[連載コラム][第24回]
今日は、どこから見てみましょうか。

[連載コラム][第24回]<br>今日は、どこから見てみましょうか。

<番外編>デンマークのポジティブなまちづくり。

ゴールデンウィークが終わってすぐ、私は北欧デンマークを訪れた。ありがたいことに、滞在中は春の陽気に恵まれ、一度も雨は降ることがなかった。寒いことを想定して、用意した防寒着たちは、一度もその役目を果たすことなくトランクの中に収まったまま共に帰国することになった。桜が咲き、菜の花が美しい季節のデンマーク。今月は番外編として、まだ記憶が新しいうちにデンマークで学んだことを書いてみたいと思う。

廃棄物発電所「コペンヒル」の屋上にて。奥には洋上風力発電の風車が並ぶ。今回は日本各地から参加した17名での視察となった。

デンマークはリサイクルやリユースだけでなく、今や“グリーンエネルギーの先進地”として世界的に有名な国である。特に今回訪れたロラン島は、再生可能エネルギーの自給率が800%を達成し、電気ができ過ぎるため、他に有効に活用する方法を探っているとのことだった。島から首都コペンハーゲンへの電力供給はもちろん、電気を貯めておくことは難しいため、熱に変換しているという。太陽光や風力、バイオマスといった様々な自然エネルギーを掛け合わせて、人々の暮らしや産業で使う電気や熱が賄われている。

ロラン島。6万人ほどの町で作り出す再生可能エネルギーは800%。

訪れる前から、書籍やインターネットの記事を読んで、デンマークの取り組みについて知ってはいた。それでも実際に行きたいと思ったのは、なぜそんなに軽やかに、新しいことを始められるのかについて、現地の人に聞いてみたかったし、体感したかったからだ。

現地コーディネーターを務めてくれたニールセン北村朋子さんの視察プランに沿って、私たちは見て聞いて食して考える1週間を送った。廃棄物発電所「コペンヒル」の視察から始まり、コペンハーゲン市内の自転車ツアー、コミュニティスペース「Absalons Kirke(アブサロン・キルケ)」の見学。ロラン島では「ヴィジュアル気候センター」というNASAなどから提供されるデータで、地球の気候変動により変化が見られる施設を訪問。そこで市議の方とお話しした。そのほか、リサイクルやエネルギー自給について学べる施設の見学、漁港の活気を取り戻すべく始まったコミュニティプロジェクトの視察、食のフォルホイスコーレ(学校のようなもの)訪問、地産地消にこだわったレストランでの食事……。

「Absalons Kirke」。平日でも大学生や子連れのお母さん、旅行客などが集う誰でも入れるコミュニティスペース。

その中で、先の質問を投げかけてみる。「なぜデンマークでは、環境にも人にも良いまちづくりを既に実現できているのですか?」

様々な答えがあったけれど、次の3つが鍵みたいだ。

1つ目は、小さな成功を積み重ねること。すぐには結果が出ないことを知っているから、15年や20年後のことを考えて少しずつ、小さく実現することを続けると言っていた。2つ目は、決めたことをちゃんとやる。積み重ねるために、一度決めたらしっかりと守る。そして3つ目は、課題ではなくチャレンジと認識する。課題を解決しようとすると、使命感や弱点の克服のように、少しネガティブな感情が働く。肩に力が入る感じ。時にそれは人を鼓舞し、押し上げてくれる原動力になるのだが、私たちがデンマークで出会った人たちは皆、物事の捉え方がとてもポジティブだった。

長期的な視点でポジティブに物事を捉えられるのは、失敗しても大丈夫という幼い頃からの教育があるからではと、北村さんは話していた。その結果として、誰とも比べない個人が形成され、それを社会が受け止める。一人一人が尊重される社会。それがSDGsで言われる「誰ひとり取り残さない社会」と言うことなのだろうと、この旅を通して改めて感じたのである。

文字にするとどれも月並みなことだが、その一つ一つが今、私の中で鮮やかに記憶されている。「百聞は一見に如かず」という言葉を思い起こしながら、デンマークの旅を終えた。


〈今月の草花〜デンマーク編〜〉

デンマークのロラン島にて。

行者ニンニクについて、恥ずかしながら私は存在を知らなかった。これまで食べたことがなかったし、名前も聞いたことがなかった。共に旅に出た北海道からの参加者は、当たり前のように知っていて、食べ方も教えてくれた。

デンマーク、特にロラン島に到着すると、至る所で白い花が群生していた。ちょうど旬の時期らしく、休日ともなれば山菜採りのように皆採りに行くのだという。松の実やオリーブオイルなどと一緒にペーストにして、パスタと和える。パルミジャーノチーズをかけて、食べると風味が増す。春だけの行者ニンニクパスタ。私も滞在中オーダーし、春の味を堪能した。