小さな町上勝と世界の物語
[最終回]
今日は、どこから振り返ってみましょうか。

小さな町上勝と世界の物語 [最終回] 今日は、どこから振り返ってみましょうか。

INOWは、主に海外から上勝町を訪れる方々に向けた体験プログラムです。“ゼロ・ウェイスト”というごみをできる限り作らないことを目的とした取り組みを、上勝町では町ぐるみで実践しています。その町の暮らしやごみ分別のシステム(上勝はごみを45種類に分別)を見てみたいと、世界各国から視察や観光客が訪れるようになりました。2020年から始まり、延べ30カ国、300名くらいの方が参加されました。

私たちが暮らす場所は変わらず上勝だけれど、取り巻く環境は変わっていく。
人口1300人の小さなこの町に、どんな人たちが来ていて、滞在中は何をしているのかを書いていくことで、上勝に対する解像度が高まることを期待しています。


[第8回]
今日は、どこから振り返ってみましょうか。

先日、夫が40歳を迎えました。おめでとう。本人の実感よりも先に、周りから「えぇ!ついに40歳に!」といった反応が多くて、健康を気遣ったメッセージやお祝いをされている様子を見ると、彼が40歳になったということよりも、着実に時が流れている様を私は感じたのでした。

▲このコラムでも何度か登場させてもらった息子と夫も、大きくなりました(笑)。

そう、このコラムも、気づけば4年ほど書かせていただいています。どんな方が読んでくださるかな?と思いながら、上勝町のことや、何気ない暮らしのことを綴らせてもらいました。

正直に言うと、「普通に暮らしていることを書くだけだけど、おもしろいのかな?」という不安を抱えながら書いていました。どの角度から見たら上勝が、自分の暮らしが、読者の方々に興味をもってもらえる部分になるのだろうと。それが当初のコラムタイトル「今日は、どこから見てみましょうか」(2021年7月~2024年2月)という、今見返すと恥ずかしいけれど、当時の気持ちをそのままの反映したものになったのでしょう。

▲4年前と比べてカフェもレイアウトやメニュー、運営体制もいろいろ変わりました。

昔の記事を見返すと、より自分の感覚に素直だったと感じます。こんな言葉を使っていたのかと、新鮮かつ驚きを感じるものもいくつか。第6回には、書き殴った自分のメモを掲載していて、どんな勇気?が当時の私にあったのか……。

読み返しながら、気づきました。公の場を借りて、私は自分自身に向けて常にコラムを書いていたのだと。読者の皆さん、関わってくださった皆さん、本当に長いことお付き合いいただいていたのですね。恐縮です。人の多面性を見たら、自分の知らない側面に気づけるかもしれないという仮説で当初書かせてもらいましたが、どこかおもしろいところはありましたか? 共感してもらえる言葉などあったでしょうか。

さて、最後にあたり、第1回目のコラムで自分に出した宿題を、今の時点で提出してみようと思います。コラムの最後に「あなたは今の場所を本当に自分で選んだの?」という問いを書いて終わっています。

結論、そのようです。もしかしたら、敷かれたレールに乗っているだけかと思っていたのですけど、どうやらちゃんと、自分の意思があったみたいです。

それに気づいたのはほんと、つい最近なんですけど。つい先日、仕事で町内の方々にインタビューして回りました。その時ね、面白かったんですよね。いろんな人の話を聞くことも、情報交換できることも。そして何より、聞いた人と一緒に「上勝だったらこうできるんじゃないか?」「上勝はこれがダメだ!」みたいな話を、永遠と続けられること。そういった概念的な意味での上勝を共有できる人たちがいることが、自分にとって幸せで、それを続けてきたのだと思います。

徳島市内から車で1時間かかり、スーパーもコンビニもなく、子どもの習い事ができる環境はある程度制限されるなど、地理的な意味での上勝という選択については、そうですね、まだちょっと答えを出し切れないですが、私の性格上、シャイなので籠っているほうが心地よいのかもしれません。

今年のお正月にふと、「上勝を諦めない」という言葉が浮かんできました。そんなのが浮かんできている時点で、私の中で上勝町は特別で、愛着のある、自分で選んだ場所なのでしょう。

さらにもう一つ、宿題を出していました。「あなたは、本当は何がやりたいの?」問題。

偶然かな、つい1週間前にあるイタリアンレストランのシェフから「で、結局てるみちゃんは、どうなりたいん?」と聞かれたばかりです。その時はよくわからない回答をしちゃったんですが、この4年間でいろんな経験をさせてもらって、私はいろんな世界を見たい、という欲求が強いことがわかりました。別の名を、飽き性といいます。

だからこそ、何者にもなれない。でも、ならなくてもいいのかな、と開き直ってきてしまいました。生きている間に、いろんな自分が知らない世界を覗き見したい欲を抱えて生きる。……まぁ、それで生きられたらの話なのですけれど(苦笑)。私は上勝を拠点としながらも、文字通り外国などの世界の文化に触れたり、ローカルな価値観に浸ったりする、その世界観のコントラストを楽しみたい。現時点での私は、それだけのようです。

▲5月末に来てくれたタイのグループ。INOWを通して、様々な国の人に出会えることも嬉しい。

さぁさぁ、一旦今回で終わりにさせていただこうと思います。今後、何かのタイミングで登場させていただくことがあるかもしれませんが、その時は「で、今はどんな角度から何を見て楽しんでいるの?」と聞いてやってください。稚拙な文章、失礼いたしました。読んでくださった皆さま、心からの感謝を込めて!




プロフィール
東 輝実 / 
合同会社RDND 代表社員
カフェ・ポールスター オーナー
INOWプログラム共同創業者

1988年徳島県上勝町生まれ。関西学院大学総合政策学部在学中よりルーマニアの環境NGOや東京での地域のアンテナショップ企画のインターンを経験。

2012年大学卒業後、上勝町に帰郷し「合同会社RDND(アール・デ・ナイデ)」を起業。2013年「五感で上勝町を感じられる場所」をコンセプトに「カフェ・ポールスター」をオープン。2020年上勝滞在型体験プログラム「INOW」を共同創業。