いつも根っこにあるのは「もったいない」を活かす心

いつも根っこにあるのは「もったいない」を活かす心

規格外のれんこんをどうにかしたい

青々とした大きな葉を茂らせる夏。立ち枯れる茎の下で収穫を待つ冬。徳島県鳴門市の広大なれんこん畑は、季節の移ろいを知らせる情景のひとつです。

そんなれんこんの産地で40年以上、野菜の加工業を営んでいるのが「仲野産業」。元は米農家だった故・仲野長男(おさお)さんが農協の職員に“ある相談”をもちかけられたことをきっかけに昭和52年に創業しました。

「れんこんってね、掘り起こすんがごっつい難しいんですよ」と話すのは仲野長男さんの孫にあたる常務の山田大二郎さん。「れんこんは節から茎が出とるけん、土の中でどう植わっとるか予想して掘り起こすんです。鍬が当たってしまって傷ついたら終わり。出荷できんのんです」。

味は良くても、少しの傷や形の個性によって流通に乗せられないれんこんは数知れず。創業者の長男さんがもちかけられた“ある相談”とは、「さまざまな理由で規格外となってしまったれんこんをどうにかできないか」というものでした。

大二郎さんによれば、「当時は規格の検査が今以上に厳しかったと聞いています。生産者は自分たちが大切に育てたものを自分たちで大量に廃棄していたそうです。見た目が違うだけで味は変わらんのに……。

そこでじいちゃんが会社を立ち上げて、市場に出せなくなったれんこんを農家さんから買い取って加工するようになったというわけです」。

▲生産者から買いつけた規格外のれんこんを活用。

「捨てるところなんてない」を実現

創業時から鳴門市の農協に設けた集荷場や契約農家さんをまわり、市場に出荷が叶わなかったれんこんを回収。鳴門産を中心に1日平均500kg近くを集め、加工していきます。

主な加工は水煮。手作業での皮むきから始まり、塩漬け、ボイルまでは、生野菜ゆえにスピード勝負。食感を左右する茹で時間は、素材の収穫時期やその日の気候によって微調整が必要であるため、従業員が硬さをチェックしながらつきっきりで行います。

その後、水煮のれんこんは輪切りやいちょう切り、乱切りなど多彩なカットが施され、レストランや料亭などの業務用商品として工場を旅立ちます。

▲ボイルしている工程。たびたび温度を計り、茹で加減を調整します。

きれいな形にカットする工程で生じた、いわゆる半端モノも無駄にはしません。

「残った端材ってどうするの?って思うでしょう。お惣菜に変身させるんです」。れんこんの端材をすりおろして米粉でまるめたのが、もっちりとした『れんこん玉』。つみれ感覚で鍋や汁物に投入できます。鳴門金時と鳴門わかめを合わせた『阿波のライスコロッケ』は、ダイスカットにしたれんこんのシャキシャキ食感が楽しめます。「“もったいない”から始まった会社やけん、できる限り端っこまで使い切るようにしているんです」。

このような工夫によって、はじめは水煮だけだった商品が、今では15種類を超える惣菜やお菓子に。栄養価の高いれんこんを家庭で簡単に味わえると評判を得ています。

もちろん、れんこんの皮も捨てません。「野菜は皮と身の間に一番栄養が詰まっているんです。皮は一度洗浄して滅菌水に浸して低温乾燥させてからパウダーにします。練り物、お吸い物、クラムチャウダー、コーヒー、紅茶……いろんな料理に使えるように開発しました」。

▲材料は隅々まで使い切って商品に変えていきます。

暮らしの中の気づきをアイデアに

地元で育まれた大地の恵みを余すことなく活用する「仲野産業」。日常のふとしたことをヒントに商品開発へと繋いでいます。

特に大二郎さんの思い入れが強いという「あわ和三盆れんこんあいす」は、2013年、当時、卵アレルギーを持つ娘さんへの想いから生まれた商品。

「冬のある日、イベントで和三盆のソフトクリームを食べたことがあって。見た目はものすごい濃厚そうなんです。でも口に入れるとほんまにあっさり! 上品な甘さに衝撃を受けました。“こんな美味しいアイスがあるのに、娘は卵アレルギーやけん食べさせてやれんなぁ”って思っていたんです。

ところが店主に聞いてみると卵は使ってないって言うんですよ。それで、このアイス店とコラボしてアイスを作れんかなって考えたんです」。

▲大二郎さんが考案したアイスを口にして幸せそうな愛娘のなつきちゃん。
▲アイスは仲野産業の関連会社・れんまるが運営する「れんまるカフェ(鳴門市)」で味わえます。ダブルアイス(420円)は好きなフレーバーが選べ、写真はれんこんと鳴門金時をセレクト。※鳴門金時のアイスは卵を使用。近年ではアイスの取扱店も増えています。

サスティナブルなご当地スイーツ

品のいい甘さの秘密は、砂糖の一種、和三盆の製造過程で出る糖蜜。通常、表舞台に出ることはなく、ほとんどが処分されてしまうものですが、この「あわ和三盆れんこんあいす」は、県内の製糖所から糖蜜を特別に仕入れてアイスの味のベースにしています。

そこに3mmのダイスカットれんこんを練りこんで完成です。アイスとれんこんのタッグは美味しさの新発見。和三盆の優しい風味の中に、れんこんの歯ざわりが加わり、ナッツのようなアクセントを楽しめます。

「娘が生まれて初めて食べるアイスクリームが『あわ和三盆れんこんあいす』でした。笑顔で頬張ってくれて……あのときはほんまに嬉しかったですね」と大二郎さんは感慨深そうに振り返ります。

▲カフェはコの字型の建物。中庭はれんこん畑を再現し、季節ごとの表情を映しだします。

れんこんと糖蜜。本来は行き場を失った2つの原料が出合ったことで「あわ和三盆れんこんあいす」という徳島の味を満喫できるスイーツが誕生しました。そして、環境に優しく、人にも優しい。先代の信念である“素材を大切に活かす心”が今に受け継がれている証です。

▲シャキシャキ食感が魅力の鳴門のれんこん。

光の当たらない野菜に価値を見いだし、生まれ変わらせる。そうして今日も鳴門の美味しいれんこんが救われています。

▲仲野産業のみなさん。40年以上にわたり、創業者の意志を守り続けています。

仲野産業
徳島県鳴門市大津町段関東19
https://nakanosangyou.jp/


仲野産業の商品は、Lacycle mallでお買い求めになれます。

あわ和三盆あいすセット
6個入卵を使用せず(鳴門金時は使用)、植物性のクリームを使用し、和三盆糖の風味豊かな味わい、さっぱりとした甘さが特長の贅沢なあいすです。