INOWは、主に海外から上勝町を訪れる方々に向けた体験プログラムです。“ゼロ・ウェイスト”というごみをできる限り作らないことを目的とした取り組みを、上…
2025年が始まりました! とはいえ、あっという間に2月も後半……。今年もどうぞよろしくお願いします。今年最初のコラムは雪のドタバタ劇をお送りします。

朝起きたら一面の銀世界。写真で見ると美しいのですが、正直な感想は「うわ、まじか」です。学校は休みになるのかな? 学校からの情報をチェックします。町営バスが運行可能で、6時30分までに町内放送がなければ通常通りの授業となります。放送が入れば休校です。
2月8日、この日は土曜日でしたが、上勝小学校で学習発表会が開催される予定でした。6時30分になり、例の放送が流れます。「本日は積雪のため、上勝小学校は臨時休校いたします」。残念ながら発表会は中止となってしまいました。
落ち込みつつもちょっと喜ぶ息子を尻目に、私は路面のチェック。カフェまで出勤できそうかな? 今日予約のお客様はいたかな?などを確認して、スタッフと連絡を取り合います。
しばらくすると、町内LINEグループに町内各所から路面凍結情報が入り始めます。産直市の前はこれくらい雪が積もっていますとか、どこそこの坂は危険です!など。ここ最近、10cmちょっと雪が積もっても、お天気が良ければ昼頃には溶けるので、営業開始時間を少し遅らせるなどの調整をします。
――タイミングというものは重なるもので、2月7日から9日にかけて、「INOW」では万博国際プログラムの一環として、ナイジェリアからの訪問団を受け入れる予定がありました。そこに、香港からのグループの受け入れ、さらにカフェでは東京からのお客様の団体予約が入りました。ありがたいことですが、「なぜ、みんなこの日なんだろう……」と思いながら、「INOW」スタッフ、カフェスタッフともにスケジュールや役割を念入りにチェック。
そこに、なんというタイミングでしょう。今季一番の寒波もやってくるではありませんか!というわけで、週の初め頃から私はソワソワしっぱなし。

迎えた2月7日(金)。昼過ぎに香港グループが上勝町に到着。次いで夕方にナイジェリア訪問団が到着し、それぞれ上勝の概要についてレクチャーを受けます。7日の夜にナイジェリア訪問団はカフェでディナー、8日は別の団体客のランチをご用意し、夜は香港グループのディナーです。私は基本的にカフェで調理にあたりましたが、各々20人ずつくらいの団体だったので、ずっと料理を作り続けている感覚。
7日の夜、ディナーの片付けを終えて家路に着く頃には、どんどん雪が降ってきて、あっという間に雪が積もってしまいました。
次の日、窓から外を見ると、冒頭の写真です。昨日よりもさらに積もった雪と、ガチガチに凍った路面が目に飛び込んできました。子どもの発表会はすでに中止が決定。「ああ……。私は無事にカフェまでたどり着けるのだろうか……」と、自分の身を案じつつ、万が一の事態(スリップ事故など)に備えて防寒着や温かいお湯を車に積み込み、恐る恐る家を出発。

その時、以前誰かから聞いた話を思い出します。「新しい道は旧道と比べてショートカットになっているから早く目的地に着けるけど日陰が多くて雪がなかなか溶けない。でも旧道は、日が当たる場所を通っているし傾斜も緩やかだから、道が凍った時は旧道を通る方が良い」
8日の朝、私は普段通らない旧道を進むことに決めました。「どうか対向車が来ませんように!」と祈りながら雪道をゆっくりと進みます。確かに旧道は日当たりが良い。時速20キロで慎重に運転し、無事カフェに到着! あぁ、よかった……。
ちなみに、山の人はみんな冬になると車にスタッドレスタイヤを履いていると思われがちですが、私を含め、多くの人はノーマルタイヤです。今回ほどの雪が降るのは、それくらい珍しいことになってしまいました。

さて、予期せぬ大雪に、さまざまなスケジュールの変更も余儀なくされます。香港グループは、当初8日の午前中は農家さんでの収穫体験を予定していましたが、路面状態が悪いため午後の予定と変更し、ビール工場での研修を受けることに。加えて、写真好きのグループのために、雪化粧で美しくなった上勝を撮影できる短い散歩を急遽実施。朝から各所への調整に、「INOW」のシルとカナが奔走してくれました。
私といえば、昼と夜のお客様を迎えるべく調理を進めていきます。今回は“立春”をテーマに、ビュッフェスタイルでの提供でした。メニューは、フキノトウを入れたサラダ、切り干し大根のナムル、ロール白菜、菜の花と豚肉の炒め物、白玉と文旦のフルーツポンチなど。
上勝の郷土食「かきまぜ寿司」は、お客様自身に特産の柑橘「ゆこう」を手搾りしてもらい、熱いご飯と混ぜ、好きな具材と混ぜ合わせて即興で作る「かきまぜご飯」として味わってもらうことに。甘辛く煮た金時豆や椎茸、こんにゃく、時期の緑には大根葉を用意しました。どのグループも、このプレゼンテーションをとても喜んでくれたので、私としても楽しい時間でした。

ナイジェリア訪問団の来町には、町役場の職員さんたちも関わっていて、当店で開催されたレセプションディナーにも参加してくれました。世界中からいろんな方が上勝を訪れてくれることは嬉しいのですが、地元の人たちがお店に来てくれたことや、彼らが食べ慣れたかきまぜ寿司を作り方を変えただけで「新鮮だ」と言って楽しんでくれたことが、個人的にはとても嬉しい経験となったのでした。