小さな町上勝と世界の物語
[第4回]世界に届け!上勝の味。

小さな町上勝と世界の物語 [第4回]世界に届け!上勝の味。

INOWは、主に海外から上勝町を訪れる方々に向けた体験プログラムです。“ゼロ・ウェイスト”というごみをできる限り作らないことを目的とした取り組みを、上勝町では町ぐるみで実践しています。その町の暮らしやごみ分別のシステム(上勝はごみを45種類に分別)を見てみたいと、世界各国から視察や観光客が訪れるようになりました。2020年から始まり、延べ30カ国、300名くらいの方が参加されました。

私たちが暮らす場所は変わらず上勝だけれど、取り巻く環境は変わっていく。
人口1300人の小さなこの町に、どんな人たちが来ていて、滞在中は何をしているのかを書いていくことで、上勝に対する解像度が高まることを期待しています。

上勝 定点観測室「INOW(いのう)」、楽しみながら読んでいただけたら幸いです。


[第4回]
世界に届け!上勝の味。―イタリア、テッラー・マードレへ。
(2024年9月2日〜10月13日観測)


上勝特産の柑橘「柚香(ゆこう)」が産直市の店頭に並び、金木犀の香りと心地よい風、そして雲ひとつない晴れた空、秋祭りのだんじりの音。秋が進む中、INOWチームの9月は大忙しの1カ月となりました。今回はおもに、上勝町から海外へ飛び出した、私たちの活動をお届けします!

9月2日から5日は、とある研究機関が主催するSDGsツアーのフィールドワークの受け入れ。世界各国から集まった20名ほどの学生が上勝に来てくれました。私は4日から、上勝を出て6日までの2泊3日で宮城県石巻市を視察。その週末には、シルがベルギーに向けて出国。1週間後にカナちゃんも出国し、私も東京出張を経て月末にイタリアへというスケジュール……。今改めて書くと、恐ろしいスケジュールです。

「テッラ・マードレ」の広い会場の一部。FIATという自動車メーカーの工場跡地を再利用している。

9月は上勝町を世界に向けて発信する、グローバルプロモーション期間! と自分たちで定め、ヨーロッパを中心としたPR活動を行いました。

シルとカナはベルギーに拠点を置く「ゼロ・ウェイスト ヨーロッパ」という組織を訪問し、情報交換会を実施。その後、9月26日から30日にかけては、イタリアのトリノ市で開催された「テッラ・マードレ」という食の国際イベントに参加。その後、カナは単独シンガポールに飛び、「シンガポール・デザイン・ウィーク(シンガポール独自のデザインとクリエイティブ精神を祝う11日間の祭典)」にゲストスピーカーとして登壇。

上勝に全員が戻ったのは10月5日。6日から9日まではアメリカからのゲストを迎えてのプログラムを実施。10日と11日は、私が5月に参加したバングラデシュでの国際会議でお世話になった方々の来町対応。カナとシルはロシアからのメディアクルーのアテンド。10月の今なお、息つく暇もない刺激的な日々を送っています。

「テッラ・マードレ」は、スローフード・インターナショナルという非営利の国際団体協会が、2004年から2年に一度開催している食の祭典です。世界中から生産者やシェフ、学者、活動家など、食にまつわる仕事をしている人たちが集まります。各国の食文化交流や理解を深めることを目的に、各々の商品を販売したり、パネルディスカッションやテイスティングなどを行ったりしています。

上勝阿波晩茶のお茶漬けを振る舞うカナ。彼女は途中、通訳やお茶の試飲会等も担当していて本当に大変だったと思います……!

今回上勝町からは、町内で柚香を生産している「シシトトラ―浅野農園―」の浅野秀美さんと、カナが日本代表として選出され、ゆこう果汁を効かせた上勝伝統のかきまぜ寿司のおにぎりや、上勝阿波晩茶を使ったお茶漬けなどを振る舞い、様々な国の人たちに“上勝の味”を体験してもらいました。

上勝阿波晩茶のティーテイスティングの様子。多くの人が、晩茶の製造過程や味に興味をもって話を聞いてくれました。

日本ブースには日本酒や醤油、ワイン、たこ焼きなど生産者30名を含む、総勢90名が参加。イベント会場全体の中でも人気のブースの一つでしたが、そこで「YUKOU」という文字の看板が掲げられ、かきまぜ寿司おにぎりやお茶漬けを、いろんな人が手に取っている様子は感慨深かったし、浅野さんやカナがこのイベントに自ら挑戦し、自分たちの手で上勝や特産品を必死になってPRしている姿は、とても眩しかったです。

また、一緒に行っていた息子が「ジャパニーズ・ライスボール!」と言って看板を持って宣伝に回り、どういう手順で準備すれば、お客さんを待たせずに商品を提供できるのか。どんなディスプレイをすれば魅力的に見てもらえるのか。それらを試しながら、頑張って売ろうとする姿に母ちゃんはグッときました!

息子、いい経験をさせてもらったね。浅野さん、カナ、ありがとう! 私はイタリア語で「おむすびはいかがですか?」というポップを掲げていたみたいです(無我夢中すぎて、帰ってから意味を調べた私 笑)。

トリノの後、私たち家族は少しお暇をもらい、ボローニャやミラノを周りました。食べて歩いて食べた10日間。行く先々で、個人的に美味しかったものを買い込んだら、帰る頃にはスーツケースは22kgになっていました(23kgが限度だったのでジャストフィット!笑)。

余談ですが、ミラノにある「Non Solo Lesso」というお店が、この旅で一番のお気に入り店に。美味しすぎて滞在中2回訪れ、同じものを注文しました。特に「オッソブーコ」という仔牛スネ肉のトマト煮とサフランリゾットが、めちゃくちゃ美味しい!!!

自分が旅をする側だと、1カ所に長期間滞在するときには、やはりキッチンつきの宿だったら便利だなとか、田舎でもクレジットなどのキャッシュレス決済が可能だと安心だなとか、その場所の伝統的なものを見たり食べたり体験したいという気持ちが湧くものだなと、改めて実感しました。

今回は料理教室にも参加をしたのですが、一人当たりのレッスン料や内容、時間の使い方などは大変勉強になりました。上勝でも、カフェでもできるかも! そんな、新しい可能性が具体的に見えたのは収穫でした。




プロフィール
東 輝実 / 
合同会社RDND 代表社員
カフェ・ポールスター オーナー
INOWプログラム共同創業者

1988年徳島県上勝町生まれ。関西学院大学総合政策学部在学中よりルーマニアの環境NGOや東京での地域のアンテナショップ企画のインターンを経験。

2012年大学卒業後、上勝町に帰郷し「合同会社RDND(アール・デ・ナイデ)」を起業。2013年「五感で上勝町を感じられる場所」をコンセプトに「カフェ・ポールスター」をオープン。2020年上勝滞在型体験プログラム「INOW」を共同創業。