目次 ファッション業界から藍染めの世界へ 伝統的な“正藍染め(しょうあいぞめ)”でウールを染める “藍が藍を呼ぶ”感覚 「天然素材」×「藍染め…
明るい林道が農場へのアプローチ
神山町で30年以上しいたけを栽培する「神山椎茸組合」。取材が決まり、道のりを下調べしてみると、地図に表示されたのはグネグネの林道。当日、覚悟して林道の方へと車のハンドルを切りました。確かに道は細いけれど、日の光がたっぷり入る明るい杉林。人の手が行き届いていることを感じ、安心して現場まで車を走らせました。
出迎えてくれたのは、「神山椎茸組合」理事長の神原紀仁さんと参事の糸山達哉さん。お二人によると、ここを訪れる人や地域の方々に“気持ちのいい森”と思ってもらえるように定期的に林道周辺の清掃をしているそう。農場のまわりの自然が大切にされていることをうかがい知ることができます。
徳島の菌床しいたけの第一人者
しいたけの栽培方法は、古くからクヌギの原木から自然発生させる「原木栽培」が主流でした。昭和の終わり、「菌床(きんしょう)栽培」が登場。「菌床」とは、おがくずなどを材料にした培地のことで、そこにしいたけの種である「菌種(きんしゅ)」を植えつけて育成する方法です。
「神山椎茸組合」も、ちょうどその頃(1988年)に創立。元は原木しいたけ農家だった神原さんの父・俊之さんが、仲間と5人で立ちあげました。
「原木しいたけは育てるのに2年の歳月を要するリスクの高い農業。重労働なうえに、自然の影響をダイレクトに受けるため安定した生産が難しいんです。だから父は、ハウスの中で管理ができ、収穫量を安定させられる菌床しいたけの栽培を日本でもいち早く取り入れました。山を切り開き、ハウスを建て、通年でコンスタントに収穫できる大規模な生産体制を整備。“神山しいたけ”の名を広めていきました。そのうちに県全体で菌床栽培が盛んになり、徳島県は今、菌床しいたけの生産量日本一なんです」。
しいたけ界の徳島県代表
2010年頃、「日本一のしいたけ農家になる」という父の夢を受け継いだ神原さんは、徳島を代表するような、大きくて質のいいしいたけを作ろうと考えます。そして、さまざまな種菌を探しているときに出会ったのが、“北研(ほっけん)715”。
「大きく肉厚に育つ品種だとメーカーさんに勧められてテスト栽培を始めました。“北研715”は育成する人の腕が問われる難しい品種です。当初はしいたけがたくさん生えすぎて一つひとつが小さくなったこともあるし、全然出てこなかったことも。そこで、ベストな環境で育てるために、栽培方法の見直しと研究を重ね、5年かけて現在の方法にたどり着きました」。
しいたけにとっての畑である“菌床作り”が栽培のスタート。業者から仕入れることもできますが、暴れん坊の“北研715”には独自配合の特別な菌床が必要です。
菌床の主原料となるおがくずは、伐採して1か月以内の椎の生木のもの。
「じつは木の鮮度がしいたけの風味を左右するんです。切りたての木を取り寄せるのでコストはかかりますが、譲れないこだわりです」。
また、おがくずの粒の大きさによっても育ちが変わるそう。
「5mm角ぐらいの“ざらめ”と呼ばれる粗さが一般的ですが、うちでは粒の大きさを細かくし、椎茸が木からの栄養を早くたくさん吸収できるようにしています。菌床しいたけは、1つの菌床で5回ほど繰り返し収穫できます。大きなしいたけが狙えるのは、おがくずの栄養が最も多い1回目の収穫時だけ。なので、しいたけ菌にもりもり食べてもらうために、おがくずを食べやすく細かくすることが大切なんです」。
このおがくずに、神山に流れる清らかな水と、米ぬかやふすま(小麦の表皮)などの栄養材をブレンド。菌が呼吸できる専用の袋に詰め、高圧殺菌を経て、無菌室で種菌をまけば菌床の完成です。
神山の豊かな空気と山水に抱かれて
種をまいた菌床は培養舎で100日かけて培養します。培養舎では温度や湿度、空気の流れなどをコントロールし、しいたけの旬である秋の環境をキープしています。
「緑豊かな神山はひんやり涼しくて、ほどよい湿度がある。元々きのこが生える森の空気がこのあたりは充満しているので、しいたけの成長に合わせて自然の空気を取り込んでいます」。
神山の新鮮な空気を胸いっぱい吸いこみながらしいたけ菌はすくすく育ち、菌床全体に伸長していきます。培養舎のスタッフは、毎日菌床の色の変化で成長速度を確認し、袋についた水滴を見て元気に呼吸をしているかチェックします。
無事に培養を終えた菌床は発生舎へと移動。いよいよしいたけが自然に生えてくるのを待ちます。3日ほどでニョキニョキと姿を現し、10日目ごろの“食べ頃”を逃さぬよう、しいたけの傘の部分が開く前に収穫します。
生産量わずか5%!プレミアムな秘密
このように、菌床作りから収穫まで、およそ110日をかけて育てあげる“神山しいたけ”。培養舎と発生舎を合わせて85棟あるハウスで年間1000トンを生産しています。なかでも形が美しく、傘の直径が8.5cmを超えるものは最高級品。握りこぶし以上にもなるサイズや味のよさから「極(きわみ)」と名づけられ、ブランドしいたけとして全国に送りだしています。
肉厚で香り豊かな「極」は、食卓の主役になれるプレミアムなしいたけです。アワビにも例えられるほどの圧倒的な噛みごたえを実感するためにも、網焼きやステーキなどシンプルな調理がオススメだそう。
食感の斬新さと芳醇な風味が買われ、県内外の高級焼肉店やイタリアンなどからもオーダーが相次いでいます。
地球にやさしいしいたけ農家へ
「しいたけは木を切って作っているので、自然への恩返しという思いで広葉樹の植林活動をしています。“森が豊かになること=水を育むこと”にもなります。また、木としいたけの関係や、神山町で育てているしいたけのことを少しでも多くの人に知ってもらうために、農場や工場見学をすすんで受け入れています。ほかにも、使い古した菌床は神山町内の農家さんに堆肥として使ってもらい、できるだけ廃棄物が出ないようリサイクルしています」。
「父に託された、“日本一のしいたけ農家になる”という夢のバトンが、しいたけ作りに向き合ううちに、“日本一のいい農場になりたい”という気持ちに段々とシフトしてきました」と心持ちの変化を語る神原さん。
「いい農場とは、社員にやさしく、地域にも環境にも配慮した農場であること。そういう思いで、これからも邁進していきたいです」。
振り返れば、菌床栽培という安定的な生産体制の確立、クオリティーの追求、徳島を代表するビッグしいたけ作り……と、先代からのさまざまな挑戦が現在の「神山椎茸組合」を形づくってきました。
次なるステップは、”地球にやさしい農業経営“。
「地元小中学生との職場体験や植林活動、農場周辺の清掃といった地域貢献活動や環境保全を積極的に行い、さらに循環型の農業を目指します」と力強く語ってくれました。
神山椎茸組合
徳島県名西郡神山町鬼篭野字小原102
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