポールスター オーナー
INOWプログラム共同創業者

1988年徳島県上勝町生まれ。関西学院大学総合政策学部在学中よりルーマニアの環境NGOや東京での地域のアンテナショップ企画のインターンを経験。

2012年大学卒業後、上勝町に帰郷し「合同会社RDND(アール・デ・ナイデ)」を起業。2013年「五感で上勝町を感じられる場所」をコンセプトに「カフェ・ポールスター」をオープン。2020年上勝滞在型体験プログラム「INOW」を共同創業。