メイドイン・海陽!
“ここにしか咲かないバラ”

メイドイン・海陽! “ここにしか咲かないバラ”

はじめまして!のバラたち

“バラらしくないバラ”。
それは、海と太陽がきらめく海陽(かいよう)町で「岡松バラ園」が続けている挑戦です。

一方で、“バラらしいバラ”と言われてふと思い浮かぶのは、映画「美女と野獣」に出てくる真っ赤なバラ。花の芯が高くて、花びらの先がとがった「高芯剣弁(こうしんけんべん)咲き」と呼ばれる古くからあるバラの品種ですが、ここでつぼみを膨らませるのは、世界のどこにもない35種類のバラたち。

花びらが波のようにウェーブした「さざ波」、グリーンとピンクのバイカラーの「糸」、まんまるフォルムの「雪だるま」。これらのユニークなバラはすべて、「岡松バラ園」が独自で生みだしたオリジナルの品種なのです。

▲2021年の新作「雪だるま」。花びらが幾重にもなり、雪だるまのようなシルエットが特徴。 


「岡松バラ園」は、徳島県南部・海陽町の山際に位置し、約5000坪のバラハウスを有しています。オリジナル以外のバラを合わせると約70品種を栽培。ハウスでは一年を通じて毎日花が咲き、1日およそ4000本を摘み取って徳島県内や関西の市場へ出荷しています。

▲山に囲まれた盆地に三角屋根の背の高いバラハウスが並びます。

ハウス内は温度管理を徹底しています。日中は30℃、夜間は18℃と昼夜の温度差が約10℃になるように設定。こうすることでそれぞれのバラが成長するスピードを一定にし、茎と葉のバランスを美しく保つことができます。

▲摘み取り作業の様子。一番美しいときにお客さんの手元に届くように“咲きかけ”のつぼみを狙います。
▲摘み取った花が集まる選花場。長さ、茎の太さに合わせてセレクトし、10本ずつに束ねられます。

バラ栽培は、管理のしやすさから玄武岩などの鉱物を溶かして繊維化した「ロックウール」を培地にする「ロックウール栽培」が主流。しかしながら、「岡松バラ園」はより自然に近い形で生育させるため土のままで栽培しています。

「肥料や水分が均等に行き届いているロックウールと違い、土だとバラが自分で養分を求めて根を伸ばそうとするので生命力が高くなるんです」。そう語るのは、現場の中心に立つ取締役の岡松計仁(かずひと)さん。あえて土で栽培することで甘やかしすぎず、生きる力を引き出すことになり、バラはたくましく成長します。

▲毎夜23時~深夜1時の2時間だけ、ライトで紫外線をあてます。日焼けさせることで病気になりにくい丈夫なバラに育つそう。

300種類以上の品種づくりからスタート

岡松さんがこの世界に入ったのは2001年、26歳のとき。それから20年もの間、バラに愛情を注いできました。

「2006年頃、ラナンキュラスやトルコキキョウといったバラに似ている花の人気が出てきて、バラの需要が取られていました。前々からバラは海外の品種が多くてメイドインジャパンが少ないとも思っていたので、独自の“バラらしくないバラ”の必要性を強く感じていました。そこで交配技術を兵庫県の農林水産技術総合センターへ学びに行き、オリジナル品種を作ることに挑戦し始めました」。

▲岡松さん。2年という短い期間で、市場での評価を最低ランクの「D」から最高ランク「A」にあげたバラ栽培のプロフェッショナル。


新種のバラは、既存の品種を両親にすることは種苗法によって禁じられています。品種登録のされていないもの同士をかけ合わせなければいけません。つまり、両親にあたるバラを作るための交配からスタートするのです。

「最初は何ができるか全く想像がつかなかったので、ちょっとだけ交配をしてみて苗の様子を見ていました」。

岡松さんは“ちょっと”と言いますが、そのとき作った未生品種はなんと300種類!この中には現在のオリジナル品種の親になったバラもあるそう。

「花のつく数や丈夫さは母親から遺伝し、花の形状や色は父親から受け継ぐことが多いので、まずは母親探しから始めました。苗が育ちやすく生産性の高そうな品種を母親に決め、デザイン性のある変わった品種を父親にして、花粉をつけていきました。コレとコレええなと思っても、相性が悪いと種にならないパターンもあって、そこが難しいところです。また、花粉をつけてから種になるまで半年かかります。その間、病気にならないように管理するのも根気のいる作業です」。

▲交配し、テスト栽培している苗。商品化が決定したら規模を拡大して育てます。

最初のオリジナルローズ「もこもこ」

交配にチャレンジし始めて2年の月日が経った2008年、岡松さんオリジナルのバラ第1号「もこもこ」が誕生しました。

清らかなグリーンの花びらの内側に、淡いロゼの花びらを秘める上品なバラ。コロンと丸いフォルムのつぼみから、1枚ずつ花びらが開くさまを“もこもこ”と表現、品種名にしたそうです。

「もこもこは、ブーケに使われやすい背丈の低い母親と、丸みのある花びらのロゼット咲きの父親から生まれました。ラナンキュラスのような形や咲き方が当時は珍しく、それこそ“バラらしくないバラ”と言われました。市場や花屋さんからの評価が高かったです。アメリカや香港にも輸出されて反響を呼んだ思い入れの深い品種です」。

▲「もこもこ」。クリーンな雰囲気を持っているため、ブーケの花に選ばれることも多い。

「ここでしか作れないバラを。今も昔もずっとこだわり続けてきたのは、オリジナルであることです」。
優しい口調ながらも強い意志を感じる岡松さんの言葉。


現在も年間で2万~3万種類の交配種を手がけ、選び抜いた1~2種類を毎年デビューさせています。「ほかのバラと違うかどうか。見極める基準は徹底してそこです。あとは、見た目の美しさ、花の丈夫さで最終的に判断しています」。

▲岡松さんが抱きかかえるのは代表作のひとつ「激愛」。ドラマティックな深紅色のバラ。

「今は栽培するバラのうち、半分がオリジナル品種ですが、多種多様に新しいバラを作り続けて数年後にはオリジナル品種を9割にまで広げていきたい」と岡松さんは意気込みます。

「岡松バラ園」の挑戦から生まれる、新しいバラ。
ほかで見たこともない、そして美しい、“バラらしくないバラ”。これからどんなバラとの出会いが待っているか楽しみです。

「もこもこ」の愛らしい花姿に惹かれて食卓に飾ってみたら、
見慣れた空間がパーッと華やぎ、暮らしの中にロマンティックな時間をもたらしてくれました。

▲いつの時代もバラは特別な花。眺めている時間も触れている時間も清々しい気持ちになれます。

岡松バラ園
徳島県海部郡海陽町富田字南沢175-1
https://okamatsu-rose.jimdofree.com/