“にし阿波”の山へ、町へ。文化と暮らしを探る旅。【第1回前編】
はじめに “日本の原風景”を感じる風景や文化に出合うことができる場所として、近年、徳島県内で注目のエリアというのが“にし阿波”。県西部に位置する「三好…
「わあ、いい香り!」と「阿波酢造」に入るやいなや思わず声をあげてしまうほど、一帯に漂うみずみずしく爽やかな香り。「ほんなに匂いしとるで? もう慣れてしまって気づかんかったわ」と笑う代表の吉野学さん。この充満する香りの秘密は、朝から工場で大量のすだちの搾汁が行われているから。
「うちの柑橘酢は果汁100パーセントの本物の味」と吉野さん。1946年(昭和21年)に創業し、「徳島県内で一番最初に搾汁事業をはじめた」という「阿波酢造」では、すだち、ゆず、ゆこう、だいだいといった徳島県を代表する柑橘類から絞った柑橘酢や、柑橘酢入りドリンクなどを製造販売しています。
「阿波酢造」がある徳島県勝浦郡勝浦町は、“温州みかんの町”として知られる山あいの町ですが、じつはすだちを中心とするさまざまな柑橘類の栽培も盛ん。さらに、すだちの生産量の多い佐那河内村や阿南市、ゆずとだいだいの自然交配種・ゆこうが生まれた上勝町といった県内有数の柑橘の産地に囲まれた立地とあって、多くの柑橘類が「阿波酢造」へ集まってきます。
「9月から10月頭頃までのすだちの収穫時期は、無休で毎日17時まで集荷を受け付けているんです。だいたい1時間に2、3台くらいは納品に来てるかなあ。多い日は集荷場前にトラックの行列ができる日もありますよ」。
取材をしている間も、収穫したすだちをコンテナいっぱいに載せた軽トラックが次々にやってきます。
高齢の農家さんも多く、「うちの若いもんが運ぶけん、休んどっていいけんな」と、吉野さんがすぐさま農家さんに労いの声を掛けていました。
「農家さんとは長い付き合いの方が多いんです。私がここに嫁いできた頃から30年以上お世話になっている方もいらっしゃいます」と専務の吉野明美さん。納品にやってくる顔馴染みの農家さんたちを笑顔で迎え入れます。
「私たちは農家さんとお客様とを繋ぐ“パイプ役”なんです」。
農家さんが真心込めてつくった作物を、たくさんのお客さんに届けるため、大切に商品にすることが使命だと話します。
「代表は一番のきれい好きで、メンテナンスもきっちり徹底する性格なんです」と代表の娘でもあるスタッフの雅子さんが話すとおり、工場内の衛生管理を徹底。また、商品の品質管理にも余念がありません。
その日のうちに搾汁しきれないすだちは、敷地内にある100坪ほどの冷蔵倉庫で保管。また、作物を集荷用パレットに移す時に直射日光や雨が当たりにくくなるよう、工場に大きな軒下をつくりました。
「少しでも作物が痛んでしまったり、キズが入っているものがあったりすると、果汁の品質に影響が出てしまう」と吉野代表は話します。
原料搬入から商品の搬出までを短時間に行うことも品質を守るために重要なこと。一日最大50トンもの果実を搾汁できるという自動搾汁機のベルトコンベアに載ったスダチは、スタッフが手作業で検品したあと、サイズの選別、洗浄、搾汁、充填と、スピーディーで無駄のない製造ラインで加工されていきます。
2020年には「徳島県HACCP認証(徳島県衛生管理認証)」を取得。各農家さんの使用した農薬や栽培履歴などのチェックを行い、安心安全な製造環境を整えています。
徹底した品質管理もさることながら、吉野代表は自らの健康管理も怠らないようです。30年以上毎朝、必ず続けている健康法があると教えていただきました。それは“柑橘酢を水で割って飲むこと”。
「今は『ゆこう酢』を飲んどる。ゆこう酢は、まろやかな酸っぱさで飲みやすい。ほんのちょっとのゆこう酢をコップに入れてその中に水をたっぷり入れてクッと飲む。シャキッとして元気になるけん、仕事に向かう前の習慣になっとるんよ」。
柑橘果汁には疲労回復や血流改善に良いと言われるクエン酸や抗酸化作用を持つビタミンCが豊富に含まれていることから、この健康法は間違いなさそう。
果汁100パーセントの柑橘酢には、醸造酢などは一切使っていません。こんな風に水割りで飲む他、日本酒やビール等に加えて楽しむのもおすすめ。もちろん、冷奴や唐揚げなどにかけたり、酢の代わりに調理に使ったり、さまざまに活用できるので冷蔵庫に常備しておくと便利な一品です。
希釈せずとも飲める夏季限定のはちみつ入りの柑橘酢ドリンクは、手軽においしく水分補給や疲労回復ができる一杯です。
さて、これだけ毎日柑橘を搾っていたら、皮や種などの搾りかすがどうなるのか気になるところですが心配ご無用。「阿波酢造」では、2001年に堆肥舎を建設し、柑橘の搾りかすをもみがら等と混ぜ合わせ、有機肥料へと生まれ変わらせているのです。
この有機肥料は作物を納品している契約農家さんの畑にも届けられ、土づくりから商品づくりまで、柑橘を中心により良い循環が生まれています。
すだちが終わると10月からはゆこう、10月終わりから11月いっぱいはゆず、12月にだいだいが収穫され、搾汁は続きます。その時々で違った柑橘の香りが工場いっぱいに広がっているのだろうなあと、想像するだけで爽やかな気分になります。
「いずれは自社農園をつくって、そこにバーベキュー施設等も併設して楽しめる場所をつくりたい」とまだまだ大きな夢を語る吉野さん。柑橘のある町を堪能できる魅力的なスポットが誕生する日が楽しみです。
株式会社 阿波酢造
徳島県勝浦郡勝浦町大字生名字神ノ木52-1
tel. 0885-42-2800
https://www.awasuzo.jp/
阿波酢造の商品は、Lacycle mallでお買い求めになれます。
徳島県産の鮮度の高いすだちを丸絞りしたすだち果汁100%です。他の柑橘にはない爽やかな香りと酸味が特徴です。皮ごと搾汁しているため、果皮に存在する香り成分やポリフェノール(スダチチン)が含まれます。