【新連載】上勝 定点観測室
「INOW(いのう)」より
第1回:タイの起業家たちは。

【新連載】上勝 定点観測室<br>「INOW(いのう)」より<br>第1回:タイの起業家たちは。

改めまして(初めましての方も)、合同会社RDNDの東輝実です。上勝町で暮らし、飲食店「カフェ・ポールスター」の運営や、上勝体験プログラム「INOWプログラム」事業を営んでいます。社名のRDNDは「アールデナイデ」と読みます。阿波弁の「あるでないで」が由来で、上勝町にはこんなにも素敵なものがあるじゃないか!と伝えていこうという気持ちで名付けました。

これまでのコラムでは(前連載「今日は、どこから見てみましょうか」全33回)、上勝町での暮らしの様々な側面をお伝えしていくべく、ごみの分別やイベント行事、料理に関することを書いてきました。リニューアルした今回より、私たちが提供するINOWプログラムに内容を絞ってお伝えしていきたいと思います。

INOWは、主に海外から上勝町を訪れる方々に向けた体験プログラムです。“ゼロ・ウェイスト”というごみをできる限り作らないことを目的とした取り組みを、上勝町では町ぐるみで実践しています。その町の暮らしやごみ分別のシステム(上勝はごみを45種類に分別)を見てみたいと、世界各国から視察や観光客が訪れるようになりました。2020年から始まり、延べ30カ国、300名くらいの方が参加されました。

私たちが暮らす場所は変わらず上勝だけれど、取り巻く環境は変わっていく。
人口1300人の小さなこの町に、どんな人たちが来ていて、滞在中は何をしているのかを書いていくことで、上勝に対する解像度が高まることを期待しています。

上勝 定点観測室「INOW(いのう)」、楽しみながら読んでいただけたら幸いです。


[第1回]タイの起業家たちは。
(2024年3月4日〜8日観測)

初回は3月に訪れたタイの起業家グループについて、です。サステナビリティをテーマとして事業を展開している起業家や投資家などが集まりました。

そもそもINOWプログラムは、事前に何度もオンラインで参加者とミーティングをします。上勝に来る目的や訪れた場所をヒアリングしつつ、参加者がどんな仕事をしているのか、研究者なら何を研究しているのかについて教えてもらい、よりよい時間を過ごしてもらうためです。

現地のコーディネーターは2人。カナダ人のカナちゃんと、ベルギー人のシルくんがいます。彼らはゲストとの調整はもちろん、町内のコーディネートや翻訳・通訳をこなします。

カナちゃんとシルくん。自然が大好きな2人です。

今回のタイグループは、上勝町のリサイクルシステムを学ぶことと、町民や事業者との交流を通してサステナビリティについて考え、自身の企業の取り組みに生かす学びを得ることが目的でした。参加者は13名。通訳、事務スタッフ含めた総勢16名が上勝町で約1週間をともに過ごす、いわば研修合宿のようなもの。しかも、参加者はこのプログラムに参加することがきっかけで集まった人たち。そう、「初めまして」の状態。そのため、プログラムの合間では、それぞれの事業プレゼンもありました。ごみを出さないカフェを運営している人や、タイのサステナブル事業の連携を深めようと起業した方などなど。

では、実際どう過ごしたのか。全ての内容を紹介するのは難しいけれど、一部写真を用いながらご紹介します。

「上勝ゼロ・ウェイストセンター」で、住民の方からごみの分別方法について教わるグループ。
葉っぱビジネスも上勝で学べる重要な要素。農家さんを訪問して、実際の葉っぱに触れます。
「カフェ・ポールスター」も食事を担当。タイは宗教的な関係で牛肉を食べない人が多い。その他、キノコやイーストアレルギー、ベジタリアンなどにも対応できるよう食事を考えました。
上勝で学んだことについて、意見交換や話し合う時間を大切にしていたグループでした。
上勝町のビール工場「RISE&WIN」にて最終日のディナー。クラフトビールを飲みながら語らいます。
参加された全メンバー&スタッフと。

今回、私は自身の事業についてお話しする時間をもらったのですが、質問が次から次へと出てきて、知りたい、教えてほしい、学びたい!といった熱量が高いことに驚きました。ある参加者から「タイと日本の廃棄物処理に関する考え方やルールの違いを知りたい」と質問を受けた時には、冷や汗をかきました。あー、もっと日本の廃棄物処理に関して勉強しないと、と反省。

英語という言語の違いもあるかもしれませんが、海外の方から受ける質問は日本人の場合と違った視点で聞いてくださることも多く、新しい発見があったりして頭の整理になります。

参加者たちはタイに帰国後も集まっているようです。上勝やINOWプログラムが、繋がったり考えたりするきっかけになれて、嬉しい限り。

4月に入り、季節も良くなったからか、観光目的で上勝町を訪れる外国人の方も増えました。運営しているカフェにも連日のように外国人ツーリストが来店していて、「ハロー、どこから来たの?」と聞くと「オランダから」「フィンランドから」と様々な国の名前が返ってきます。

上勝町内の桜の名所。今年も美しく枝垂れ桜が咲いていました。

「このコーヒーカップはフィンランドのメーカーのものだね。なんでこのお店で使っているの?」とか「山菜について教えてほしい。これはなんという名前の山菜で、どうやって食べるの?」と、挨拶をきっかけとして始まる会話。いきなりカフェに英語だけの空間が広がって「急に外国になった」と傍にいた常連さんは面白そうに笑います。

今週からはドイツから来たナディーンという女性が1ヶ月間上勝にインターンとして滞在予定です。彼女は昔、日本の自動車メーカーに勤めていた経験があって、日本語がペラペラ。上勝で暮らしながら、カフェの手伝いをしてくれる予定なので、ぜひ上勝に来ることがあれば声をかけてあげてくださいね!




プロフィール
東 輝実 / 
合同会社RDND 代表社員
カフェ・ポールスター オーナー
INOWプログラム共同創業者

1988年徳島県上勝町生まれ。関西学院大学総合政策学部在学中よりルーマニアの環境NGOや東京での地域のアンテナショップ企画のインターンを経験。

2012年大学卒業後、上勝町に帰郷し「合同会社RDND(アール・デ・ナイデ)」を起業。2013年「五感で上勝町を感じられる場所」をコンセプトに「カフェ・ポールスター」をオープン。2020年上勝滞在型体験プログラム「INOW」を共同創業。