鳴門のうず潮がもたらすのは究極のしまり
土産店が作る干物は飯がうまい

鳴門のうず潮がもたらすのは究極のしまり<br>土産店が作る干物は飯がうまい

輝く魚、見惚れる手さばき、昔ながらの天日干し

「魚が入りました!」と連絡をいただき、鳴門市街から小鳴門橋を渡り大毛島へ。到着するとスタッフ2人がシャシャシャッと室内に音を響かせながら無言で桜鯛の鱗(うろこ)を落としています。

「ASMR音源(高品質で録音された耳心地の良い音源)として聞いたら気持ち良いだろうな〜」などとくだらないことを考えながら、視線は優しいピンク色をした桜鯛に奪われます。傷ひとつなく、背中にあるコバルトブルーの斑点とのコントラストが美しいのは新鮮な証拠(時間が経つにつれ、青色はくすんでゆきます)。

▲スタッフの中でも干物を担当するのは精鋭のこのおふたり。
▲最近は温暖化の影響なのか、漁獲量や時期などが不安定だそう。

鱗を落とされた桜鯛はまずエラ部分に包丁を縦に入れ、スーッと尾びれまで刃を寝かしながら一直線。器用に手で開いて内臓を取り除き、ブラシで血合いなどを洗い流せばよく見かける干物の姿となります。鱗を落としてからここまでトータルで15秒ほどのテクニック。硬い骨が刺さったり、個体によって変わる刃入れの見極めの難しさなど、慣れるまでは苦労も多いですが、10年近く経験を積んだ二人の流れるような手さばきはさすがです。どうしても見惚れてしまいます。次に桜鯛は輝きを残したまま1時間塩水に浸され、3時間ほど天然の風にあてながら屋上で干します。

▲「包丁を入れる場所に最初は苦労しました」とのこと。
▲内臓を取り除いている様子。
▲血合いなどをブラシで落とします。
▲味の決め手となる塩水の濃度は魚の種類によって変えます。
▲店舗の屋上にて天日干し。風が強すぎる日は海岸の砂が付着するので干せません。

薄すぎない塩加減は、酒よりも米がすすむ

ここまでだけ読むと魚屋のような日常ですが、「豊田商店」は新鮮な野菜や徳島県の定番商品も扱う土産物店です。ただ、店を見渡すと約半分が干物。鯛だけでなく、鯖やサヨリ、カレイなど乾物屋にも劣らない種類には県内外問わずコアなファンが多くリピートしているのです。

▲多くの種類が陳列された干物コーナーは博物館のようです。

人気の理由はいくつもあげられますが、特に県外の人々が驚くのは魚の食感です。渦潮の激しい流れに揉まれ泳ぎ続ける魚たちの身は、箸をあてるだけではほぐれません。他県や県内他地域の魚と比べても歴然です。それでいて脂のノリも絶妙で、皮と身の間にはたっぷりと旨味が凝縮され、炙ることで一気に良い香りが立ち上がります。

これを嗅いでしまうと、条件反射で日本酒をやりたくなるのですが、「豊田商店」の干物は“かぶりつきたいガッツリ系”とでも表現しましょうか。試行錯誤を重ねたという塩加減と鳴門の強い潮風と太陽によってもたらされる素材の味を活かしたうす塩仕立て。次の一口が止まらなくなります。

干物といえば強い塩気で、ちびちびとお酒を嗜むイメージもあると思いますが、完璧な塩加減はお酒よりも料理に活かしたい仕上がりです。店主の娘・渡邊英子さんの推しは、鯛であれば炊き込みご飯。太刀魚は紫蘇と梅を巻いて天ぷらに。その他、炒め物やムニエルなど、和洋問わず様々な料理で活躍してくれるようです。春は桜鯛、夏にかけてはカマスやボウゼ。秋には、しっかり脂がのってくるアジや鯖が旬なので、季節ごとにオススメの調理を伝授してもらいながら選ぶのもおすすめしたいです。

▲皮に焼き目が付き始めると同時に漂う香り…店内で食べることもできるのでご安心を!

青果の行商からはじめて50年

県内の通から愛され、TVメディアでもしばしば取り上げられる「豊田商店」の始まりは1973年、店舗を持たない青果の行商から始まりました。鳴門で看護師として働いていた店主・豊田ハナ子さんは病院を退職し、近所のおじさんが貸してくれた車に鳴門の野菜や果物を乗せて移動販売を始めました。

当時は鳴門市街へ向かうための小鳴門橋が有料で、スーパーマーケットも多くなかったため、新鮮な素材たちは鳴門の人々に喜ばれたそうです。その後、またまた近所のご縁で土地を貸りられることとなり、小屋を建てて小売を始めたのが現在の「豊田商店」の原型となります。以前は主に県南の魚を取り扱っていましたが、2007年ごろから経営理念を“ふるさと鳴門 ふれ愛づくり”と定め、これまでお世話になった鳴門の人々が作った素材の素晴らしさをアピールするため、地元で獲れた魚だけを扱うようになりました。

▲店の端っこに掲げてあった経営理念。

「母はあまり商売に向いていない性格で、当時は多くの苦労があったと聞いています。そんな時に助けていただいたのが鳴門の方々です。忙しい母の代わりに幼い私をお風呂に入れてもらったり、学校へ送っていただいたことも多々。思い出はたくさんです。魚はもちろん、徳島の皆さんはご存知だと思いますが鳴門はワカメも絶品。加えてミネラル豊富な砂地畑で栽培する、ここ大毛島のらっきょうは小粒ながらも歯ごたえが良くクセになります。蓮根や鳴門金時も美味しいですよね。鳴門は食の宝庫。でも鳴門だけでなく四国は全体で食資源が豊かですよね。私たちはその四国の玄関口として存在する鳴門を今後もアピールできればと思っているんです。それがお世話になった方々への恩返しですね。なので、香川や高知への通り道にならないように頑張ります(笑)」。

▲天然のワカメを一度経験すると、これまでのワカメにはもう戻れない……。
▲らっきょうは鳥取だけじゃない!
▲店内のイラストや文字がいちいち可愛いんです。

1985年の大鳴門橋開通と共に観光客が増えたとはいえ、やはり通過県の印象が強い徳島。他県と比べて大きな武器を持っていないのかもしれませんが、目立たないところに小さな魅力が見つかるのが徳島の魅力ではないでしょうか。ローカルならではの輝きが鳴門には多くあり、その故郷の輝きを一途に愛し続ける『豊田商店』が徳島の入り口として在り続けているのは徳島の誇りです。

▲店の前は常に良い風が吹いています。
▲店主(左)・豊田ハナ子さんは美馬市穴吹生まれ。山の子から海の女へ。


豊田商店
徳島県鳴門市鳴門町土佐泊浦高砂203-2
tel.088-687-0856
http://www.toyota-web.com/


 

豊田商店の商品は、Lacycle mallでお買い求めになれます。

鳴門海峡 海の幸セット

激流の鳴門海峡でとれた新鮮なお魚にこだわり、うす塩で昔ながらの無添加・天日干し製法で1枚1枚丁寧に作っています。