梅の里・美郷から笑顔を生む梅酒づくり

梅の里・美郷から笑顔を生む梅酒づくり

県内有数の梅の里へ

梅雨の晴れ間、「梅の収穫がはじまった」との知らせを受けて、徳島市から約1時間車を走らせて吉野川市美郷(みさと)地区へやってきました。ホーホケキョ、ホーーーホケキョ。ぐるりと囲まれた山のどこからともなくウグイスの声が聞こえてくるのどかな町です。

ここ美郷地区は、春になれば町のあちこちで梅の花が咲き誇る県内有数の梅の産地。「家に梅の木があるから」と、梅干しや梅酒を毎年仕込む家庭も多くあります。そんな地域性を活かし、2008年に全国で初めて「梅酒特区」に認定されました。

梅酒特区とは、特区内で生産された梅を原料に同区内で梅酒を製造した場合、年間1000リットルという少量生産の事業者でも酒類製造免許を取得ができる特例措置を設けた地区のこと。現在、美郷地区では5つの酒蔵が梅酒づくりに取り組んでいます。

この日伺ったのは「東野リキュール製造場」。
美郷地区で一番に免許を取得した酒蔵です。

▲ 「東野リキュール製造場」の東野宏一さん。京都でサラリーマンとして働いたあと60才で退職し、地元・美郷町へ帰ってきました。

事務所の軒下でのんびりくつろいでいた蔵元の東野宏一さん。直売所を兼ねている東野リキュール製造場には遠方から梅酒を買いにお客さんがやって来ることもしばしば。そのため一日のほとんどをここで過ごしているのだそう。ほがらかな笑顔で迎えてくれました。

「いつも梅酒用の梅を買っている農園で収穫がはじまったらしいけん、今日はこれから梅を受け取りに行くんよ」。

実は、東野さんが梅酒を仕込むのは1年のうちにたった3日だけ。この日、東野さんの13回目の梅酒づくりがはじまりました。

幼馴染みが育てた梅で

梅の収穫の様子も見学させてもらえることになり、東野さんと一緒に近所の天野農園へ。エコファーマーにも認定されている美郷地区で一番大きな梅の農園です。

▲ 天野農園の様子。多品種の梅をランダムに植えているのだそう。

ひと山まるごと梅の木ばかりの広大な農園!
すでに収穫中だという梅の木の辺りまで歩く時間はちょっとしたハイキングのよう。

天野農園ではさまざまな品種の梅を育てていますが、東野リキュール製造場が梅酒づくりに使用しているのは「竜峡小梅」と呼ばれる小梅。ここでは梅干し用に栽培されているものです。
「すっきりとした味に仕上がるし、梅の香りがよくわかるから」と東野さんは話します。

▲ 味見をしている様子。本来は生で食べるものではないので、少しかじって味をみるとすぐにペッと吐き出します。

「これが竜峡小梅よ」と梅の実を指差し教えてくれました。
収穫がはじまる少し前になると天野農園を訪れ、今年できた小梅をひと口味見させてもらうのだそう。

「今年のはちょっと甘いかなあ。イベント出店などで接客をするときに今年の梅の味を話のネタにするんよ」。

▲ 毎年近所の方たちが手伝いにやってきます。東野さんも数年手伝っていた時期があるのだそう。
▲ あっという間に網の中は梅の実でいっぱいになりました。

広い広い農園のなか、収穫途中の天野農園オーナー・天野宜正さんたちを発見しました。
ブーンと大きな音を立てて振動する収穫機を枝に当て、一気に梅の実を網に落としています。毎年手伝いに来ている方たちとあうんの呼吸で手際よく収穫作業が進んでいきました。

▲ 収穫後はその日のうちに選別機でサイズごとに分けていきます。
▲ 天野農園の天野宜正さん(左)と東野宏一さん(右)。家が近所で小さい頃から馴染みの仲なのだそう。

収穫された小梅のうち、東野さんがこの日受け取ったのはコンテナ8ケース分。東野さんは「一日に仕入れる量は翌日の午前中に仕込める分だけ」と決めています。車いっぱいに梅の香りを漂わせて、酒蔵へと運びました。

夜風でゆっくり乾燥

西日が軒下に差し込みはじめる頃合いまで待ってから受け取ってきた小梅の洗浄がはじまりました。

▲ これまでは夫婦二人でやってきましたが、奥様の千里さんが亡くなってからは妹の河村美佐子さんが洗浄の手伝いに来てくれています。

「日が出てない夜の間に陰干しをした方が梅の実の蒸発をできるだけ抑えられるんよ。梅の香りが水分と一緒に飛んでいかないようにしたいけんな」。

収穫後24時間以内に梅を漬け込むことにこだわっているのは、何より香りを逃さないようにしたいから。

▲ 西日が当たって美しく光る小梅。
▲ 水分を含んだ梅を運ぶのは重労働のようでした。

たっぷりの流水でざっくざっくと小梅を洗って汚れを落としていきます。洗った小梅は軒下へと移動し、ひと晩夜風でゆっくりと乾かします。

さて、翌朝からいよいよ梅酒仕込みです。

シンプルな材料で香りを生かす

朝8時半。
この日の梅酒仕込みのパートナーは弟の東野義孝さん。

「味がにごってしまうから」と、まずは熟れ過ぎているものや傷があるものを省く作業をしています。最後まで良い梅酒づくりのための梅の選別を怠りません。

▲最終選別中の梅。

東野リキュール製造場の梅酒は梅、氷砂糖、ホワイトリカーというシンプルな原材料のみでつくられています。

仕込みも効率よくシンプルな手順。
義孝さんが梅を量って空ボトルに入れたあと、東野さんが適量の氷砂糖を入れていきます。最後に、県内の酒造メーカーから直接仕入れてきたホワイトリカーを2本ずつ並べて栓を抜き、手際よく注入。封をしてラベルを貼って、棚へ。隙のない流れ作業で梅仕事はさくさくと進みます。

▲ 蔵の半分は昨年仕込んだ梅酒。1年半分の在庫を持つようにしているのだそう。

漬け込むのは家庭用で使われる8リットルのボトル。

「業務用ではなく、小さなボトルに漬け込むのは一本一本分量を測る必要があるので大変。だけど、納品が必要な分だけボトルを開封することができるけん、梅の香りを閉じ込めるという点ではこの8リットルサイズのボトルが良いんよ」。

▲ 「酔ってしまうけん」と途中で何度か休憩を挟んでいました。

仕込みは予定どおり午前中で終了。
これを3日間繰り返し、残す梅仕事は秋に一度、ボトルを開封して攪拌するだけ。11月に新酒が出来上がるまであとは静かに待つのみです。

梅酒から広がる輪

5つの酒蔵が新酒を披露する「美郷梅酒まつり」は、約3000人以上の来場者があるお酒好きには堪らないイベント。

毎年11月の最終土・日曜に開催されていましたが、残念ながら開催中止になった2020年と2021年は、東野リキュール製造場が個人で主催する「新酒お披露目会」として、製造場の敷地内でしっかり感染対策をしながら開催されました。

▲ 自分たちで設営した小屋が並ぶ2021年の「新酒お披露目会」。
▲ 東野リキュール製造場の新酒をお披露目!

約半年ぶりにお会いした東野さんからは「今年の出来は最高!」と喜びの声。
毎年同じ味を楽しめるように梅酒を仕上げているけれど、今年は豊作で例年より収量の多い良い実を入手できたと話します。

東野リキュール製造場では一年以内にほぼ売り切れる分の新酒しか仕込みません。梅酒と言えば熟成させるイメージもありますが、「時間が経つと味が丸くなって、梅の酸っぱさや香りが薄れてきてしまうから」と、新酒にこだわり提供しています。

▲ 「ホーホケキョ」(右)と「ホーホケキョ 」辛口(左)。

いち押しは2015年に発売した新商品「ホーホケキョ」。
すっきりとした味で竜峡小梅のさわやかな香りが楽しめると人気の定番商品「白竜峡」をアレンジし、よりいっそう女性に楽しんでもらえるようにとアンケートを取りながら開発。アルコール度数は低めで、フルーティーな甘さとキレのある味わいでとても飲みやすい一本に仕上がっています。

▲ 京都のバー「ROBBINS BAR」が「ホーホケキョ」を使ってスパイシーなオリジナルシロップを開発し、カクテルを提供していました。
▲ 近所の方を中心ににぎわっています。昨年よりも2倍近い来場者があったのだそう。

会場では、美郷地区の焼き鳥屋さんやパン屋さんなどさまざまな出店者が集い、大勢のお客さんが楽しんでいます。県外で暮らす東野さんの息子さんご夫婦も手伝いにやってきている様子。若い青年たちも来場しているなと思えば、お酒を飲めるようになった孫たちがみんな揃って遊びに来ていたようでした。

▲ 「お祭りが大好き」と嬉しそうに会場を見渡す東野さん。

離れて暮らす家族も、出店している方々も、来場する方々も、みんなが楽しそうにしている姿を見て、笑顔が耐えない東野さん。

つくった梅酒を販売するために県内外のイベントに出店して忙しくしているという東野さんは自らを「一番忙しい田舎の年寄りよ」と話します。

美味しい梅酒をつくることはもちろん、その先に広がる梅酒を通した人との交流が、東野さんをこんなにも精力的にさせているのかもしれません。

▲東野リキュール製造場を立ち上げた当初に制作したポスター。東野さんご夫婦の満面の笑みが印象的です。

東野リキュール製造場
徳島県吉野川市美郷川俣5-5
tel.0883-43-2216


 

東野リキュール製造場の商品は、Lacycle mallでお買い求めになれます。

ホーホケキョ

全国初の梅酒特区に認定された徳島県の美郷地区で作られた本当の手仕込みの梅酒です。フルーティーな甘さとキレのある味わいをお楽しみください。