目次 鉄板の差し入れ いい香りのするジェラート 「食べられるモノはすべてジェラートにします」 素材のポテンシャルを引き出す甘さの微調整 現地…
若き3代目と父が作るお茶
徳島を代表する景勝地、大歩危・小歩危峡。吉野川の激流によって創られた美しい渓谷の流域は、古くからお茶の栽培が盛んです。昼夜の寒暖差が大きく、深い霧に覆われる地形が、茶葉づくりに適しているからです。
吉野川へと注ぎ込む支流・藤川谷川のほとりに建つ製茶工場「曲風園(きょくふうえん)」。
現在3代目として経営を担う曲大輝(まがりひろき)さんの祖父・曲典仁(まがりすけひと)さんが昭和55年にこの地に製茶工場を建設。その後、父親の清春さんが受け継ぎ、2年前に”大将”のバトンを受け渡した大輝さんと一緒に茶葉の栽培を手がけながら、一番摘みの茶葉でつくる煎茶を始め、紅茶や番茶などさまざまなお茶を作っています。
輝く新芽を摘みながら
「夏も近づく八十八夜、野にも山にも若葉が茂る」と茶摘み歌で歌われる“八十八夜”は、立春から数えて88日目のこと。山々の新緑が眩しいこの頃から、芽吹いたばかりの新芽の収穫が始まります。
茶摘みのシーズン、曲風園の1日はとても早いです。
朝6時には車に乗って点在する茶畑を見て回り、その日に収穫する畑を決めます。「今年は霜に結構やられてしまったんですよ」と苦笑する大輝さん。
曲風園では標高200メートルから500メートルまでの間でお茶を栽培。2021年春は3月に暖かい日が続き、芽吹き始めた頃に寒波がやってきて霜がおりたため、標高の高い畑はダメージを受けてしまったといいます。
この日は、製茶工場の向かいにある山にある畑と、工場前の畑を収穫することに。
7時、事務所でお茶を飲んでミーティングをしたら収穫へ。収穫作業は4人で行います。茶刈機を2人で持ち、摘み取られた茶葉の入った袋を後ろで1人が持ってついていきます。もう1人は茶葉でいっぱいになった袋をまとめていきます。
「茶葉の状態を見て、どのくらいの時間蒸したらいいか考えながら収穫してるんですよ」と、大輝さん。
「浅蒸し」で山の香りをそのままに
11時過ぎには収穫を終え、茶葉を工場に運んで製茶を行います。
煎茶は鮮度が命。収穫した生葉をまず蒸気で蒸していきます。
「煎茶の味と香りは、蒸し加減で大方決まってしまうんですよ」と、蒸された葉を手で掴んで、確認する大輝さん。
香りに青臭さが残っていないか、茎の芯まで蒸しが行き届いているかをしっかり確認します。
現在、茶の葉を長く蒸す「深蒸し」が煎茶の主流ですが、曲風園の煎茶は蒸し時間が短い「浅蒸し」で仕立てています。こうすることで急峻な山間地で育った茶葉の特徴である深い香りを保ちつつ、さっぱりとした味に仕上がるのだそう。
製茶は茶葉を見守りながら
蒸した茶葉は冷却し、4つの「揉み」の工程を経て、「荒茶(あらちゃ)」と呼ばれる状態にしていきます。
1.粗揉(そじゅう)
乾燥した熱風を送り込みながら打圧を加え、適度に摩擦・圧迫しながら揉みます
2.揉捻(じゅうねん)
茶葉の組織を破壊して水分の均一化を図るため圧力を加えて揉みます
3.中揉(ちゅうじゅう)
乾燥した熱風を送りながら打圧を加えて揉みます
4.精揉(せいじゅう)
茶葉の水分を取り除いて乾燥を進めながら一定方向に揉みます
生葉から荒茶になるまでおおよそ4時間。
交代で昼食を取って、つねに茶葉の様子を見守ります。
こうしてできた「荒茶」に火を入れて、ようやく煎茶が完成します。
地域の風景も受け継いで
午前中に収穫した茶葉を製茶している間、工場には次々と収穫した茶葉が運ばれてきます。地域で茶葉を育てた人たちが煎茶にしてもらうため、曲風園に委託をしているのだそう。遠く東祖谷や高知県の大豊町から1時間ほどかけて運んでくる人たちもいます。
「吉野川上流域は昔からお茶の栽培が盛んで、かつてはあちこちの地域に製茶工場があったんです。けれども高齢化や過疎化でお茶を栽培する人が減り、それに伴って閉鎖した製茶工場もいくつもあります」と、大輝さん。
大輝さんが子どもの頃は曲風園にも今よりも多くの茶葉が運び込まれ、父親の清春さんと叔父の盛一さんは24時間寝ずの番で製茶をしていたのだそうです。お茶の委託製造は会社の収入源のひとつ。「このまま先細りなのかな」と悩んだ時期もあったと、大輝さんは言います。
遠方からわざわざ曲風園に製茶製造を委託にくる生産者が多いのには、理由があります。それは、どんなに少量でも生産者ごとに茶葉を蒸して揉んで、煎茶に仕立てているから。
そうしてできた丁寧に仕立てられた煎茶は、自家用として飲んだり、親戚や友人に配ったり。
このようにお茶はこの地域で受け継いでこられました。なかには袋詰めして産直市などで販売する人もいます。
また、曲風園では高齢化で手入れができなくなった茶畑を預かって、お茶を栽培しています。「自分たちができることで、地域の産業や風景を受け継いでいけたらと思っています」と、大輝さんは屈託のない笑顔を見せます。
山のお茶、山の味
「できたての今年の新茶を、ぜひ飲んでください!」と、忙しい製造の合間を縫って大輝さんがお茶を煎れてくれました。 まず驚いたのが、形が整っていて、綺麗な深緑色をした茶葉の美しさ。
顔を近づけると、若々しく、みずみずしい香りがします。
沸騰したお湯を湯冷しさせ、70度のお湯で1分30秒かけて抽出します。
「新茶は少し温度が高めがいいんですよ」と、「日本茶インストラクター」の資格も持つ大輝さんのアドバイス。
煎れてもらったお茶は、すっきりしているけれどお茶の香りが感じられ、爽やかな飲みくち。
「山で育ったお茶は浅蒸しでつくることで、お茶本来の香りを楽しんでいただくことができるんです」。
そして浅蒸しのお茶は2煎目、3煎目も楽しめることだと教えてくれました。
あくなき探究心が生み出す新しいお茶
大輝さんはまた、「茶審査技術 六段位」の資格も持っています。
「茶審査技術」とは、全国のお茶産地のお茶を葉の形や香りだけで判別し、飲まずに答える競技で、得点に応じて初段から十段までの段位が授与されるのだそう。
この資格を持つのは、徳島県内では大輝さんだけです。資格を取った理由を尋ねると、「お茶の良し悪しを体系的に学びたかったから」とのこと。続けて、「こうした資格を持つことで、全国の生産者と交流を深め、知識や技術の研鑽になる」と力強く話してくれました。
祖父や父親から受け継いだお茶づくりを大切にしながらも、さらに新しいことにも積極的に挑戦をしています。
例えば、これまでは摘んでこなかった「2番茶」で紅茶を作ったり、秋に芽吹いた茶葉で番茶を作ったり。番茶を炒って香ばしく仕上げた「炒り歩危番茶」は県内の土産物店や産直市でも多く取り扱ってもらって、人気商品となっています。
そして、「おくはるか」という新しい品種を育てることにも挑戦。
数年前に埼玉県の狭山で品種改良されたこの品種は”桜の葉の香り”がして、柔らかく華やかな香りが特徴です。
まだ31歳の大輝さんに、これからやってみたいことを尋ねてみました。
「お茶のうまみや香りをもっと追求していきたいんです」と力を込めます。
お茶づくりは収穫や製造以外にも、四季を通して地道な作業を要します。曲風園ではこれまでも害虫の防除や農薬は使わず、自然環境にも負担をかけない栽培を大切にしてきました。夏は急傾斜地の畑での草むしり、そして年4回与える肥料もこだわり、県内の業者に依頼して有機質の多い肥料をオリジナルでつくってもらっているそうです。
「さらに土の力を高めていくことで、理想とするお茶を追求していきたいです」と、大輝さんは目を輝かせていました。
曲風園
徳島県三好市山城町上名196
https://kyokufuen.com/
曲風園の商品は、Lacycle mallでお買い求めになれます。
大歩危和紅茶ティーバッグ(3g×8個)
徳島大歩危で作った優しい味わいで飲みやすい和紅茶!徳島三好市大歩危で育ったお茶の葉で作った紅茶です。苦みや渋みが少なくすっきりとした味わいでストレートでも飲みやすい紅茶に仕上がっております。