目次 鉄板の差し入れ いい香りのするジェラート 「食べられるモノはすべてジェラートにします」 素材のポテンシャルを引き出す甘さの微調整 現地…
ありそうでない、まちの味噌屋
「いらっしゃいませ! いつもありがとうございます~」と馴染みのお客さんを朗らかに迎えるのは「志まや味噌」の濱野比加里(ひかり)さん。平日の午後とはいえ、店には量り売りの味噌、生糀、ギフトなどを求めるお客さんが途切れることなく訪れています。
「商品は県内、県外のさまざまなところに卸していますが、この店でしか買えないものもあります。あと、かつお節やしょうゆ、そば米キットなど、私たちが選んだ県内外のいいモノも並べています。皆さんお忙しいので、ここに来たらある程度のものが一度に買い揃えられるようにできたら便利かなと思って」と、比加里さん。
創業はもっと古いかもしれません
徳島市中心部から車で5分程度。吉野川に向かって北へと伸びる幹線道路(県道30号)沿いに店を構える「志まや味噌」。糀屋として創業し、同じ場所で味噌づくりを続けて優に120年を超える老舗です。
「創業は1899年(明治32年)です。ただ、祖母が嫁いできた頃の昔のラベルに創業明治7年とあったり、『御国産名物見立相撲(江戸時代末期から明治初期頃に作られた、いわゆる阿波の土産番付)』に表記は異なるのですが<島屋白味噌>と載っていたりもします。それがうちなのか、そこから分かれてうちができたのか……、その辺の真相がわからないんです」と比加里さん。
「はっきりしない創業年や屋号のことは私が隠居したらしっかり調べたいと思っています」と、量り売り用の味噌をならしながら教えてくれたのは、比加里さんの父にあたる4代目、現社長の濱野正裕さん。
父娘ともにUターンして店に立つ
比加里さんは2020年、店を継ぐことを決意し、東京より帰郷しました。 「大学卒業後、百貨店に就職して販売促進や広報、化粧品売場の運営などを担当していました。コロナ禍だったことも含めてあらゆるタイミングが重なり、徳島に帰ろうと決めたんです。とはいえ、お店のことも味噌のこともよく知らず、すべて一からの勉強でしたが、前職での経験を活かして帰郷してすぐにホームページをリニューアルしたり、店構えも少し変えたりしました。翌年には『おかず味噌』のパッケージもシリーズとしての統一感を出すためにリニューアルしました」
「店構えや商品のリニューアルを経て客層が広がったと実感しています。今では20代の方から親子、家族3代まで幅広い層の方々に利用していただいています。また、知り合いにもらって美味しかったからと県外の方が立ち寄ってくれたり、通販で買ってくれたりと、徳島の方以外にも広まっているなという印象はありますね。ありがたいです」と比加里さん。
4代目の正裕さんも27歳のときに勤めていた証券会社を辞め、体調を崩した先代をサポートするためにUターンしました。 「私が帰って来たときは店のことで先代とよくケンカをしましたね(笑)。商売は“不易流行”。伝統を守り伝えながらも娘のアイデアを活かして任せていることも多いです。実際、娘がSNSやブログを始めたことで若いお客様が増えました。一緒に働くことができてうれしいですね」と、少しはにかみながら答えてくれました。
糀づくりは昔ながらの人の手で
ところで、江戸時代より伝わる阿波徳島のご当地みそと言えば、“御膳みそ”。当時の阿波藩主・蜂須賀公の御膳に供されたことがその名の由来で、ほかの地域に比べて主原料(大豆と米糀)のうち、米糀の割合が高く、旨味と甘みが強いことが特徴です。この徳島の味噌文化を継承してきた県内の味噌蔵13社がそれぞれの“御膳みそ”を作っています。
一般的な御膳みその大豆に対する糀の割合は11~13割ほどですが、「志まや味噌」の御膳みそは糀が14~16割と高めです。加えて、半年~1年程度じっくりと熟成させているため、塩かどが取れ、より一層糀の甘味と濃厚なコクが感じられる風味豊かな味わいに仕上がっています。
「とくに味噌の出来を左右する糀づくりにこだわっています。工場を新築した際に機械化も検討したのですが、あえて手作業を残しました。熟練の職人さんの手の感覚を活かした糀づくりを行い、厳選した国産の原材料を使うことで、志まやならではの味噌を作り続けることができています」と比加里さん。
熟練の糀づくりの職人さんは2人。正裕さんが糀づくりに入ることもあるそうです。 「蒸したお米を手作業でほぐしながら種麹をまんべんなくつけていきます。糀づくりは1日3回朝昼晩に30分から1時間程度、糀をほぐす作業を行うのですが、かなり重労働ですね。全身を使うのでとくに夏場は大変です。また、ここ数年は気温の変化が激しいので、糀の温度管理にとても気を使います。本当に納得のいくいい糀をつくるにはどうしたらいいのかを日々話し合いながら、糀づくりに励んでいます」と正裕さん。
数ある味噌の中でも米、大豆、塩とすべての材料を徳島県産にこだわったのが、「御膳みそ 阿波物語り」。 徳島ではなかなか大豆は取れないため、量はあまり作れないとのことですが、あっさりとした風味でお土産としても人気。
伝統の味をベースに味わい七変化
「志まや味噌」は味噌のみならず、バラエティに富んだ商品展開も大きな魅力です。ご飯のお供として人気の「おかず味噌」を始め、フリーズドライのお味噌汁、ドレッシング、おせんべいにラスクなど、味噌のおいしさをあらゆる形で楽しむことができます。
「フリーズドライの味噌汁を作っている味噌屋は県内ではうちだけです。鳴門わかめのお味噌汁から始まり、現在は3種類です。野菜も味噌も贅沢に使っているので食べ応えがあります。ギフトでよく出ていますが、年配の方や一人暮らしの方にも好評です」と正裕さん。
比加里さんのお気に入りは「おかず味噌」のひとつ、「鯛みそ」。「鳴門鯛を使っています。たくさんの工程があり、手間をかけているので魚の臭みがありません。お茶漬けや焼きおにぎりに、今の時期なら大根のスライスに添えたりして食べるのが好きです」
「ゆずみそ」や「もろみ」、調理みその「田楽みそ」は古くからあったそうですが、それ以外は4代目が考案。「阿波すず香みそ」(阿波すず香とはすだちとゆずを交配した徳島県産かんきつ類の新品種)のように、徳島大学の学生らと共同開発した珍しいものも。
ほかにも御膳みそを使った「味噌せんべい」や、木頭ゆずを使った「柚子みそらすく」は香ばしい味噌の香りと濃厚な味わいがクセになる逸品。リピーターが多いのもうなずけます。
地域の中で身近な存在でありたい
さらに、「志まや味噌」は近隣の小学校の社会科見学や出前授業など、地域に根差した活動も積極的に行っています。
「子どもたちと話をしていると楽しいですね。その後、保護者の方と一緒に店に来てくれたりするとうれしくなります。地元の繋がりはずっと大事にしたいです」と比加里さん。
また、1~3月は味噌づくり教室も開催。声がかかれば出向き、親子教室は毎回キャンセル待ちが出るほどの人気だそう。
「ここにスペースがないので外で場所を借りて教室を開いているのですが、いずれはお客さんと味噌づくりができるスペースをこの場所に作りたいですね。『志まや味噌』がこれからも身近な存在であり続けるためにもっともっと味噌のことを勉強して、より多くの人に知ってもらえるよう広く活動していきたいなと思っています」
脈々と受け継がれている味噌への愛とこだわり。老舗「志まや味噌」が自信を持って提案し続ける“おいしい”の数々をぜひ味わってみてください。
志まや味噌
徳島市吉野本町5-47
Tel.088-652-7356
https://www.shimaya-miso.jp
志まや味噌の商品は、Lacycle mallでお買い求めになれます。
ラシクルモールサイト限定!志まやのお味噌をお楽しみいただけるセットです。阿波名産の御膳みそはじめ、7つの穀物を使用した「七穀みそ」。おかず味噌やフリーズドライのお味噌汁など、盛りだくさんの内容です。