藍の日々―藍師&染師の一年―
【第3回】夏の圃場と工房

藍の日々―藍師&染師の一年― 【第3回】夏の圃場と工房

世界に誇る“阿波藍”。それは、徳島県で生み出される高品質な天然の藍染め染料「蒅(すくも)」を指します。“ジャパンブルー”と称される、唯一無二の美しい藍色の源です。本連載では、藍とともに生きる職人の日々に迫ります。
書き手はWatanabe’s(ワタナベズ)代表の渡邉健太さん。上板町で藍染めの原料となる蓼藍(たであい)の栽培から蒅づくり、さらには染色までを一貫して手がける藍師(あいし)であり染師(そめし)でもある職人です。
本来、藍の世界は分業が一般的ですが、渡邉さんはそのすべてを自ら担う稀有な存在。藍を育て、発酵させて「蒅」をつくり出す「藍師」に加え、その蒅を用いて染液を作り、染色する「染師」の顔を併せ持っています。
じつは徳島にいても、実際に藍に携わる人がどのようなことを行い、考えているのかは意外と知られていないもの。藍仕事とは何か?日々の暮らしとは? 四季の移ろいとともに、その内側を渡邉さんのみずみずしい言葉で綴っていただきます。

【第3回】夏の圃場と工房

年々、月日の流れはどんどん早さを増しているように感じる。まるで新幹線の車窓を眺めているように日々は過ぎていき、ひとつひとつの起こる事象を噛み締めて味わわないと、あっという間に通り過ぎていってしまう。

今年も気が付けばもう8月が終わる。今年の徳島県を含む四国地方の梅雨入りは6月2日頃、梅雨明けは7月12日頃であった。1か月近く雨が続き、農作業のできない日が続いた。

安定した気候を保つであろう6月初旬までに収穫期をもってこられないだろうかと目論み、3月末に定植した圃場(ほじょう)では順調に生育が進んだ。5月中旬に収穫期を迎え、良質な葉藍を収穫することができた。

ただ、最初の定植から3週間ずらして栽培を開始した圃場はこの長雨の影響をもろに受けてしまった。梅雨入り直前までは順調に育っていたが、長雨の続く間に虫が湧(わ)いてしまい、収穫量が減少してしまったのである。定期的に各圃場の見回りを行うのだが、この時期は雨に打たれる藍の姿を、道路脇に停めた軽トラックのガラス越しにただただ眺めるしかなかった。なんとかしてあげたいが、どうすることもできない。

天候どおりのジメジメとした感情や焦りが湧いてくるが、スパッと諦めることも肝心である。

▲7月、藍の収穫作業の様子。

梅雨明けより続いた晴れの日のおかげで、収穫作業と葉藍の天日干し作業は再開し、順調に進んだ。7月のうちに全ての圃場の収穫作業を終えることができ、今年の藍作もひと段落。

大きな問題が起こることもなく、携わるみんなに怪我もなく、無事に作業を終えられたことに感謝の気持ちでいっぱいだ。ぼく自身、ありがたみを噛み締めて、素直に感謝の気持ちを口に出せるようになっていたこともひとつの収穫であった。こうして毎年、藍と共に成長していくのである。

収穫後の圃場ではすでに翌年に向けた準備が始まる。お隣にある金時豚の養豚場でつくられる栄養いっぱいの堆肥が、ぼくたちの土づくりには欠かすことができない。今年の栽培状況を振り返りながら、適量を散布し、半年以上かけてゆっくりと土に馴染ませていくのである。

金時豚の堆肥
▲土に混ぜる金時豚の堆肥。

また、同時に圃場周りの雑草との戦いも始まる。隣近所の農家の方にご迷惑がかからないように、きれいに圃場を管理しておかなければならないのだ。

炎天下の中、草刈機を左右にゆっくり振りながら進んでいくのであるが、これがただただ辛い。そんな時は、そうです、わたしの出番です。わたしとは、ヤギのヒミコ。我が家の次女を連れ出し、草を食べてもらう。

ヤギのヒミコ
▲工房の隣で暮らす、ヒミコ。

一方、工房の様子はというと、5月に仕込んだ藍染液がバリバリに活躍していた。名前は“もえちゃん”。仕込んだ日から2日後に藍は建ち上がり、日を追うごとにどんどんと濃くなっていったあの青は、8日目に最高到達点を迎え、発酵が安定した。

今年の青の印象は、まさに好青年のような清々しい青だった。でも好青年なのに、名前はもえちゃん。もえちゃんなのだ。

藍建て中
▲藍建て中(中石 ※中間に入れる石灰のこと)。
毎日チェックした藍の記録
▲色の建ち方を毎日チェックした藍の記録。

藍のグラデーションで染めたウール
▲藍のグラデーションで染めたウールの綛(かせ)。

9日目の初日から毎日、ジャケットとパンツが次から次へとこの藍染液の中に飛び込んでいく。一日に染める総重量は4キロほど。とてつもない量を濃色に染め上げてくれていた。

もえちゃんに続くように、もう2槽も藍建てを行った。「祭1号」と「祭2号」と称されたこの2槽。合計で400着を超える染色の依頼を、祭りのように熱く駆け抜けよう! スタッフ一丸となって染めきろう!という決意を込めて、名付けられたものであった。

名付けた名前の通り、ドンドコドンドコと太鼓の音が聞こえるかのように、次から次へと染色が仕上がっていったのであった。

染色作業をすすめるスタッフら
▲「祭1号」「祭2号」で染色作業をすすめるスタッフら。
染色衣服を大量に干している様子
▲後処理中の染色衣服をずらずらっと干し祭り。

農作業が落ち着いたこの時期から、蒅(すくも)づくりを開始する予定の10月31日大安の日までは、上板町の工房を出て、ポップアップイベントや出張授業、ワークショップなどで国内外を動き回ることにしている。

毎年、新しい土地に出向き、初めての体験を経験し、いろんな刺激を受けては自分自身にインプットする時期としてとても大事にしている。

マリ共和国で藍染指導
マリ共和国で藍染指導
▲6月の1週間、マリ共和国に藍染指導へ行った。

いろんなことに興味があるし、探究は尽きないものである。泉のように湧いてくるワクワクが止まらないのである。たまに予定を詰めすぎて、ヘトヘトになってしまうこともあるが、そこまでしてでも好奇心が勝ってしまうのが困ったものである。今年も無理をしない程度に全力で楽しもうと思っている。

あたまをつかい、からだをつかい、こころをつかい、持つもの全てをつかい、思いっきり感じとり、経験すること。そこからの学びや気づきを得た先に無限の可能性が広がっている。




渡邉健太さん

プロフィール
渡邉健太
株式会社Watanabe’s代表/藍師・染師
1986年2月26日山形県生まれ。

阿波藍の産地として知られる徳島県上板町を拠点に藍の栽培、染料となる蒅(すくも)造り、染色、製作を一貫して行う。古き良き日本の伝統を残しつつ、新たな機軸で藍を伝えるべく、国内外で幅広く活動を行う。

Instagram @watanabes_japan
HP https://watanabes.jp/