鳴門の海とつながる果樹園

鳴門の海とつながる果樹園

食べごろの完熟だけを厳選

セミの合唱がにぎやかになってくるころ、鳴門市の「フルーツガーデンやまがた」では梨のシーズンを迎えます。

▲朝6時から10時頃まで収穫作業。ピーク時は1日で1500キロ分の梨をもぎとるそうです。

この日、収穫をしていたのは柔らかな甘さが特徴の「幸水」。「樹の上で完熟するまで待ってから採るんよ」。そう教えてくれたのは代表の山形文吾(やまがた・ぶんご)さん。青い実が黄金色になっているか確認しながら、丁寧にもぎ取っていきます。

▲四代目の山形文吾さんと、長男の龍生さん。
▲袋を破って熟し具合を一つずつ確認。

梨の収穫は10月上旬まで続きます。昔ながらの味わいの「長寿」、上品な舌触りの「幸水」、甘みと酸味のバランスがいい「豊水」、“梨の王様”とも呼ばれる大玉の「新高」、柔らかくジューシーな果肉の「あきづき」……と季節が進むにつれて品種を変えながら、毎シーズン10万個もの梨が実をつけます。

一つひとつに手作業で袋をかけていることも山形さんのこだわり。そうすることで、農薬をかける回数が減らせ、直接果実にかかる心配がなくなるのだといいます。

▲袋の色で品種を分けているそう。黄色の袋は幸水、赤色の袋は豊水。

ギリギリまで完熟を待った朝採れの梨は、ちょうど食べごろ。市場には卸さず農園に隣接する直売所に並びます。

▲梨畑の目の前に構える直売所。
▲採れたての梨を求めて多くの人が足を運びます。

早速、もぎたての梨に包丁を入れると果汁がジュワリ。しっかり熟した実はみずみずしく、すっきりとした甘さで夏の暑さを吹き飛ばしてくれます。

▲透明感のあるフレッシュな果肉の「幸水」。

樹の上の果実がウチノの海の栄養で育つ

「フルーツガーデンやまがた」ならではの興味深い取り組みがあります。それは、“海”由来の肥料。
「昔から、梨の実が丈夫になるようにカルシウム肥料をあげていました。あるとき偶然、鳴門市のウチノ海で廃棄される予定のカキ殻が大量に手に入る機会があって。せっかくカルシウムを与えるなら、ケミカルな肥料より自然のものがいいだろうとカキ殻を粉砕して肥料にしたんです。すると、その年の梨を食べたお客さんが“今年は特別おいしい”と言ってくれて、いつも以上に評判がよかったんですよ」。

炭酸カルシウムが含まれるカキ殻は、果実の病気への耐性をあげ、甘みを濃くする効果があるそう。初めて肥料として試みた2009年以降、毎年土づくりに使用するようになりました。

▲カキ殻はパウダー状にして、梨の花が咲く前の1月~2月に土に与えています。

花が咲いてからは、ワカメやモズクなどの5種類の海藻エキスが原料となる肥料を1週間に1度散布。豊富なミネラルが梨のうま味成分をアップさせます。

▲ウチノ海の豊かな栄養分を大地に与えることで立派な果実へと成長します。

10年分の想いが実った「うずしおベリー」

農園の歴史は大正時代までさかのぼります。山形さんのひいおじいさんが鳴門市大津町の水はけのいい扇状地を生かして、かんきつ類や梨など果樹栽培をスタート。四代目にあたる山形さんは18歳で就農しました。現在の主力は梨とイチゴ。父の文彦さんが一旦は諦めたイチゴの生産を、山形さんが復活させました。

▲全部で30棟ほどあるイチゴハウスの一部。収穫は12月頃から始まり、5月いっぱいまで続きます。
▲イチゴは苗を高い位置に植えて管理する高設栽培。作業効率を高めています。

「農家になって1年目でイチゴの“さちのか”を作りました。それが、ものすごく上手にできたんです。実が大きくて形もよく、甘さと酸味のバランスも絶妙で。イチゴって簡単にできるんやなぁと思いました」。

しかし、2年目以降は思い通りにいかなかったようです。
「同じように育てても1年目の“さちのか”を超えるイチゴができませんでした。収穫量が減ったり、味がいまいちだったりが続きました。そんな状況で10年目を迎えたころ、イチゴの生産をやめてほしいと母に言われ、あと1年だけと約束をしました。それまで、一に趣味、二に仕事、三に家族だった優先順位を、一に家族、二に仕事、三に趣味に変えて、真剣にイチゴ作りと向き合いました。そして、母の提案で試しに“紅ほっぺ”を栽培してみたところ、めちゃくちゃ実ったんです。でも、味はやっぱり“さちのか”のほうが良かった。だから、“紅ほっぺ”を“さちのか”よりもおいしくなるように追求していこうと考えるようになりました」。

こうして山形さんは“紅ほっぺ”に舵を切りました。

「それまでは聞く耳を持たなかったのですが、人の意見も積極的に取り入れるようになりました。たとえば、梨に使っている海産物由来の肥料。これも肥料のメーカーさんにすすめられて使うようになったらミネラルの力で格段に味が良くなったんです」。

そうして、2014年、納得のいく“紅ほっぺ”の栽培に成功。

1粒が30~40グラムにもなる大粒の実を口に入れると、甘みと酸味がお互いを引き立て合い、旨みの余韻が残ります。「甘みの感じ方は糖度の数値だけでは表せない。甘みを引きだす酸味も大事」と深くうなずく山形さん。さらに、選び抜いた安心安全な肥料を用いているため、洗わずにそのまま食べられます。

鳴門の海の恵みを享受していることから「うずしおベリー」と命名。ブランドイチゴとして華やかにデビューしました。

▲山形さんのイチゴ作りの集大成でもある「うずしおベリー」。

記憶に残る果物を作りたい

2021年には新たな転機が。「うずしおベリー」を用いた加工品の販売をスタートさせたのです。パートナーは、東京・西麻布のレストラン「フレンチモンスター」。2020年に鳴門市のウチノ海が見渡せる四方展望台の隣に菓子工房「フレンチモンスター瀬戸内フードアート」を構えたことでも知られています。コラボで生まれたのは、「うずしおベリーの生キャラメル」。ピューレ状にしたイチゴを練りこんだ生キャラメルは、とろける口溶け。朝摘みイチゴの甘酸っぱさが口いっぱいに広がります。

▲「フレンチモンスター」とタッグを組んだ「うずしおベリーの生キャラメル」。

生キャラメルの他に、「うずしおベリーのカタラーナ」や「いちごバスクチーズケーキ」といった独自開発のスイーツも手がけています。

▲「うずしおベリーのカタラーナ」。ぜいたくにトッピングされた角切りイチゴだけでなく、底にもイチゴソースがたっぷり。

収穫で楽しくおいしい学びの体験を

また、冬から春にかけてはイチゴ、夏から秋にかけては梨の味覚狩りを開催しています。
それは、“おいしい体験”のためでもあります。

イチゴや梨がどんなふうに実っているのか。熟しているのはどれなのか。どうすればきれいに採れるのか。ハウスや畑の景色、風や虫の音、土の匂いを感じながら、果実を手に取る。そして、もぎたてをいただく。その体験が学びになるのだと山形さんは言います。

▲体験に訪れていたご家族。みんなで完熟具合を確かめ中。梨狩りは夏の恒例行事になっているそう。

「味覚狩りはお客さんと直接会えるふれあいの場です。収穫してすぐに皮をむいて、果汁がボタボタに滴りながら口にする梨の味って、ずっと忘れないと思うんですよね。僕にとっても採れたてを食べてもらえることが喜びです」と山形さん。

その想いは子ども達にも伝わっています。
取材の日、梨狩りをしていた小学生の田村佑橙(ゆうと)くん、宏橘(こうた)くん兄弟は、梨の鮮度の高さに気づいたそう。「スーパーで買う梨と比べて、採れたての梨は新鮮だから切っただけで果汁が出てくる!」とうれしそうにカットした梨を見せてくれました。

また、「幸水」や「豊水」など異なる品種を食べ比べできるのも味覚狩りの醍醐味。味や食感の違いについて親子で話しながら、食べるのも楽しい。

▲もぎったばかりの梨をその場でカット。

「記憶に残る果物を作りたい」と瞳を輝かせる山形さん。
彼が真心こめて育てるフルーツは、これからも人の心を魅了していくことでしょう。


フルーツガーデンやまがた
徳島県鳴門市大津町大代645-1
http://fg-yamagata.jp/


フルーツガーデンやまがたの商品は、Lacycle mallでお買い求めになれます。

うずしおベリーのカタラーナ(4個入り)
農林水産省経営局長賞を受賞した松本養鶏場の卵を使用し、1つ1つ手作業で作っています。底にイチゴペーストを入れ、上にはふんだんにうずしおベリーを乗せており、イチゴ農家にしかできない価格で最高のスイーツをお届けいたします。