INOWは、主に海外から上勝町を訪れる方々に向けた体験プログラムです。“ゼロ・ウェイスト”というごみをできる限り作らないことを目的とした取り組みを、上…
INOWは、主に海外から上勝町を訪れる方々に向けた体験プログラムです。“ゼロ・ウェイスト”というごみをできる限り作らないことを目的とした取り組みを、上勝町では町ぐるみで実践しています。その町の暮らしやごみ分別のシステム(上勝はごみを45種類に分別)を見てみたいと、世界各国から視察や観光客が訪れるようになりました。2020年から始まり、延べ30カ国、300名くらいの方が参加されました。
私たちが暮らす場所は変わらず上勝だけれど、取り巻く環境は変わっていく。
人口1300人の小さなこの町に、どんな人たちが来ていて、滞在中は何をしているのかを書いていくことで、上勝に対する解像度が高まることを期待しています。
上勝 定点観測室「INOW(いのう)」、楽しみながら読んでいただけたら幸いです。
[第7回]
恐れず変化してゆこう。
前回のコラムの冒頭は積雪の写真。そこから季節は流れ、現在の上勝は初夏を感じるような爽やかな風が吹いています。桜は3月末が見頃で、例年より少し早い気がするねー、と話していた頃がすでに懐かしい気も。今は八重桜の優しいピンク色とヤマブキの黄色、シャガの白さが今年も例年と変わらず美しく、町を彩っています。
新年度が始まり、息子の家庭訪問が終わるなど毎年恒例の行事が進む中、今年の上勝の春は少し忙しくなりました。上勝町長選挙と町議会議員の補欠選挙が行われ、4月13日が両方とも投開票日。結果はニュースなどをご覧いただけたらと思いますが、選挙当日は誰に会っても選挙の話。投票率80%を超えるほどの選挙ですから、もちろんみんな興味津々です。夜には仲間が集まって、選挙についての情報をライブ配信しました。1,300人の町は関係性も濃く、誰かの身内が町長や議員になるので、他人事ではありません。飛び交う情報にドキドキしながら行く末を見守りました。
そんな風に、変わらぬ風景の中にも、変わっていくことが多々あります。

カフェ・ポールスターも、お休み期間をいただいて、4月12日からリニューアルオープンしました。店舗のレイアウトやメニュー内容を変更するなど、今の上勝でどんな場所を作りたいかを改めて考え、少しずつ形にしています。
10年前は、コーヒーが飲める場所や、季節の地元食材が食べられる場所が少なかったので、カフェという形をメインに運営してきました。最近では町内で他にもコーヒーが飲める場所や、焼売定食のお店やジェラートのお店、休業していたお店の再開など、町内で食にまつわる「担い手」が増えたことで、私たちのカフェの立ち位置も、変化する必要性を感じてきました。
上勝町を訪れてくださる方は、これまでと同じように町の取り組みを学びに来る視察者や、観光目的で来てくださるお客様が多い一方、近年では海外からのお客様が増えたこともあり、「メイド・イン・カミカツ」の商品をしっかりと提供できる場所づくりが必要ではないかと考え始めたことも、変えたいなと思った発端の一つです。
これは「INOW」に来てくださったお客様を通して気づけたことですね。とは言いつつ、イメージができても、実際にやるとなると上手くいかないことも多くて……。試行錯誤しながらのお店づくりが再スタートしています。

さて、「INOW」は最近どうかと言いますと、3月にタイからのグループの受け入れと、東京の大学で国際寮に所属している学生グループがやってきました。
タイのグループが来たのが、ちょうどひな祭りの日だったので、三人官女とひなあられを飾り、料理はちらし寿司を作りました。お魚はOKだけどお肉が食べられない人、お肉は豚肉だけ食べられる人、ベジタリアンなど様々だったので、今回は3種類のちらし寿司を用意。文化を感じてもらいながらの食事です。その他にもディナーやケータリング、ランチなど、ずっと料理を作らせてもらって、参加者の中には4kg体重が増えたという人がいるほど!それくらい、たくさん食べてもらえたのは嬉しいことです。
大学生グループは帰国子女や海外からの留学生などが大半で、英語で実施できる研修プログラムを日本各地で探している中、「INOW」を見つけてくれました。ゼロ・ウェイストに関するワークショップやパネルディスカッションの他、町民の方のお宅にお邪魔して、おはぎ作りを体験。私自身も自分でおはぎを作ることが普段ないので、久しぶりの出来立ておはぎは、とってもおいしかったです!

その他、町内では「射手座造船所」という2007年に上勝町の住民と日比野克彦さん(現・東京藝術大学学長)が制作したアート作品が今年度、老朽化により取り壊されることが決まり、それに伴う出港セレモニーが開催されました。アート作品にプロジェクションマッピングで制作時の写真やイラストが投影されていき、夜に浮かぶ船は美しく、良いセレモニーでした。

振り返ると、何かと盛りだくさんだった3月。さぁ、これからは田植えやゴールデンウィークの季節がやってきます。5月6日には、現在上勝町に一時的に滞在しているイタリア人の方と、イタリア料理と上勝の食材を組み合わせた、ポップアップイベントも開催予定です。
そして今年も、昨年参加させてもらったイベント「Future Beer Garden 2025〜徳島県上勝町×TOKYO TORCH〜」が東京大手町で開催されます。私も含め、町内からたくさんの人が参加を予定していますので、ぜひ東京近郊にお住まいの方は遊びにきてくださいね!

さて、3年に渡り書かせてもらったこのコラムも、次回が最終回です。定期的に上勝町の暮らしを文字にして発信させてもらえたので、私自身、自分の考えをまとめたり、上勝の暮らしや事象をアーカイブしたりする良い機会でした。
最終回はこれまでの振り返りを中心に、3年前と今の心境の変化など、お伝えできたらと思っています。最後まで、どうぞよろしくお願いします!
プロフィール
東 輝実 /
合同会社RDND 代表社員
カフェ・ポールスター オーナー
INOWプログラム共同創業者
1988年徳島県上勝町生まれ。関西学院大学総合政策学部在学中よりルーマニアの環境NGOや東京での地域のアンテナショップ企画のインターンを経験。
2012年大学卒業後、上勝町に帰郷し「合同会社RDND(アール・デ・ナイデ)」を起業。2013年「五感で上勝町を感じられる場所」をコンセプトに「カフェ・ポールスター」をオープン。2020年上勝滞在型体験プログラム「INOW」を共同創業。
