上勝 定点観測室「INOW(いのう)」より
[第3回] 学び続ける人たち。

上勝 定点観測室「INOW(いのう)」より [第3回] 学び続ける人たち。

INOWは、主に海外から上勝町を訪れる方々に向けた体験プログラムです。“ゼロ・ウェイスト”というごみをできる限り作らないことを目的とした取り組みを、上勝町では町ぐるみで実践しています。その町の暮らしやごみ分別のシステム(上勝はごみを45種類に分別)を見てみたいと、世界各国から視察や観光客が訪れるようになりました。2020年から始まり、延べ30カ国、300名くらいの方が参加されました。

私たちが暮らす場所は変わらず上勝だけれど、取り巻く環境は変わっていく。
人口1300人の小さなこの町に、どんな人たちが来ていて、滞在中は何をしているのかを書いていくことで、上勝に対する解像度が高まることを期待しています。

上勝 定点観測室「INOW(いのう)」、楽しみながら読んでいただけたら幸いです。


[第3回] 学び続ける人たち。(2024年6月6日〜8月8日観測)

カフェ・ポールスターの一番奥、ソファの席でこの観測記録を書いています。窓から見える空は快晴、かと思えば、急激に暗くなり、突然スコールのような雨が降り出しました。焦って車の窓が開いていないかを確認。この一連の行動で、ああ、夏だなあと感じます。

オープン10分前の店内。昼前なのに、急激に空を雲が覆って窓辺のライトが美しく感じるくらいの暗さに。

夏直前、そして夏本番にあたる今回の観察期間中、INOWではシンガポールからのご家族や香港からの参加者をお迎えしました。7月22日から28日までは、以前とは別のタイからのグループがプログラムに参加し、7月27日に開催された町内の夏祭りで阿波踊りや屋台など、日本のお祭りを楽しんでいました。

タイからのグループ。今回はゼロ・ウェイストをテーマとした学校を運営している先生やホテルのオーナーなどがいらっしゃっていました。

INOWのファシリテーターであるカナちゃんの調べによると、今年1月から6月までの半年でINOWが迎えたゲストは、15カ国から94名でした。円安などの影響もあり、海外から日本を訪れる外国人の方は増えているようですが、INOWプログラムに参加される方は「サステナビリティ」や「ゼロ・ウェイスト」に関心を持っている方が多いです。

さて、今回の観察記録で特記しておきたいのが、マシュー君とマリちゃんという2人の高校生と、1年で12カ国語を取得する旅をしているアンソニーとアンドレアについてです。

アメリカから来た高校生2名は、今回学校に自分たちで補助を申請し、自分たちが通う学校や自分自身が、環境問題に対して何ができるのかを模索すべく、上勝町やリサイクル率日本No.1の鹿児島県大崎町などを訪問して学ぶツアーを自ら企画し、やって来ました。上勝町には7月10日から14日まで滞在し、町民にインタビューしたり、自然との関わりについて学んだり、晩茶の茶摘みを体験するといった内容のプログラムでした。

プレゼンテーションにて。小学生2人が真ん中で仲良く聞いている姿が印象的でした。

最終日には彼らのプレゼンテーション時間を設け、上勝での体験や彼らのアメリカでの高校生活について話をしてもらいました。町民も15名ほどが参加してくれましたが、その中でもうちの息子やその他の小学生たちは、カリフォルニアでのマシューとマリの生活に(給食にはピザも出るという話など)興味津々といった様子でした。

プレゼンテーション後はみんなで食事会。そこでも、小学生たちはマシューとマリと一緒に、好きな音楽やサッカーの話題で盛り上がっていました。食事が終わって帰る頃には「マシュー、アイラブユー!」と言って、マシュー君にハグして離れないほどに(笑)。別れがとても名残惜しそうでした。

「もっと英語がしゃべれたらマシューと話ができるのに」「マシューのために、明日のサッカーの試合は絶対勝つぞ!」なんて言葉が聞こえて来て、その素直さに心洗われると同時に、しめしめと思う気持ちなんかも抱いたりして。上勝町にたくさん来ている海外の方々と、子どもたちがもっと頻繁に関わって、世界を広げてもらえると嬉しいなと、改めて感じた瞬間でした。

アンドレアとアンソニー。次の国は韓国だそうです!よく見ると、彼らのTシャツには「12カ国語を12カ月で」と書かれています。

もう1組記録しておきます。アンソニーとアンドレアさんは、1年間で12カ国語をマスターするとういう旅に出ているカップル。1ヶ月で各国の言語を習得するため、それぞれの国でホームステイをして、自分達の言語の習得力を試すのだとか。今回は私の家に2泊3日だけですが滞在していました。上勝での滞在中は、地域の学童で子どもたちに英語を教えてくれたり、晩茶のお茶摘みを体験したり。彼らの旅の様子はYouTubeで見えるので、ぜひチェックしてみてください!

今回も多種多様な人たちが上勝に、INOWに来てくれました。世界にはいろいろな生き方や文化があることを、実感する日々です。その中で私は、私たちはどう在るべきなのか、在りたいのか。2024年もそろそろ後半戦。忙しい夏を終えて気温も落ち着く頃、秋らしい悩みが見え隠れしています。




プロフィール
東 輝実 / 
合同会社RDND 代表社員
カフェ・ポールスター オーナー
INOWプログラム共同創業者

1988年徳島県上勝町生まれ。関西学院大学総合政策学部在学中よりルーマニアの環境NGOや東京での地域のアンテナショップ企画のインターンを経験。

2012年大学卒業後、上勝町に帰郷し「合同会社RDND(アール・デ・ナイデ)」を起業。2013年「五感で上勝町を感じられる場所」をコンセプトに「カフェ・ポールスター」をオープン。2020年上勝滞在型体験プログラム「INOW」を共同創業。