2023年4月、徳島県の山あいにある町、神山町に開校した「神山まるごと高専」。全国で20年ぶりに新設された、全寮制の高校専門学校として全国から注目を集…
2023年4月、徳島県の山あいにある町、神山町に開校した「神山まるごと高専」。全国で20年ぶりに新設された、全寮制の高校専門学校として全国から注目を集めています。“テクノロジーとデザイン、起業家精神”を学べるユニークな学校には、いったいどんな学生が集まり、どのような勉強や寮生活を送っているのか。気になるあれこれを学生自ら、綴っていただきます。乞うご期待!

【第3回】 「3つの学びの軸と、私のお気に入りの授業について」
書き手:若宮小芭音(2年生)
毎月連載の学生まるごと日記、第3回は2年生の若宮小芭音(わかみやこはね)が担当させていただきます。今回の記事では、神山まるごと高専で学生が毎日受けている授業のほんの一部を、学生の視点からご紹介させていただきます!


そもそも、神山まるごと高専は一学科のみの学校で、全学生は「デザインエンジニアリング学科」に所属しています。私たちは“デザイン、テクノロジー、起業家精神”という三つの大きな軸を道標に学んでいます。
高専に入学してからの2年間で、私は掲げられているこの3軸について、それぞれの必要性を入学前と比べ、より感じるようになりました。

まずは“デザイン”について。誰かに物事を伝えるために、できる限りわかりやすく、そして相手にとって受け入れやすい形にするためには、デザインの力が必要不可欠です。
例えば、ただ図形を並べただけのポスターよりも、大切な情報を大きな文字で、そしてそこに視線が集まるよう“理論に基づいたデザイン”を加えたポスターの方が、届けたい情報をより正確に、より多くの人に伝えることができます。入学してから、身の回りのポスターやアプリ、ティッシュの箱などの日用品まで、自分の生活の中に溶け込んでいたデザインに興味を持つようになりました。
また、“テクノロジー”とは、いわゆる“技術”のことです。これは日々変化していく世の中で、より生活を便利に、豊かにするために非常に重要なスキルです。高専の中でも、寮生活をより便利にするため、自転車の貸し出し申請や外出届をデジタルで行えるアプリケーションなどの開発をしてくれている学生がいますが、そういったものにお世話になるたび、テクノロジーの必要性を感じます。
そして“起業家精神”とは、一般的に新しい事業やプロジェクトを立ち上げ、それらを動かして困難に立ち向かう精神のことを指します。私たちの学校では、ないものねだりをせず自分から現状あるものを駆使して新しいものを生み出していったり、チームメンバーとの食い違いなどさまざまな課題の中で、諦めずに進化を重ねて行ったり……。そういう考え方、行動の仕方のことも、この言葉には含まれています。
これはデザインやテクノロジーを用いて、<そもそも何を伝えたいのか>、<どう社会を変えたいのか>を考えるときに非常に重要です。普段の生活の中で、アイディア出しをしたり、チームを作って自分にはない誰かの力を借りたり、そういうときに、普段授業で学んでいる起業家精神が、役に立ったと感じます。
これら3つの力は、どれか一つだけでも成立はするのかもしれません。けれど、これらを全て学んでいる私たちだからこそ、何が必要になるかわからないこの時代を生き抜いていけるという自信が、確かに私にはあります。
では、神山まるごと高専にはどんな授業があるのか。中でも特に私のお気に入りの授業をご紹介します。
まず一つ目は、テクノロジーの部分にあたる、「プログラミング演習」です。
プログラミング演習とは、1年生の「プログラミング基礎」で学んだ技術を、実際の生活に活かす授業です。ただ、プログラミング基礎の授業だけでは、画面に文字を表示すること程度しかできず、“テクノロジー”という言葉を聞いて思い浮かぶ、アプリやロボットなどの開発とはほど遠い、実用性が低いものとなってしまいます。
しかし、プログラミング基礎の授業で十分に勉強しておくと、プログラミング演習の授業へ進んだ際、実際にアプリなどを作り、画面に表示するための実用的なものへと姿を変えます。具体的には、AIと話すことができるSNSサービスの公式アカウントを制作してみたり、プレイヤーが画面上で自由に動いて、発射される弾を避ける“弾幕ゲーム”の作成をしたり、実際に現実世界と繋がりを持ったプログラムを制作することができます。これが、めっちゃ楽しいんです!
新しいことを学べる基礎の授業も、それを応用できる演習の授業も、どちらも楽しくて、アイディアと掛け合わせた自分の技術力が、自分自身の身近な課題を解決する力になるって、本当に面白い。そんなことを感じさせてくれる素敵な授業です。

二つ目にご紹介するのは、起業家精神やデザインに関わる、「文章表現」です。
文章表現とは、今の時代で誰かに物事を伝えるために必要な、言葉での表現の仕方を学ぶ授業です。国語の授業かな?と思う方、いらっしゃるかもしれませんが、実はこれが、普通の国語とは一味違うのです。
この授業では、文法や漢字などを学ぶのではなくて、「伝えたいことを、どうやって伝えるか」、「最も想いが伝わる伝え方は何か」、そもそも「自分が伝えたいことは何か」、ということを考えます。その過程で、幅広く多くの人に納得してもらうための論理性や、反射的に言葉を引き出す力などを学んでいきます。
何より、担当教師である阪本先生がとてもとても熱い方で、しかも面白い‼ わーーーっととんでもない語数で圧倒されることもありますが、一つ一つしっかり飲み込んでいくと、やっぱり面白いし、なんだか優しい!
そんな彼が教える文章表現だからこそ、熱を忘れずに受け続けることができるのだと私は信じています!

最後にご紹介するのは、デザインの軸を担う、「グラフィックデザイン」です。
グラフィックデザインとは、デザインソフトなどを使いながら、パソコンで行うデザインの授業です。普通科高校の科目に置き換えると、いわゆる美術の授業にあたりますが、これもただの美術ではありません。もっともっと、実践的で面白い授業です!
実際に、授業ではデザインソフトの使い方を勉強するだけでなく、神山町内のあるコーヒー屋さんの商品を知ってもらうためのポスターを作り、プレゼンするコンペティションや、学校の駐輪場の外壁という、パソコンや平面に収まらない大きなもののデザインなど、実用を考える必要がある課題も多いです。

その分、アイディア出しの段階から難しく、提出締め切り直前の量では、あちこちから「グラデザ…」という呻き声が聞こえます。本当に辛い。けれど、それをやり切った時の達成感も格別です!
授業名どおり、デザインスキルを学ぶだけの授業と思われがちですが、依頼者やユーザー、第三者の気持ちを考えたり、最後まで粘り強くやり切ったりと、起業家精神も必要とされる最高の授業です。

皆さん、ここまでいかがだったでしょうか。神山まるごと高専の授業、他の学校とは一味違った面白い魅力が感じられたのではないでしょうか。また、どんな授業が行われているのか、どんなことを学んでいるのか、ちょっぴりでも感じ取っていただけたでしょうか。私は入学して二年経ちますが、毎日飽きることなく授業に通うことができています。与えられたことを学ぶだけでなく、知的好奇心をそそられ、社会とつながる実践ができる。そんな授業から学びを得て、私はこれからも挑戦を続けていきます。
また、今回のライターという挑戦で、私から少しでもみなさんの日常に刺激を添えることができたら幸いです。最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!