“四国の右下”から海の幸
魚で豊かな食卓を

“四国の右下”から海の幸 魚で豊かな食卓を

小さな漁師町の朝

夜明け前から漁場に繰り出し、たくさんのイセエビを載せた船はもうとっくに港に戻ってきたあと。
朝9時過ぎの静かな牟岐(むぎ)町の漁協周辺にいるのは、次の漁に向けて網を直している漁師さんや、「これから干すんよ」と獲ってきたばかりのウツボをさばいている漁師さん。時折、イカやウツボ、ハマチなどそれぞれの漁を終えた小さな船が海面に白い一本の線を引きながら港へ向かってきます。

▲ 牟岐町役場や牟岐東漁協がある町の中心部。山と海に挟まれたコンパクトな町です。

ここは「四国の右下」と呼ばれる徳島県南部のエリアに位置する牟岐町。海も川も山もぎゅっと近くに感じられる小さな漁師町です。

穏やかな清流・牟岐川での川遊び体験が人気だったり、巨大なサンゴが見られるダイビングスポットがあったり、貝の資料館があったり、沖合の出羽島でアート展が開催されたりと、自然を生かした見所もたくさん。

そして、町の特産品と言えばやはり、干物や鰹節、ちりめんなどの海産物。潮風に揺れる天日干しの魚たち、食卓に並べる干物を焼く匂いは、町を彩る風景のひとつです。

▲ 泉源の工場の様子。

「初代は天秤棒を担いで行商していたんです」と話すのは「泉源」7代目の和田原明(わだはじめ)さんと智子さんご夫婦。江戸時代末期の話だと言います。

創業150年以上になる泉源は、天秤棒を担いで町を走り回っていた頃から受け継いできた海産物づくりと並行し、現在では県南部有数の鮮魚の仲介卸売業者として徳島県南部から高知県東部までに及ぶ約30の漁港へ買い付けをしに走り回る、老舗海産物問屋です。

泉源の朝は忙しなく、鳴り止まない携帯電話に次々と対応する原明さんの姿がありました。電話は各地で鮮魚の入札をしているスタッフたちから。現地の状況を確認して買い付けの指示をしたり、卸先へ交渉をしたりと、昼が来るまで原明さんの気が休まる時間はありません。

正直な商売を

原明さんが泉源の後継として牟岐町に戻ってきたのは28歳の頃。
それまで修行をしていた築地市場で、市場や仲買さんがどういうものを欲しているかを学んできたのだそう。

▲ 「東京オリンピック2020」の聖火ランナーも務めた泉源7代目の和田原明さん。

漁が行われるのはほぼ毎日。
太平洋に面した「四国の右下」では、黒潮に揉まれてたくましく育ったアジ、サバ、アオリイカ、ブリ、カツオ、タイなど、さまざまな種類の魚が水揚げされます。

▲ 牟岐町の隣町、海陽町にある鞆浦(ともうら)漁港。朝9時ごろ、この日水揚げされた鮮魚の入札がはじまりました。
▲ 入札の様子。一番高い値をつけた人が買い取ることができます。

泉源が買い付けた鮮魚は、一部が地元のスーパーマーケットへ。そのほとんどが京阪神や豊洲の魚市場に卸され、全国に出回ります。

▲ Tシャツの背中には「品質第一」と書かれた前掛け猫のオリジナルキャラクターが。

「正直な商売をする」。
泉源が大切にしていることだと言います。

「自分たちが買い付けてきた鮮魚の良いところも悪いところも見極めて、それを正直に卸先に伝えることを大事に考えています。鮮魚の状態をしっかり伝えることが信頼になっていくはずだから」。

受け継いできた伝統の味

「正直な商売を」の精神は、泉源の海産物づくりにも。
干物や加工品のほとんどの商品を無添加で丁寧につくり続けてきました。

サバ、サンマ、スルメイカ、アイ(アイゴ)などのさまざまな干物商品のなかでも、泉源の看板商品といえば「タチウオのみりん干し」です。

▲ 味付けしたタチウオを使い込まれた網の上に一本一本並べていきます。

ちょうどこの日は、みりんや醤油などの秘伝のタレにひと晩漬けておいたタチウオを乾燥室へ入れる作業をしていたところ。これから1日半ゆっくりと乾燥させます。

先々代の奥さんから作り方を受け継いだのは専務の和田公明さん。
以来約50年、その味を守り続けています。

▲ 「ゴマ振り名人!」とスタッフさんから呼ばれていた和田公明さん。さすがの手さばき!
▲ これから乾燥室へ向かうタチウオ。魚種や加工内容によって乾燥時間を調整しているそうです。

骨抜きをしているので食べやすく、手で割きやすい絶妙な硬さの干し加減に仕上げています。

▲ タチウオの長さそのままでパッケージされているのが面白い。持ち運びやすく食べやすくカットされたものもあります。

「軽くトースターなどで焼いたら、七味を振ったマヨネーズで食べるのもおすすめなんですよ」と、出汁ソムリエでもある料理上手の智子さんが教えてくれました。

噛めば噛むほど旨味がにじみ出てきて、いくつでも食べられそうな美味しさ。七味マヨネーズとの相性も抜群で、お酒のアテに重宝しそうな一品です。

手軽で美味しい魚のお惣菜

鮮魚や海産物などの「海の幸」を7代にわたって食卓に届け続けてきた泉源ですが、「魚離れを感じはじめている」と原明さん智子さんご夫婦は話します。

そこで、「食卓に手軽な魚料理を並べてもらえたら」と、2013年に発売したのが「いず坊シリーズ」。「面倒な下処理をしなくても良い」「すぐに食べられる」「後片付けが楽」をコンセプトに試行錯誤を繰り返しながら、無添加にこだわり開発した魚料理のお惣菜シリーズです。

▲ 猫のオリジナルキャラクターが目印の「いず坊シリーズ」。

現在では「タコのオリーブオイル漬け」や「太刀魚骨チップス」など約10種のラインナップが、徳島県内の道の駅やスーパーマーケット、工場直売で販売されています。

▲ スルメの上に具材をバランスよく配置し、きれいに巻いて仕上げています。ゲソまでまるごと使用。

なかでもヒット商品は「まるごとイカロケット」。
開発のヒントはいかめし。米の代わりに巻き込んだチーズがスルメイカと絶妙にマッチし、食べ応えもしっかりある一品です。輪切りにしてそのまま食卓へ運ぶことができるのでらくちん。

味はプレーン・わさび・ブラックペッパーの3種類を展開。
わさび入りやブラックペッパー入りは少し刺激がある大人向けの味かと思いきや、辛さは控えめ。甘みのあるスルメイカとの甘辛さのバランスがよく、食べやすさに驚かされました。

▲ 写真右が「トコブシのうま煮」、左が輪切りにした「まるごとイカロケット・わさび」。おつまみにも良さそう。

そして、この地域ならではの一品と言えば「トコブシのうま煮」。
トコブシとは「流れ子」とも呼ばれるアワビの仲間。肉厚な身で柔らかな食感が特徴です。かつおやこんぶでとった出汁で親しみやすい味付けに。ひたひたに染みた優しい味がじゅわっと口の中に広がります。

どちらも「袋から出して切るだけ」「袋から出して軽く温めるだけ」と、簡単に食事の準備を済ますことができました。忙しい家事を助けてくれる万能選手になりそうです。また、ハレの日の一品としてもおすすめ。

“四国の右下”から全国へ

取材を終えて泉源を出ようとした午後、加工作業をしていたスタッフたちが手を止めて作業場へ集まりはじめ、次第に慌ただしくなってきました。買い付けてきた鮮魚を載せたトラックが戻ってきたようです。

「鮮度が命!」と、すぐさま県外の市場へ向けての発送準備がはじまりました。

▲ 手際良く黙々と作業を進めるスタッフのみなさん。

選別する人、梱包用の発泡スチロールを並べて行く人、中に氷を入れて整地する人、魚を詰める人、最後に屋号を書いたフィルムで梱包する人。流れるように作業が進み、あっという間に発送待ちの発泡スチロールの箱が積み上げられていきました。

「ベテランスタッフたちに支えられているんです」と智子さん。30年以上勤めているベテランスタッフもいるようです。

▲ 交通の便が良くなったおかげで、県外への流通が広がったと言います。

安心して食卓に並べられる良い鮮魚を、良い海産物を。
創業から150年。信頼される正直な仕事で、今日も「四国の右下」から日本各地の食卓へ、海の幸を運んでいます。


泉源
徳島県海部郡牟岐町牟岐浦浜崎177
tel.0884-72-1136


 

泉源の商品は、Lacycle mallでお買い求めになれます。

太刀魚のみりん干セット

太平洋の黒潮で育った太刀魚を丁寧にみりん干にしました。懐かしい味付けが好評で、泉源のベストセラー商品。