妥協を許さない原料へのこだわり
削りたての風味を食卓へ届けたい

妥協を許さない原料へのこだわり<br>削りたての風味を食卓へ届けたい

大正期創業の削り節の名店

某料理研究家が自身の著書で語っていた、「食事は毎日のことなのだから面倒であれば毎回出汁など取らなくてよくて、味噌を入れた椀に湯を注いだだけの味噌汁で良い。」という言葉は、一般家庭で料理を作る人たちの呪縛を溶かし、料理に対する気負いが軽くなったとのレビューもよく目にしました。氏はその後SNS上でも「人間はお料理に苦しんだら絶対にあかん、そもそも料理は楽しいもんや、幸せなもんや」と続けています。

日常の食事への向き合い方は、いかにして手を抜くか、が重要です。気張っていては毎日続けることは不可能ですし、料理が楽しいものではなくなってしまいます。

ただ、時には気合を入れてお店レベルの味を作りたい、食べてもらいたい日だって当然あります。そんな時のためだけという訳ではないですが、和食で最も使用する素材のひとつである削り節について、少しだけ詳しくなっておいても損はありませんし、運よく徳島には大正期から続く、極上の削り節を製造する名店があるのです。

▲「花菱商店」創業者の花菱栄氏。自転車で配達していましたが、鰹節はカサが大きいので大変だったそうです。

「花菱商店」は削り節の発展期であった大正13年に、初代・花菱栄により徳島市で創業しました。かつては鰹節の産地であった高知県と鰯節や鯖節のメッカ、愛媛県から良質な素材を仕入れ、家庭のみならず多くの飲食店にも卸していました。

削り節のイメージのない徳島県の削り節屋よりも、高知県や愛媛県の店で購入した品のほうが新鮮なのではないか? という疑問を持つ人もいるかもしれません。が、鰹節は削った直後から酸化し鮮度が落ちてゆくため、削った直後に提供できる、つまり、人が多く住む土地や飲食店街に多くあったようです。そのような理由から、かつて徳島にも30社ほどの削り節専門の会社と、個人の削り屋が存在していました。

▲花菱商店のキャラクター、まいどさん。なんとも愛くるしい姿。


削り節は原料がすべて!

私たちがメディアなどで見かける、カッチカチのあの鰹節の姿となるまでには多くの工程があります。
まず水揚げされた魚を節となるサイズに捌き、茹でます。燻す作業を経た後にカビ付けと天日干し(乾燥)を行い、鰹節へと仕上げます。ここまでが醸造家の仕事。その後、鰹節は削り節屋へと送られます。削る直前には一度蒸して柔くしたのち、機械を用いて削ってゆきます。いくつもの工程を経て作られる削り節ですが、3代目を務める花菱義典さんは「削り節の良し悪しは、原料によってほぼすべてが決まる」と言います。

▲3代目・花菱義典さんは、だしソムリエの肩書きも持っています。

「花菱商店で扱う鰹は、脂肪分が少なく筋肉質で身の安定している大きな個体を選んでいます。脂がのっている個体だと、雑味が多くなり香りも弱くなります。当社では、上質な鰹を求めて鹿児島県指宿市山川町に移り住んだ、高知出身の鰹節醸造家と古くからお付き合いがあり、農林水産大臣賞も受賞した丁寧な仕事による素材は常に上質で安定しています。私たちの仕事は簡単に言ってしまえば、“削るだけ”です。そのため、仕入れる素材には最もこだわりを持ちます」。

回遊魚である鰹は一年中水揚げされますが、日本近海の冷たい海では脂が乗りすぎているため、フィリピンやインド洋辺りの温かい海域の個体がベスト。加えて、網ではなく、一本釣りのほうが体面に傷がつくリスクが少ないため、より鰹節に適しているとも教えてくれました。

▲水揚げ直後の鰹。
▲節のサイズに捌きます。
▲大きな煮釜で2時間半ほど煮ます。
▲20〜30日間ほど燻し、水分を飛ばします。
▲カビ付け・天日干しを経て鰹節に。ここまでが水揚げされた現地(鹿児島県)での醸造家による作業。


削りたての鮮度を閉じ込めて

醸造家から仕入れた上質な鰹節を長年の経験と技術によって、風味豊かな削り節へと仕上げます。
削りの工程には、上部に大きなドラムがついた専用の機械を用います。後部から鰹節を投入してゆくと、正面側からどんどん削り節が溢れ、工場の中が一瞬にして鰹の香りで満たされます。ゆっくりと香りを楽しみたかったのですが、前述した通り鰹節は削った瞬間から酸化し、風味が弱くなってゆくため、急ピッチで袋詰め作業に移らなければなりません。

以前は、削りたての新鮮な削り節は地元の方にしか提供できませんでしたが、現在は不活性ガスで気密包装することにより、遠方の方にも削りたての豊かな風味を楽しんでもらうことが可能となりました。ちなみに、店頭なら希望があれば、昔ながらの紙袋に入れてもらうこともできます。これが香りが溢れ出る、なんともいえない風情があるのでお近くの方はぜひ!

▲専用の削り機。鰹節、鯖節、鰯節など種類によって使い分けています。
▲削り節の薄いピンク色が美しくてうっとり。そしていい香り。
▲完成した削り節は酸化を抑えるガスを入れて素早く密封します。
▲紙袋に入れると雰囲気も抜群です。


比べてこそわかる、削り節のおもしろさ

私たちが普段スーパーマーケットで購入している削り節は主に荒節と呼ばれ、鰹らしさと燻製の香りが強く、味は若干の酸味があって濃厚です。和食全般はもちろん普段の料理や、うどんなどに向いています。こちらはカビ付け作業を行いません。
対して、カビ付けした削り節は本枯節(ほんかれぶし)と呼ばれ、荒節よりも高価。世間的にも高級品とされています。こちらはクセがなく、旨味が強いです。すまし汁など、出汁が主役の料理に最適です。

と書かれても、「どうせ素人に違いはわからない」と言いたい気持ちはわかります。筆者自身もそのように思っていましたが、花菱商店で取り扱う、荒節「上花かつお」と本枯節「鰹本枯節けづり」で出汁をとり、飲み比べてみると、両者の違いははっきり理解できます。

荒々しく鰹の主張が激しい「上花かつお」に対して、「鰹本枯節削り」は対極にすら感じるほどクリアで、旨味だけをストレートに感じることができます。例えるなら荒節はヒップホップ。本枯節はクラシックといった感じでしょうか。

▲燻されて真っ黒になった削る直前の荒節。
▲荒節の削り節は削った直後から大きく香りが広がります。
▲曲線美に見惚れてしまう本枯節。
▲鰹本枯節の削り節は荒節に比べて、香りも色も控えめ。

その他にも花菱商店では、鯵、鯖、鰯を混ぜた混合削り節ほか、使い勝手のいいだしパックも各種揃っています。食べ比べて特徴を掴むことで、今後の料理のレベルや幅もきっと広がってゆくのではないでしょうか。

▲写真上から、鯖節、鰯節、鯵節。混合だしは濃厚な味が特徴。汁物、煮物、麺つゆに。

最後に。これは余談ですが、47都道府県で最も一人当たり消費量の多いのは、鰹出汁を使うソーキそばや削り節をまぶして食べるゴーヤチャンプルで有名な沖縄県。インドの右下に浮かぶ島スリランカには、モルディブフィッシュという荒節によく似た加工品があり、これがマレーシアから南シナ海を通ってフィリピンへ。そこから沖縄へやってきて鰹節として日本で広まった説もあるらしいですが、はっきりしていないそうです。

削り節は身近なはずなのに、案外知らないことだらけ。削りたて、本物の味もまだ味わったことがないのならもったいない。ぜひ極上の風味を体験してみてください!


花菱商店
徳島市吉野本町6-14
tel.088-652-6009
https://hanabishi-syoten.co.jp/



花菱商店の商品は、Lacycle mallでお買い求めになれます。

削りたての鰹節詰合せCG21-301

厳選された国産鰹節を使用。原料の鰹は中西部太平洋などで漁獲された良質で安心な魚のみを使用しております。鰹だしパック3袋と鰹本枯節と羅臼昆布のだしパック2袋、上花ふぶき3袋を詰め合わせました。