わたしと徳島vol.3
名西郡神山町

わたしと徳島vol.3 名西郡神山町

名西郡神山町



鈴木佑奈(ゆうな)さん(36歳・北海道出身)
知真(かずま)さん(35歳・宮城県出身)

<移住までの軌跡>

佑奈さん/北海道札幌市生まれ、大学&社会人1年目(小学校の特別教育支援員)まで北海道→2012年3月茨城県(就職)→2016年4月神奈川県(大学院)→2018年3月高知県(教諭)→2022年4月徳島県神山町へ

知真さん/宮城県塩釜市生まれ→新潟県(大学&大学院)→2016年宮城県仙台市(高専教員)→2023年4月徳島県神山町へ


神山へとつながる出会い

佑奈さん:小学校から大学までずっとバスケットボールをしていました。でも、疲労骨折などのケガが多く、やり切ることができなかったんです。そんな悔しい思いがあって子どもの体のケアをするトレーナーになりたかったのですが、たとえ資格を取得したとしても仕事として活かせるのは一握りですよね。だったら、ケアする知識は自分で身につけて教員になれば、そういう現場に携わる機会もあるだろうと高校時代に思い立ち、北海道教育大学に進学しました。

▲神山まるごと高専の校舎「OFFICE」内にある佑奈さんの研究室。大きな窓の向こうは桜並木。

佑奈さん:一旦は公立小学校の特別教育支援員になり、その後、縁あって日立のプロバスケットボールチームのマネージャーを務めていたのですが、3年ほど経ったころ、大学の後輩から玉川大学の大学院に進学してIB(国際バカロレア)教育の勉強を始めたと連絡がありました。IB教育とは自分で考えて、自分で選択する、社会に出て役に立つ教育。後輩がうれしそうにIB教育のことを話しているのを聞いていると、「私が必要だと感じている教育はこれだ、IB教育を学びたい!」と、ピンと来ました。転機ですね。そこで、仕事を辞めて東京の大学院に通いました。卒業後は札幌に戻って公立のIB教育の中高一貫校に勤める予定でしたが、ちょうど高知に新しくIB校ができるタイミングで。しかも、IB教育ができる体育教諭はほとんどいないと熱望され、高知に行くことを決めました。

保健体育の授業風景。(写真提供:神山まるごと高専)
寮「HOME」内にある食堂で学生とともに食事をすることも。(写真提供:神山まるごと高専)

高知市内から神山へ

佑奈さん:2018年4月に初めての四国、高知へ新任教諭として赴任しました。既存の公立校がIB校になっていく過程の中にいたので現実的には難しい場面も多々ありました。そんな中、2020年の冬に知り合いの先生に誘われて神山まるごと高専が主催する教職員向けのオンラインイベントになんとなく参加したんです。ブレイクアウトルームで現理事の山川咲さんに出会ったのですが、これがまた転機でした。「ぜひ一緒にやらない?」と言われて面接や模擬授業へ進んでいったのですが、心が迷っていたので、住みたいところかどうかを確かめるためにも一度神山に行ってみることにしました。

▲大粟山から見た神山の町。

佑奈さん:2021年5月に初めて神山を訪れ、高専関係者がまだ誰も移住していない状況の中、当時の理事である町民二人の方にアテンドをしてもらいました。校舎もありませんでしたが、神山をぐるっと案内してくれて、とても親切にしていただきました。シェアハウスに滞在したのですが、夜がとても静か。星もきれいでいい田舎だなあ、ここで生活するのもいいかも、と思いましたね。最終的には咲さんに「何を迷っているの?」と背中を押され(笑)、神山まるごと高専の設立準備段階から加わることに決めました。もちろん、私が大切にしていた教育の理念が、神山まるごと高専が求めているものにマッチしていたことも大きかったです。

▲最初に暮らした高台にある古民家のシェアハウス。生活水は山水。

佑奈さん:開校までにはまだ1年ありましたが、早めに神山に入っておくことも小さな町になじむには大事なことだと思い、2022年の5月末に引っ越して来ました。家はNPO法人グリーンバレが紹介してくれた古民家のシェアハウスでした。ずっと一人暮らしをしてきたので女性3名でのシェアハウス生活に最初は抵抗がありましたが、振り返ってみると、それがかえってよかったですね。それぞれ働き先も違うから情報交換もできたり、一緒に地域を巡ることもできたりして、一人でいるより神山の人たちとつながる機会が広がったなと思います。開校まではオンラインの学校説明会や個別相談という学生募集と、地域連携が私の担当業務。ここの人たちに神山まるごと高専のことを知ってもらうために、地域のお祭りに積極的に参加したり、各地区に出向いて神山まるごと高専の説明をしたりするうちに、顔を覚えてもらえて知り合いが増えていきました。

▲シェアハウスからの眺め。夜になると遠くまで星空が広がります。

私たちは神山まるごと高専婚

佑奈さん:移住前からゲストハウスをやりたいという夢もありました。当時の古民家シェアハウスをゲストハウスに……と考えて準備していたのですが、思いがけず結婚することになって。

知真さん:神山まるごと高専の設立は高専教員の間で話題になっていました。教員募集に応募したのは、今までのルーティンワークよりも全く違う場所で一から学校づくりを体験してみるのもいいかなと思ったから。ずっと東北で暮らしていましたから西日本も四国も初めて。そして、結婚。このタイミングで人生のいろんなことが動きましたね。

▲すぐそばを流れる鮎喰川。ここで体育の授業をすることも。

二人の住まいと暮らし

佑奈さん:二人で暮らす家を探し始めたころ、ちょうどファミリー、子育て世代向けの集合住宅が空くと聞いて応募しました。町産材の杉を使ったり、エコシステムで空気を循環させたり、地域環境や自然と調和した住宅です。神山も空き家はたくさんあるけれど、すぐに住める家がなかなかありません。私たちはたまたまラッキーでしたが、同僚の中にも神山で家が見つからず、車で20~30分くらいはかかる徳島市内や、隣町の石井町などから通っている人も多いですね。ご家族で移住されている方は中古物件を見つけて改修して……というケースも聞きます。

▲庭付き、メゾネットタイプの3LDKで快適な住まい。

知真さん:初めて神山に来たときは「何もないなあ」と思いましたが、間近に自然がいっぱいで虫取りをしたり、秘密基地を作ったりした子どものころを思い出しました。今、生まれ育った宮城県の塩釜に帰っても当時のような自然は残っていないので、ここに来てすごく懐かしい感覚になりましたね。ビックリしたことは湿度。とくに梅雨や夏場は洗濯物が乾かないんです。今まで除湿器とは無縁の生活でしたが、ここでは必要ですね。

佑奈さん:食材はできるだけ神山町で、と思って道の駅や町内のスーパーで買いますが、空いている時間に行けないことも多く、休みの日に徳島市内や石井町のスーパーに食料の買い出しに出かけています。

知真さん:外食するのもできるだけ神山町で、と思っています。どこのお店も美味しいのですが、外食する場所も限られているし、夜食べられるところも少ないのでちょっと食べに行く、というのができない。だから平日は自宅で、休みの日には石井町や鴨島町、徳島市内まで食べに行くことも多いです。

▲猟師さんからいただいた鹿肉や神山産無農薬の梅やすだちで作ったシロップ。

佑奈さん:神山に来て野菜をたくさん食べるようになりました。新鮮で美味しいので調味料に頼らず、塩を振って焼くだけのシンプルな調理が増えましたね。旬のものを地域の方やご近所さんにいただくことも多くて、お裾分けを持って行ったら返り討ちに合うこともよくあります(笑)。すだちの収穫のお手伝いをすると、対価として現物の“すだちマネー払い”なんてことも。神山ならではですよね。

知真さん:すだち入りの味噌汁は衝撃でしたね。味噌汁に柑橘?合うの?って。でもめちゃくちゃ美味しくて、それ以来、定番です。何にでもすだちを使っています。


地域の人たちが見守ってくれている

▲散歩をしていると、地域に暮らす方から声をかけられることも多い。

佑奈さん:神山で暮らし始めてから2年半、各地区のお祭りはほとんど行けたかな? 町のことは誰に何を聞いたらいいのか、というようなことも少しずつわかってきたし、関係性ができてきたなあという実感はあります。

知真さん:妻と行動をともにしていることが多いので声をかけられる機会も増えました。また、学生たちも近くの寮で暮らしているので生活圏も同じ、近所の子でもある。だから教員と学生という関係性にとどまらず、個人として向き合っている感じです。ここでは地域の方や学生との距離が近いですが、不思議と違和感はないですね。

▲腰之宮神社(別名、葛倉神社)。徳島市のえびす祭りに合わせてここでも小さなお祭りがあり、熊手などが売られるのだそう。「昨年は学生と一緒にお邪魔しました」
▲腰之宮神社前の道を進むと、佑奈さんお気に入りの沈下橋が。

佑奈さん:神山の人たちと接していると、“人のために何かをすること”が自然なんですよね。うまく言えませんが、見返りを求めていない、目先のことで生きていない人が多いような……。高専の近くに暮らすおじいちゃんが私たち高専のスタッフや学生のために、通学路にある家庭菜園でミニトマトを栽培してくれているんです。しかも、畑に入らなくても採れるようにと、わざわざ道沿いに。摘んでいるのを見て喜んでくれています。ほかにも、学生の自転車を修理したり、ご飯に連れて行ってくれたりと、地域の方が私たちを気にかけて手を差し伸べてくれます。ありがたいような申し訳ないような気持ちです。一年間の活動報告会を開いた際に、「学生がまた増えると、町がよくなるね」と声をかけてもらったときはとてもうれしかったですね。とはいえ、まだまだ町のしきたりや慣習を知らずに教えてもらって気づくことがあります。町にマイナスになるようなことはしたくないので、しっかりコミュニケーションを取り続けて、高専としても個人としてももっと溶け込みたいと思っています。

▲近所の方が高専のスタッフや学生のために育ててくれているミニトマト。テイクフリー。

みんなのサードプレイスをつくりたい

佑奈さん:やっぱりゲストハウスをやりたいんです。神山は人が多く訪れる町ですが、宿泊施設が少ないので滞在せずに帰る方も多くて残念だなあと思っていて。あとは企業のワーケーション合宿ができる場所にもしたいし、神山の人たちにとっても地区を超えてつながれるハブのような場所にもしたい。誰にとってもサードプレイスとなる場所をつくりたいなと思っています。今、そんな計画が動き出そうとしているところです。

知真さん:学生も校舎と寮しかないんですよね。街中ならスタバやマックなど立ち寄れる場所もありますが、学生にとってもサードプレイスになる居場所をつくってあげたいという思いもあります。

佑奈さん:それと、これからは県内各地に足を延ばしたいです。まずは移住前に一人で出かけた上勝町に今度は二人で行ってみたいかな。

知真さん:私もまだうだつの町並みくらいしか行っていないので観光地を巡りたいですね。親を呼んで徳島を案内したいけれど行ったことがないのも……。まずは、よくおすすめされる鳴門の渦潮や大塚美術館に行ってみたいです。あっ、今度の休みは鳴門に出かけてみよっか。

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神山まるごと高等専門学校 https://kamiyama.ac.jp

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