テーブル中に広がる香り
徳島初のクラフトジンは個性派だ

テーブル中に広がる香り<br>徳島初のクラフトジンは個性派だ

すだちを知り尽くす、「日新酒類」

四国中はもとより、全国から酒に魅せられた人々が集まる日本酒の祭典「四国酒まつり」の開催地、徳島。上勝町の「RISE&WIN Brewing Co.(ライズアンドウィン ブルーイングカンパニー)」から始まり、神山町の「KAMIYAMA BEER(カミヤマビール)」、阿南市の「JouZo BEER BASE(ジョウゾ ビア ベース)」、2022年には県西部初となる自然からインスパイアされたビール作りをコンセプトとする「PADDLE BREW(パドルブリュー)」など、徳島地ビール界隈の勢いは継続中。

県西部の三好市へ足を伸ばせば、元ソムリエが葡萄の栽培から手がける「Natan(ナタン)葡萄酒醸造所」の地ワインが全国の酒猛者界隈で話題など、若く勢いのある生産者たちの躍動により、徳島県の地酒が盛り上がりを魅せています。

それらの元祖と言い切ってしまうと少し語弊はあるかもしれませんが、「徳島ならではのお酒といえば?」と問われて、ネイティブの阿波人の多くが真っ先に思い浮かべるのは「すだち酎」ではないでしょうか。

奥行きと広がりのあるみずみずしい香り。すだち特有の酸味と苦味を共存させる技術が生かされています。すだちの個性を知り尽くした「日新酒類」だからこそ実現できたロングセラー商品です。

▲1985年の登場時から愛される看板商品「すだち酎」。農林水産大臣賞受賞。

日新酒類は、江戸時代末期、安政4年創業の酒蔵を母体とし、1948年(昭和23年)に設立されました。清酒、焼酎をはじめとし、リキュールに果実酒、クラフトジン、本みりんにいたるまで、多種多様な製品を製造販売している四国唯一の酒類総合メーカーです。

▲本社エントランスに飾られた商品の数々。徳島県人にはお馴染みのものがズラリ。

そんな同社から、すだちを中心にした徳島素材の新たな側面を見せてくれる銘柄が2017年に登場しました。徳島産の原料とボタニカルで仕上げたクラフトジン「AWA GIN」です。


これまでの酒造りの技術を活かして

まず、国内における“クラフト”という言葉は14〜15年前から話題になり始めた「クラフトビール」が始まりですが、2017年前後からは「クラフトジン」が話題となり、今でもそのブームが緩やかに継続している最中です。

そもそも“クラフト”と付くジャンルは、生産量の少ない、小規模醸造所だからこそ可能なオリジナリティのある品を指すのが一般的。ビール以外のほとんどのお酒を製造できる「日新酒類」は、小さな醸造所とは呼べないかもしれませんが、「AWA GIN」は同社の酒造りの技術と地元素材をふんだんに落とし込んだ、これまで出会ったことのない個性を有したリキュールに仕上がっています。

原料に使用しているのは、日本酒用の酒米として全国で高評価を受けている徳島県産の山田錦。これを純米大吟醸レベルまで磨いてもろみを作り、蒸留します。

▲全国の名だたる日本酒蔵から愛される山田錦を使用。
▲蒸留用の機械。よく見かけるウィスキー用の銅製ポットとは違ってより工業的なデザイン。

本来ならば、軽くキレのある味わいに仕上がるトウモロコシや大麦、ライ麦が使用されますが、あえて酒米を使用することで本場のジンよりも重たい印象を狙っています。蒸留後は、ジンの生命線ともいえるボタニカル(フレーバーになる植物性素材)を投入し再度蒸留。こちらも本来ならばジュニパーベリー(西洋ねずの実)を用いるのが通常ですが(これがなければジンとは認めないという人も多い)、ここからが「日新酒類」の持ち味です。

徳島産のすだち・ゆず・阿波晩茶と国産の山椒がそれらの代役となります。山椒は全体にスパイシーさを出すために。キモとなるすだちとゆずは果皮をミンチ状に加工し、より香りが強く表れるように一手間。製造過程での泡立ちなど、取り扱いが最も困難だったという阿波晩茶はバンドにおけるベースのように、香りの土台を担っているのが感じられます。

▲ゆずは果皮がしっかりしていて、香りの強い木頭産を採用。
▲ボタニカルはすべてを同時に投入するのではなく、ボタニカル別にジンを作った後、ブレンド作業を行う。

飲み比べるとわかりやすいですが、米の持っている油分によって、従来のジンと比べると印象はどっしりとしています。その重さを活かすため、2種のかんきつによる香りはやや強めに。鋭く鼻腔を駆け上がっていくのを感じ取ることができます。

「オール国産の素材でつくること、しかもできるだけ徳島らしいクラフトジンをつくりたいという想いがそもそものきっかけです。ボタニカルの選定が大変でしたね。葉わさびやシソ、生姜など地元の素材約70種類をピックアップして、組み合わせや配合を変えながら何度も試作を重ねて現在の4種類に決めました。ジンづくりは決してスムーズにはいかなかったけれども、かんきつの香り、晩茶の風味、山椒の清涼感と、それぞれの特徴が残るようなブレンドに仕上げることができたと思います」と話してくれたのは、製造部開発担当の丸山恵さん。

国産にこだわることで王道からは外れたジンにはなったものの、個性の強さをおもしろがってくれる方も多いと言います。「都内の有名なバーテンダーの方がAWAGINを気に入ってわざわざ見学に来られたり、都内でプロ向けの展示会に参加した際に『ビックリした!』『飲みやすいですね』などさまざまな声をかけてもらえたりすると、うれしいですね」。


お酒のプロなら何を合わせる?

華やかで、すだち酎とはまた装いの違ったオシャレな香りの立つ「AWA GIN」。どのように楽しむのが正解なのか。食事との相性は良いのか。「AWA GIN」の最適な飲み方を、酒好きたちから厚い信頼を得ている酒場の二人に伺ってみました。

「徳島酒商店」店主/広瀬務(つとむ)さん

▲徳島市内にて居酒屋「酒猫」と、徳島の地酒を(ほぼ)完全網羅したスタンド「徳島酒商店」を経営。自身も日本酒、焼酎など、酒造りも精力的に行っている。

「すだちにはすだちを合わせます」
私は日本酒など甘みのあるお酒のつまみとして、フルーツなど甘いモノを食べます。要は方向性の似ている食べ物を合わせるのですが、すだちが素晴らしく引き立った「AWA GIN」の相棒にも、すだちを合わせても抜群だと思います。なので、すだちを絞れるような料理が良いですね。生モノより、少し火が加えてある方が良いと思うので、シンプルにすだちを絞った「阿波尾鶏のソテー」。そして、「AWA GIN」はロックよりもソーダやトニックで割って飲んでみてください。

▲初徳島の酒好きをアテンドするならまずここ。扱っていない地酒はない(多分)!

「Bar鴻 kohno」店主/鴻野良和(こうのよしかず)さん

▲1999年オープン。豊富なウィスキーが醍醐味のオーセンティックバー「Bar鴻 kohno」を経営。バーテンダー歴30年。2007年アジアンカクテルチャンピオンシップマカオ大会優勝。

「決めては、追いすだち」
「AWA GIN」はジンの中でも個性的な部類なので、少し薄めるだけでグッと飲みやすくなります。意外かもしれませんが、私は水割りをオススメしたいです。ただ、単純に割るのではなく、すだちのピールを少し入れてあげると香りもさらに広がってゆきます。もちろん、王道にジントニックやロックでも美味しいですが、これにも果汁やピールで追いすだちをぜひ。特に焼きものや揚げものなどの和食との相性が抜群だと思います。

▲最後の一軒に。オリジナルラベルのウィスキーもぜひ堪能してください。

店のカタチも違えば、趣味も嗜好も違う二人がたどり着いたのは、さらにすだちを加えてより香りを楽しむという選択。そして両者ともが取材中に度々口にしていた“個性的”という言葉も印象的でした。徳島オリジナルにこだわり続けた結果、完成した唯一無二のクラフトジン。阿波人(アワジン)はもちろんのこと、誰もが一度は試してみるべき価値のある至高の一本ではないでしょうか。

▲「AWA GIN CLEAR BOTTLE」(右)。

文中にて、本場ではジュニパーベリーが入っていなければジンと認めらないと述べましたが、ジュニパーベリーを加えた「AWA GIN CLEAR BOTTLE(アワジン クリアボトル)」もあります。今年(2022年)、日本で唯一のウイスキー&スピリッツを審査する品評会「東京ウイスキー&スピリッツコンペティション」洋酒部門にて金賞を受賞している逸品。ジン好きならぜひ、飲み比べてみてください。


<取材協力>
「徳島酒商店」
徳島市寺島本町東3-6-2-1
tel. 070-8317-3359

「Bar鴻 kohno」
徳島市栄町1-67-2橘ビル3F
tel.088-624-0067
https://www.barkohno.com


日新酒類株式会社
徳島県板野郡上板町上六條283
tel.088-694-8166
https://www.nissin-shurui.co.jp/



日新酒類の商品は、Lacycle mallでお買い求めになれます。

AWA GIN

徳島の素材を中心に、国産原材料のみで作りあげた「純国産クラフトジン」です。爽やかで奥行のある特徴的な香味は、植物性原料であるすだち・木頭ゆずの果皮、阿波晩茶、山椒を原料として作られています。