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はじめに
徳島県を代表する特産品のひとつ、「阿波晩茶」。上勝町・那賀(なか)町・美波町などの山間地域に伝わる、乳酸菌の力で自然発酵させてつくられる世界でもめずらしいお茶です。その独自の製茶技術により、2021年には「国の重要無形民俗文化財」に指定されました。
もともと自家消費が中心で市場への流通量が少ないうえ、近年は、人口減少や生産者の高齢化により生産量そのものも減少しています。こうした希少性から、阿波晩茶は“幻のお茶”とも呼ばれています。
本連載では阿波晩茶がどのようにつくられ、愛されているのかを紐解くため、つくり手に密着。全3回にわたってお届けします。
第2回目は、7月頭、90歳のおかあさんが元気に切り盛りする那賀町の田渕家へ。阿波晩茶の漬け込み作業がはじまっていました。
【第2回】阿波晩茶ができるまで〈茶茹で〜茶干し編〉

田渕家で受け継がれてきた“メゴ茹で”
茶摘みがはじまって3日目。小雨が降る中、朝8時に田渕家を訪れると、ブルーシートの仮設テントが作業場の前に設置されていました。朝5時から沸かしているかまどではすでに湯がグツグツと煮立っていて、作業場の中では摘み取った3日分の茶葉が山のように積み上げられています。

「今日も畑のほうでは6人くらいが茶摘みをしてくれよる。こっちは最低4人いればなんとかなる」と話す田渕直代さん。この日、茶摘みと並行して行われるのは、「茶茹で」「茶摺(す)り」「漬け込み」という作業です。

竹製のカゴに、茶葉をぎゅうぎゅうに詰め込んで、釜の中へ。
家によっては、直接釜に茶葉を放り込んで茹でたり、釜の真ん中に仕切りをして順番に茹で分けたり、さまざまな茹で方があるそうですが、田渕家で代々受け継がれてきたのはこの「カゴ茹で」。この辺りではカゴのことを「メゴ」と呼ぶため、「メゴ茹で」というそうです。

「もっと大きい釜を使いよるところもあるやろうけど、うちの釜はちっちゃいけん一回でちょっとずつしか茹でることができん。夕方まで繰り返しやって木桶1個分くらい漬け込めたらええけどなあ」
大人がすっぽり入るほど大きな木桶を満杯にするのがこの日の目標です。

葉の色が変わったら、茹で上がった目安です。
すると、カゴにフックをかけてロープで吊り上げ、釜の中に新しい茶葉が入ったカゴを差し込みました。


吊るしていたカゴは釜の中のカゴの上に重なるように置かれ、下段のカゴが茹で上がるまでの重石として使われます。

下段の茶葉が茹で上がると、上段のカゴを引き上げて脇に置いた小さな木桶の上へと置きました。
「ぽたぽたと汁が木桶へ落ちよるやろ。この煮汁は漬け込む時に必要やけん溜めておくんよ」
茹だった茶葉を汁切している間にも、落ち着くまもなく作業場から新しい茶葉を詰めたカゴを運び出し、釜の中へ。蒸気で暑さが増して感じられます。
発酵を促す茶摺り作業
汁けを切った茶葉を少し冷ましたあと、バケツ一杯分ほどをすくって揉捻機(じゅうねんき)へ。
揉捻機とは、茶葉に圧力をかけて揉み込むことができる機械です。茹でた茶葉を擦って傷を付けることで、漬け込み時の発酵の効果が出やすくなると言われています。

「茶摺り」と呼ばれるこの工程を担当するのは、阿波晩茶づくりのベテラン、佐野甚太郎さん。89歳です。
「この人に聞いたらなんでもわかる」と直代さんからの信頼が厚い佐野さんは、元林業従事者。昔は、米や野菜などと一緒に阿波晩茶もつくっていたそうです。

「摘み始めはまだ柔らかいけど、摘む時期が遅い葉ほど硬くなってくる。茶葉の具合を見ながら回数を調整していくんよ」と佐野さん。一度につき、40〜50回ほど回転させます。

田渕家のように茶葉の変化や揉捻機の回転数を目安にしている家もあれば、摺り時間を基準にしている家もあるそうです。
「私の郷(現阿南市新野町)でも阿波晩茶をつくっとったけど、そこでは舟型の道具で漕ぐように摺る“茶摺り舟”を使いよったわ」と、直代さん。
かまどの形や大きさ、茹で方、そして茶摺りの道具や摺る目安など、家によって少しずつ手法が異なっているのが阿波晩茶のおもしろいところです。


昔ながらの木桶で漬け込み
揉捻し終えた茶葉は漬け込み用の大きな木桶へ。
茶茹でから茶摺りまでを何度も何度も繰り返し、少しずつ量が増してきたところで、専用の長靴を履いて木桶の中へ。トントンとかかとを落とすように茶葉を踏み込みます。

「木桶の縁に沿って踏み込んでいくんです。中央を踏まないのは、最後に流し淹れる煮汁の通り道になるかららしいですよ」と教えてくれました。

大きな木桶が満杯になったのは翌日の午前中でした。
木蓋などをした上から漬け込んだ茶葉と同じ重さ分くらいの重石を積み、発酵を待ちます。

「木桶はな、菌が棲みついてとって良いらしいわ」と直代さん。
夏の気温が高い時期に漬け込むことで、茶葉の乳酸菌発酵を促すことができるのです。
「漬け込みをした翌朝に茶汁がプクプクとしてきてたら、発酵がうまくいっているなあって思うんです」と、作業を手伝う直代さんの娘さんも出来上がりを楽しみにしている様子です。
ここから10日〜2週間ほど、茶汁を入れ替えるなどの管理をしながら漬け込みます。
カラッと晴れた日に一気に乾かす
今季漬け込んだのは大小5つの木桶。1つ目の木桶を漬け込んでから約2週間経ったこの日は、晴天予報の真夏日。絶好の茶干し日和です。
「干し直したら味が落ちるけん、暑い晴れた日に一気に乾かすのが良いんよ」

まずは茶捌(さば)き機にかけて、漬け込んで塊になっていた茶葉をほぐします。茶捌き機とは脱穀機のような仕組みのものだそうです。

朝7時頃。庭一面に敷き詰めた寒冷紗(かんれいしゃ)の上に茶葉を広げます。
干している途中で雨が降れば、急いで取り込まないといけないそうです。夕立ちがこないことを祈りながら、みんなで作業を進めます。


茶干しで気をつけることは、まんべんなく乾燥させること。茶葉同士が重なっていると乾燥にムラができてしまうため、2、3時間置きにしっかり天地返しを行います。

田渕家では1回目の天地返しの時に手のひらで茶葉を揉みほぐしていきます。
「茶葉を手で揉みほぐすのが一番(体が)しんどいんよ」と直代さん。

正午に再び天地を返して、15時頃に取り込みます。カラッカラに乾燥した茶葉は、触れるだけで粉になりそうなほど。選別機にかけて茎と葉に分けたあと、ゴミなどを手作業で慎重に取り除いたら出来上がりです。

茶摘み初日から数えて約1ヶ月、ようやく阿波晩茶が完成しました。馴染みのお客さんに直接販売をしたり、地元にある「もみじ川温泉」前の農産物直売所で販売したりするそうです。
「暑くて毎年大変だけど、待っててくれる人がいるけんがんばれる」
想像以上の労力と手間を要する阿波晩茶づくり。それでもつくり続ける人たちの手によって、今年も滋味深い阿波晩茶が届けられます。
最終回は、阿波晩茶の魅力、そして地域が抱える課題についてご紹介します。
那賀商事(NAKATOWN)
徳島県那賀郡那賀町和食郷八幡原29番地5
TEL 050-1792-0611
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阿波晩茶は徳島県那賀町相生(あいおい)地区で作られる伝統的な後発酵茶。そのため、「相生晩茶(あいおいばんちゃ)」とも呼ばれています。独特の酸味と旨味に加え、爽やかな香りと後味にすっきりとした清涼感が漂います。




