「阿波しじら織」で涼やかな暮らし[第1回]

「阿波しじら織」で涼やかな暮らし[第1回]

徳島生まれの「阿波しじら織」は、でこぼことした独特の縮みを持つ木綿の織物。肌触りはさらりとしていて、なんとも言えない風合いが魅力的です。特に阿波藍を使用したものは「阿波正藍しじら織」と呼ばれ、1978年には国の伝統的工芸品に選ばれました。第1回ではこの「阿波しじら織」ができるまでをご紹介します。




第1回
阿波しじら織ができるまで


不思議な「でこぼこ」の誕生秘話

軽くて涼しい春夏向きの生地として親しまれてきた「阿波しじら織」。
徳島ならではのこの織物が誕生したのは、今から150年ほど前。江戸時代の終わりから明治の初めごろのことだと言われています。創案者は徳島市の指物大工の家に嫁いだ海部花(かいふ・はな)さん。当時は副業や内職として機(はた)織りをする家庭が多く、花さんもその一人。織物が得意だった花さんは、日々、織物の改善に精を出していたそう。

▲ 「阿波しじら織」の表面。このでこぼこした縮みがあることで肌との接地面が少なくなり、さらりとした着心地に。

とある夏の暑い日のこと。
花さんは当時流行していた縞模様の着物を織って屋外に干していたところ、突然の雨に降られずぶ濡れに。雨が上がったのでそのまま強い日差しで乾かしていると、着物のところどころに独特の「縮み」を発見。実はこの「縮み」、糸の本数を誤って織ってしまっていた箇所だったことに気づきます。

偶然できたこの新しい風合いに感動した花さん!
この発見をヒントに糸の本数や仕上げとなる乾燥の仕方を工夫し、徳島市内の呉服商とも協力しながら商品化に向けて「縮み」の改良を重ねていきます。そして1869年、完成した織物を「阿波しじら」と命名。町じゅうの友人知人にも織り方を惜しみなく伝授し、「阿波しじら」を広めていきました。

「珍しい生地で面白い!」「さらりとしていて夏にぴったり!」と評判は県外にまで広がり、全国的ヒット商品に。一部は海外へも輸出され、最盛期の大正時代には徳島市に多くの機屋があったといいます。


一度は途絶えた文化と技術

ところが、昭和に入り化学繊維の登場や戦時下の軍需品製造への対応などで「阿波しじら織」の製造が途絶えてしまうことに。

戦後になって再び立ち上がったのが長尾織布の2代目・長尾藤太郎さん。「伝統の阿波しじらを再び世に出したい!」と、工芸織物として「阿波しじら織」の製造を再開します。そして全国的に起こった民芸ブームの後押しもあり、「阿波しじら織」は時を経て再び、全国へと広がっていきました。

▲ 1897年創業の長尾織布の工場。採光のために「のこぎり屋根」と呼ばれる形をした歴史ある木造建築です。

現在(2022年)、「阿波しじら織」の製造をするのはこの長尾織布を含めて、徳島市内にある3社のみ。
徳島ならではの文化と技術を未来へと繋いでくれています。


いざ、「阿波しじら織」の工場見学へ!

さて、そんな独特の縮みを持つ「阿波しじら織」はどうやってつくられているのでしょう。
長尾織布では事前に予約をすれば誰でも工場見学ができます。そこで、「阿波しじら織」ができるまでの様子を見学してきました!

▲ 100色以上ある長尾織布の糸の見本。

織物はタテ糸とヨコ糸を交互に織り込んでいくことで出来上がります。
まず初めに、紡績工場から届いた糸を「カセ」と呼ばれる束状に巻き直す工程からスタート。その後、自社工場内にある染め場で糸の染色をしていきます。

伝統工芸品のなかには製造工程の一部が分業制のものもありますが、「阿波しじら織」の場合は一社がすべてを一貫して行っています。伝統を繋いでいく上でも、多種多様な製造に対応するうえでも、これは大きな強みのひとつ。

▲ 工場内にある本藍の染め場。“すくも”と呼ばれる染料で藍を立てて染料液をつくっています。

「阿波しじら織」のなかでも、阿波藍を使用したものは「阿波正藍しじら織」と呼ばれています。藍染めした糸を織り上げたあと、その生地をさらに藍染めして、深みのある藍色に染め上げるという手間のかかった貴重な一品です。

▲ 鮮やかな色の糸もたくさん! 染めた糸の束を天日干ししている様子。

本藍などの天然染料のほか、化学染料も使いながら、多様なデザインに合うさまざまな色に糸を染め上げ、風通しのよい屋外で天日干し。

▲ 長尾織布の創業近くから残る現役の機械たち。丁寧に手入れされ、受け継がれています。
▲ 染めた糸を木管に巻き直している様子。

染めた糸の束「カセ」は、続いて「糸繰り」と呼ばれる作業でさらに巻き直され、機織りの準備を整えていきます。


デザインを決める“縦の糸”

ここで生地のデザインに関わる重要な作業があります。
タテ糸を巻き上げる「整経(せいけい)」と呼ばれる工程です。生地を織り上げるために必要な色の糸の本数をセッティングし、長さや張力の調整を行いながらビームと呼ばれる芯に巻き付けていきます。このタテ糸をどう巻き上げるかが、縞模様やチェック柄などデザインの決め手となり、生地づくりのベースとなるのです。

▲ 整経の様子。何百本ものタテ糸を整経するのは気の遠くなるような作業です。


ガッタンガッタン、織機の大合唱

ガッタン、ガッタン、ガッタン、ガッタン。工場外まで聞こえてくる織機の音。機場に入ると、耳元で大きな声を出さなければ会話ができないほど。36センチ幅の生地を織る小巾(こはば)織機と、それよりも幅の広いものを織る広巾(ひろはば)織機、合わせて約80台もの織機が一斉に仕事をする様は圧巻です。

▲ 小巾織機が並ぶ機場。1台のモーターですべての織機を動かしているそう。なかには戦前から使われているものも。
▲ 糸の調子を見ながら職人が織機の調整をしていきます。

整経したタテ糸を載せたあと、ヨコ糸を通してリズミカルに織り込んでいく織機。自動で織り進める織機の間を数名の技術職人が見回っています。

▲ 幅の広い生地を織る広巾織機。

小巾織機では、1日に織ることができる長さは1台あたり約26メートル(2反)。
織りあがった生地は、色むらや傷やシワが無いかどうかなど、人の目でしっかり仕上がりをチェックされます。


「シボ」が浮き出る最後の仕上げ

生地が織り上がっただけでは「阿波しじら織」の完成ではありません。実は最後のもうひと手間が重要なのです。それは「お湯に浸けること」。

▲ ローラーで運ばれる生地がお湯に浸かっていきます。その後、乾燥室へ。

約75度のお湯で真っ白い蒸気でもくもくとした作業場内を、ローラーに載った生地は湯通ししたあと乾燥機へとゆっくりと運ばれていきます。生地を一度湯に通すことで糸の伸縮性の差が強まり、「シボ」と呼ばれるでこぼことした縮みが浮き上がってくるという仕組みなのです。

こうして美しい「阿波しじら織」の完成です!

▲ 乾燥機から生地が出てくる様子。

次回からは、現代の暮らしに馴染む「阿波しじら織」の商品についてご紹介していきます。


長尾織布合名会社
徳島県徳島市国府町和田189
tel. 088-642-1228
https://awa-shijira.com/



長尾織布の商品は、Lacycle mallでお買い求めになれます。

阿波しじら織ハギレ詰め合わせ8枚アソート

日本の蒸し暑い夏に最適な「阿波しじら織」で作ったかわいらしい「子供ハンドメイドに使いやすい詰め合わせタイプです。綿100%の織物で、縫いやすくさまざまな用途にお使いいただけます。