[新連載コラム][第1回]
今日は、どこから見てみましょうか。

[新連載コラム][第1回] 今日は、どこから見てみましょうか。

新しく連載コラムがスタートします。
書き手は、徳島県の山あいにある上勝町という町で、カフェ「ポールスター」を経営されている東さん。

上勝町は、「ゼロウエイスト宣言」として街全体がゴミゼロをめざしています。
ポールスターは、そんな上勝町を五感で感じられるカフェです。

日々の生活やお店のこと、ゴミを出さない暮らしの工夫。
いろいろな角度からの東さんのコラム。私たちも楽しみです。


連載を始めるにあたって


人が生きていく。 
それは食べる、考える、悩む、楽しむ、幸せを感じる、悲しむこと。
だけれど私たちは、人のことをあまりよく見ていない。
もしくは、見る隙を与えていない、与えてくれない。
私たちの世界は、とても小さく狭い。

このエッセイを通して、東という人間のいろんな面を見せたいと思う。
それは少し怖いことでもあるけれど、自分を取り巻く環境や形作ってきたものの中に
誰かと想いを共有できるものや、はたまた全く違った見方のものがあって
人を多面的にみることで、自分の多面性にも気づいてもらえたらなんて
少し高い目標も立てている。

上勝、料理、ごみ、時間、自然、子育て、趣味、過去……。

人の多面性を見つめることで、自らの好き嫌いに向き合ってもらえる時間になれば。

店。そして、長い旅のはじまり。

店をやっている人は、自分の店の存在をどんな風にとらえているんだろう。
私にとってこの場所(Cafe polestar/カフェ・ポールスター)は、仕事場であることは大前提だけれど、一人になれる場所でもあるから、とくに休日には、この場所があることに感謝することがなにかと多い。

本を読みたいとか、記事を書かなきゃとか、打ち合わせがあるとか。いろんな場面で「場所」というものは必要になる。家でももちろん良いのだけれど、少し気分を変えたいとか、集中モードに入りたい時ってあるじゃないですか。それで、市内のお店に行くこともあるのだけれど、まず着ていく服から選ばないといけない。小山から出ていくのだから、スリッパじゃいけない。そしたらいつの間にか、緊張を纏いだす。必要ないのだけど、勝手に自分を緊張させていく。その緊張って嫌いじゃなくて、背筋が伸びるし、メリハリをつけられるから、どちらかと言えば好きなんだけれど、でも違うんだ。私はもっとリラックスして、本を読んでいたいんだ。

そんな時には自分の店へ。君がいてくれてよかった。
家という団欒の空間ではなく、お店のように人に気を遣いすぎない空間でもあるこの場所は、自分をこの田舎の奥深くにつなぎとめておく装置の役割だってあるのかもしれない。


今年のはじめ、私は長い旅に出ることになった。それは自分探しの旅。「自分探しの旅」ってなんだか響きも文字として書いても、むず痒いというか、恥ずかしい、ダサいんだけど、そう表現するのが一番端的なので使う。ダサいけれど、自分を探さにゃならんと思うほどの衝撃的な事件があったのだ。

2021年3月、あるアメリカ人女性が上勝町に2週間滞在していた。彼女は一人で上勝に来ていたのだけれど、滞在中に突然夫から離婚を切り出されたと言う。毎日のように泣いている彼女に、なんと声をかけていいのか分からない私。とにかく話を聞くだけ。

「私にとって、場所はどこでもいい。彼がいる場所が私の帰る場所なの」。ある程度不安を吐き出した後、そう言った彼女。そして私に「Is this your place?(ここはあなたの場所?)」と聞いた。

その瞬間。言葉に詰まった。直訳すれば「ここはあなたの場所ですか?」ということだけれど、私には「ここはあなたが、あなたらしくいられる場所(もしくは居場所)なの?」と聞こえたのだ。今度は私の涙が止まらなくなってしまった。これが長い旅のはじまり。

あなたは今の場所を本当に自分で選んだの?
あなたは何が本当はやりたいの?

プロフィール
東 輝実 / Cafe polestarオーナー

1988年徳島県上勝町生まれ。関西学院大学総合政策学部在学中よりルーマニアの環境NGOや東京での地域のアンテナショップ企画のインターンを経験。

2012年大学卒業後、上勝町へ戻り仲間とともに「合同会社RDND(アール・デ・ナイデ)」を起業。2013年「五感で上勝町を感じられる場所」をコンセプトに「カフェ・ポールスター」をオープン。その後はカフェを拠点として「上勝的な暮らし」の発掘、情報発信、各種プログラムの開発などに取り組んでいる。2015年、男児を出産し1児の母。