[連載コラム][第21回]
今日は、どこから見てみましょうか。

[連載コラム][第21回]<br>今日は、どこから見てみましょうか。

上勝(田舎)での子育て。どう一緒に楽しむ?


 1年前の緊張が懐かしい。小学校の入学式の日にべそをかいていた息子は、あと2ヶ月ほどで2年生になる。計算や音読など学習の基礎となる授業が始まり、母としては時折、息子の学習について、関心を持ち過ぎてしまうことがある。塾とか行かなくて、いいのかな?

 聞けば、東京や大阪など都会の小学生たちは、自分で電車を乗り継いで塾に通うという。電車はおろか、バスさえ本数が限られている上勝町では、塾や習い事の教室に子どもだけで通うことは難しい。勝浦町や小松島市、徳島市内まで親たちが車で送迎し、塾や習い事に通っている家庭が多い。往復1時間、2時間の移動が当たり前となる。

 習い事を始めることは、親として、子どもにお金も時間も“コミット(約束)”することになる。毎日フルで働いている私にとっても、仕事と子育ての両立は、いつも試行錯誤している。そんな時に思い出すのは、自分の幼少期の記憶だ。 

 私の母も、私たち姉弟を上勝で育てる上で、不安を抱えていた親の一人だったようだ。小学生の頃は、母の仕事が終わってから徳島市内まで週に2日〜3日は学習塾に通っていた。学習よりも母が危機感を持っていたのは、多様な体験をする機会の少なさだった。私が小学生の頃、母は大阪や神戸の美術館によく連れて行ってくれた。海の生き物に触れるプログラムに参加させてくれたこともあった。多種多様な人に会い、世界を広げること。「本物」に触れること。母が私たちに体験させたかったのはそういったことで、時には学校を休んででも、そちらを優先していた。

 自身が母となった今、親の気持ちを理解すると共に、同じように自分の子どもにも、いろんな体験をしてほしいと願っている。特に川で遊んだり山を歩いたりするなど、町内でできることを、できるだけ多く経験してほしい。

秋は森の中で材料を集めて作品を作っていた。
冬は火おこしを体験。焼き芋を作って食べた。

 「あえるば上勝」という上勝子育て支援グループが町内にある。地元のお母さんたちが企画・運営していて、毎月いろいろなイベントを実施している。今年1月は上勝の一番奥の集落「八重地」のおじいちゃん達に教わる山遊び、2月は郷土料理教室が企画された。


「あえるば上勝」のチラシ。町内のデザイナーが毎回デザインしている。

 この団体がイベントを定期的に開催してくれているおかげで、家が離れていて、普段なかなか遊べない子どもたちが、休日でも一緒に遊ぶことができる。それだけでなく、親同士が情報交換したり、コミュニケーションをとったりできる場として、徐々に広まっていて、みんなで互いの子どもたちを育てるコミュニティとなっている。SNSによるグループ内での情報交換も盛んだ。上勝で子育てをする上で、このコミュニティは今や、無くてはならない存在となっている。

息子と通っている書道教室、がんばるぞー!

 今年1月から、私と息子は二人で隣町、勝浦町の書道教室に通い始めた。私が母に連れられて行った様々な場所や体験は、母との時間を過ごしたり、見守ってもらっていたりしたからこそ、今も思い出に残っているように感じている。

 一緒に習う。一緒に怒られる。一緒に励む。最初に「コミット」と書いたけれど、義務ではなくて、親自身も子どもと楽しみ、精進する。その気持ちはきっと、どんな田舎で暮らしていようとも、私はずっと持ち続けたいものである。