「大谷焼」の地で生まれた“くすみカラーのマットな器”
さらに美しく優しい色を奏でる新シリーズ

「大谷焼」の地で生まれた“くすみカラーのマットな器” さらに美しく優しい色を奏でる新シリーズ

ものづくりの伝統と歴史に新しい風

独特のくすみカラーと手になじむマットな質感。200年以上の歴史を刻む大谷焼の地に新しい風を吹かせた陶器メーカー「SUEKI CERAMICS(スエキセラミックス)」。鮮烈なデビューから2021年で7年の月日が経ちます。

「SUEKI CERAMICS」を世に送りこんだ矢野耕市郎さんは、130年続く老舗窯元「矢野陶苑」で生まれ、四代目である父・款一さんの姿を見て育ちました。

▲鳴門市大麻町の数ある大谷焼の窯元の中でも、古い歴史を誇る「矢野陶苑」。
▲店の裏には大谷焼の主流である水がめや藍がめ、とっくりが並びます。

耕市郎さんは、大学進学を機に地元を離れ、サラリーマンとしてWEBデザインやネットショップの運営などの仕事に就きますが、2010年26歳のときにUターン。ものづくりがしたいと陶芸作家の道を志し、ろくろを回し始めます。

才能はすぐに開花し、2年もかからないうちに東京で個展を開くまでになっていました。しかし、個展を通して芽生えたのは意外な気持ちでした。
「新しい産業になるような陶芸をしたい」。

▲「陶芸はすべて独学」と語る矢野耕市郎さん。「帰郷した当時は父の見よう見まねでろくろの練習をしていました」。

2012年、作家活動にピリオドを打ち、“作品”ではなく“商品”としての器を作ることを決意。日本全国に通用する一流の陶器メーカーを目指し、ブランド立ち上げに邁進します。「大谷焼の歴史が続く場所だからこそ、これまでのイメージを一新するものを」。その思いから、あえて伝統的な和食器は作らず、洋風のプレートやボウルなどで商品を展開していこうと考えます。

「はじめは1人でろくろを回していましたが、均一性のある器を多く作ることができないとメーカーとして成立しないと気づき、『鋳込み』という型を使って成形する方法にシフトチェンジしました」。

そうして量産できる体制が確立。2014年、大谷焼の地で「SUEKI CERAMICS」が産声をあげたのです。

▲原料の土を入れて成形する「鋳込み」の型が並ぶ工房。
▲型から出したばかりの器。この後、乾燥を経て、素焼きが行われます。

最初に立ち上がった「standard」シリーズは、型を用いることで無駄をそぎ落としたシンプルな造形が実現。その反面、手づくりの温かみが感じられるように、器の厚さを6ミリにしているそう。ぽってりとほどよいボリュームがあり、適度な重みが手になじみます。

▲男女を問わず人気の「standard」シリーズ。シンプルながら丸みを帯びた優しいフォルム。

2万回のテストから紡ぎだしたSUEKIの色

「SUEKI CERAMICS」の最大の特長といえば、“くすみカラー”と“マットな質感”。この新しい感性の器を完成させるまでに、2万回近くの釉薬テストが行われた……というのは、知る人ぞ知るエピソードのひとつ。

釉薬とは、焼物の表面を覆うガラスの層のこと。釉薬に配合される成分の種類によってさまざまな色や質感を表現できます。SUEKI CERAMICSの器に用いているのは「マット釉」。表面に光沢のないしっとりとした肌合いが斬新です。

「植物、石、動物の骨……釉薬って何からでもできるんです。僕はすべて独学だったので、無謀なことでも先入観なく試せたのがよかったと思います。たとえば、グレーを出すとしたら白+黒が一般的なんですが、『SUEKI』は微妙なニュアンスのグレーを表現するために、水色+赤+茶でグレーを作るんです。

イメージする色を出すために、ゴマ粒ぐらいの顔料を足しながら試していくしかなくて。しかも、焼き上がるまでどんな色になるか分からない。大変なんだけど、挑戦しがいがありました」。

▲数えきれないほどの釉薬のテストピース。アートな風合いを醸しだす多彩な色。
▲素焼きのあと釉薬をつけます。何色に仕上がるのか、焼き上がるまでわかりません。

器そのものがプレーンな形だからこそ、色と質感で個性をプラス。あえて「にごらせる」ことでモードな佇まいに。スモーキーに仕上げた“Ash Blue”や“Dark Green”、自然を思い起こさせる素朴な“Sand”や“Steel Gray”など、何色とも表現しにくいニュアンスカラーに魅了された人は数知れず。また、マットな質感は器として主張しすぎず料理そのものを際立たせてくれます。

▲くすみカラーとマットな質感の器は和洋の料理と好相性。(写真:濱田英明)

ブランドは次のステージへ

「SUEKI」の器は首都圏を中心に多くの店で活躍しています。東京を中心に展開するサンフランシスコ発のチョコレートファクトリー&カフェ「ダンデライオン・チョコレート」、関東&関西に十数店舗を構えるコーヒーショップ「ブルーボトルコーヒー」、また、「O-ba’sh café.(オーバッシュカフェ)」や「山口飲食」(ともに徳島県)など。

ジャンルを選ばない器として、その汎用性の高さが評価されています。そして、2020年晩秋。矢野さんの妻・実穂さんがプロデュースする「f」シリーズがデビューしました。

▲矢野実穂さん。耕市郎さんと共にご夫婦でもの作りに向きあっています。

「f」シリーズは、女性を連想させる“female”や“feminine”の頭文字が由来。主婦でもある実穂さんが日常での使い勝手を考慮して仕上げた器は、とにかく軽い。「ふだんの食卓で便利に使えるように、”薄くて軽い“にこだわりました。また、デザインに曲線を用いて女性のしなやかさ、やわらかさが感じられるフォルムにしています。これまでの「standard」シリーズよりも厚みを抑えたことでカジュアルからシックな雰囲気に印象が変わったので、さらに料理を美しく引き立ててくれるような器になったと思います」と実穂さん。

加えて、より女性好みに進化させたカラーリングも絶妙。淡いピンクは“peach blossom”、グレーを帯びた柔らかい青は“joy blue”など、色の名前にまでぐっと心をつかまれます。

▲形に遊びを効かせた「f_mug」。ニュアンスカラーの6色展開。

「暮らしにフィットする。それが、僕のものづくりの根底にあること」と語る耕市郎さん。おもしろいのは、耕市郎さんと実穂さんそれぞれの目線から日々に寄り添う「SUEKI CERAMICS」が生まれていること。

「standard」シリーズと「f」シリーズが並ぶと、まるで夫婦のよう。フォルムや厚みは違っても醸しだす温度感が似ているのです。カップルやご夫婦に贈るときは、あえてそれぞれのシリーズから選ぶのもいいかもしれません。

大谷焼の地で生まれたプロダクトメーカーは、より多くの人の食卓になじみ、喜んでもらえることを願って、お二人らしいスタイルで進化し続けています。


SUEKI CERAMICS
徳島県鳴門市大麻町大谷字久原71-1