[新連載]わたしと徳島 vol.1
阿波市/井本養蜂園

[新連載]わたしと徳島 vol.1<br>阿波市/井本養蜂園

移住や仕事、二拠点生活などなど、徳島で暮らす県外出身者の方を中心に、きっかけや暮らしぶり、印象などをインタビュー。ただ、ひとくちに徳島といっても県南、県西、県央部など、地域によって風土も文化も異なるものです。人や暮らし、そしてその奥に見えてくる徳島に迫ります。


 井本養蜂園/阿波市





井本加奈子さん(37歳・愛知県出身)
  恭輔さん(40歳・大阪府出身)


<移住までの軌跡>

加奈子さん/愛知県生まれ→山形県(大学進学)→兵庫県(就職)→大阪府(結婚)→2018年4月より徳島県阿波市
恭輔さん/生まれも育ちも就職もずっと大阪府→2020年2月より徳島県阿波市


徳島も養蜂も頭になかった

二人は2016年3月に結婚。その後の展開は思いもよらず?!

加奈子さん:大学と大学院で化学工学を学んだのち、神戸の工場に就職しましたが、職種柄、休日や夜中に会社用のスマホが鳴ることもあって……。
そのうち自然の中で働きたいという思いが芽生え、現実的なことを考えると農業だなあと。最初は大阪近郊で農業ができるところを探していたのですが、なかなか見つかりませんでした。
移住も視野に入れてみたら?とアドバイスを受けて、地域おこし協力隊の求人情報が出ている「JOIN(一般社団法人移住交流推進機構)」のサイトを見てみると、たまたま阿波市が養蜂を学ぶという研修条件で募集をしていたんです。それを見るまで、徳島も養蜂も考えたことがなかったのですが、いいかもと思えて応募することにしました。
2018年1月に退職し、2月の面接を経て採用され、4月から単身移住を始めました。阿波市役所の方が準備してくれた住まいがいきなり一軒家で驚きました。


恭輔さん:僕も徳島にはこれまで訪れたことがありませんでした。
妻も任期を終えたら帰って来るだろうと思っていたんですが、会社員時代のピリピリ感がなくなって顔つきがいきいきと変わっていました。
しかも手伝いに来るたびに周りの人たちから「こっちで一緒に暮らしたほうがいい!」と言われて。でも、僕は虫が嫌いで……(笑)。

加奈子さんは1群に1匹しかいない女王蜂を見つけるのが得意。

加奈子さん:当初は3年の任期後についてはノープランでしたが、知識ゼロの私に師匠である研修先の養蜂家さんがつきっきりで一から教えてくれたこともあり、養蜂がどんどん面白くなりました。周辺の環境もよく、1年、2年と経つうちに帰れないな、帰りたくないな……という気持ちが出てきて、3年目から家を探したり巣箱を置く場所を探したりと、独立に向けて動き始めたんです。

5~6月が忙しさのピーク。夏場は少し落ち着き、また秋から忙しくなるのだとか。

恭輔さん:2020年の夏前にこの家を紹介してもらいました。築90年、7部屋もある二階建ての大きな古民家です。広い庭付き。思い切って購入したのですが、それでも私の気持ちはまだ揺れていましたね。食べて行けるのか?と。大阪でこのまま働くのか、もしくは一緒に移り住んで私だけ勤めに出るのか、とか。
ただ、本格的に養蜂業をやるなら夫婦二人でやるほうが断然効率がいいとわかっていたので二人で話し合って、やっていこうと腹をくくりました。
虫嫌いが養蜂家、会社員からいきなり経営者。これは大事件です(笑)。自分自身はもちろん、周りもびっくりしていましたね。2021年1月に退職し、2月から移住して本格的に働き始めました。


農業に興味があれば阿波市はおすすめ

裏庭にある巣箱を開けて巣枠ひとつひとつを確認。
「剣山に行きたい。行ったことがあるのは鳴門と祖谷くらい」と加奈子さん。

加奈子さん:今年で6年目ですが、まだまだ思い通りにはいきません。今は100群(1匹の女王蜂に対して働き蜂と雄蜂が暮らしているかたまり)ほどの巣箱を市内5か所に設置して管理しています。
蜂の活動が少ない冬場は比較的ゆっくりしていますが、暖かくなってくると忙しくなります。巣箱の中の点検、採蜜(蜜が貯まった巣枠を抜き出して蜂蜜を取り出すこと)、蜂蜜の充填などをしていると1日があっという間……。
しかも、巣箱を置いている裏庭や畑の雑草がすごいことになっているので草刈りをしたり、巣箱や巣枠を作ったりと、ほかにもやることが山積みで……。登山が好きなので剣山に行きたいけれど、シーズン中は忙しすぎてまだ行けていません。

ピーク時にはここに積まれてある巣箱すべてが各蜂場(巣箱を置いてある場所)へ。

恭輔さん:蜂の活動に合わせる生活スタイルになりましたね。
夏場は蜂が蜜を集め始める前、朝5時くらいから採蜜に回ります。二人ともペーパードライバーでしたが、こちらの暮らしでは車の運転が必須。移住前に講習に行き、今では軽トラと普通車に乗っています。


加奈子さん:車に乗るようになった分、歩かなくなって体力が落ち、足腰が弱っているような気も。


恭輔さん:確かに大阪にいたときは毎日1万歩くらい歩いていたけれど、今はまったく……。
でもこちらに来て驚いたのがこの辺の方はよく働くなあと。兼業農家が多いのか、平日は勤めに出ていて土日に農業をやっているんです。親と同世代の方も元気でバリバリ働いているのがすごい。タフですね。

初めて間近で見たときはひるんだそう。今では指に乗せたりとかわいい存在に。
採蜜日をラベルに表示。使い勝手のいいパウチタイプが好評。

恭輔さん:採蜜は4月後半から10月中旬くらいまでです。ミツバチがどんな花の蜜を集めてきたかによって蜂蜜の色も香りも風味も変わります。
だから採蜜した季節が異なる商品を並べるようにしてそれぞれの違いを楽しんでもらえたらと思っています。


加奈子さん:冬には加工品の新商品も出す予定です。
ほかにも、地域の生産者さんに声をかけていただいて、「あわcolor(阿波市産の自然素材を生かした食の地域ブランド。阿波市の生産者&食品加工者を中心に結成)」の活動に参加させてもらっています。阿波市は農業が盛んな町です。6次化で農業を盛り上げてくれる若者も求めているので、農業に興味がある方にはおすすめです。
隣接する吉野川市にある「吉野川農業支援センター」では新規就農の女性の集まりや勉強会などのサポートもあります。交流が深まり、仲間ができるので私も参加しています。


レタスに感動! 雑草に苦戦!

蜂場の近くに生えているワラビ、実家の筍と土成(隣町)の苺。

恭輔さん:阿波市に来て野菜の本当のおいしさを知ったような気がします。大阪で食べていた野菜の味と明らかに違う。近所の方にいただくことも多いし、スーパーに行けば産直コーナーが充実しています。
なかでも知り合いの農家、ボンボンファームさんがこだわって作られているレタスはフワッパリッで感動するほど。これを超えるレタスに出合ったことがありません。


加奈子さん:この辺のお米もおいしくて30kg入りの大袋で買うようになりました。精米しながら食べています。食材は充実していますね。養蜂の師匠がとる鮎や、いただいたイノシシもとてもおいしいです。

裏庭には蜜源になるハーブなどを少しずつ増やしている。

恭輔さん:虫には慣れたけれど、唯一嫌なものが雑草。ひたすら生えてくる。「雑草を抜く」なんて無縁の人生でしたが、こんなに草刈りが大変とは知りませんでした。


加奈子さん:裏庭以外にも借りている2反程度の畑もあって、ほとんど草取りが追いついてないですね……。野菜も植えたいのですがまだ手が回っていません。


“おこおっつぁん”と吉野川の眺めが癒し

土手を下ると旧渡船場のあった辺りに昔起こった水難事故と自衛隊訓練事故を供養する地蔵尊が。鮎とり用の小舟も。

加奈子さん:家の裏から少し歩くと瀬詰大橋近くの土手に出ます。高越山(こうつざん)が目前に、吉野川もよく見えるので二人でたまに散歩してリフレッシュしています。


恭輔さん:地元の人にとって高越山は親しみのある特別な存在のようですね。ここは「おこおっつぁん(高越山の通称)」が一番きれいに見える場所だと教えてもらいました。車を停めて散歩をしている方もいます。

阿波図書館。「あわむすび」(旧市役所エリア)にあり蔵書も多い。

加奈子さん:市立の阿波図書館もお気に入りです。近くに大型の書店がないのが残念なのですが、ここの図書館が充実しているので書店代わりみたいなもの。しかも、いつもあまり人がいないので(笑)、好きなミステリーが借り放題です。


恭輔さん:移住して3年目で、出不精なこともありまだまだ徳島は知らないことだらけです。
田舎は地元に溶け込んでいかないといけないのかなという先入観がありましたが、コロナの影響もあったせいか自治会の活動も少なくてそもそも触れ合う機会があまりありませんでした。
工作好きなので時間に余裕ができたらDIYをチビチビやりたいですね。


加奈子さん:マイペースにやっていますが、研修先の師匠や地元の養蜂家の皆さんをはじめ、地域の人たちにはずっとお世話になっていて感謝しています。慌ただしい毎日ですが、自然の中で働きたいという夢も叶えられ、こちらに移り住んでよかったなあと思っています。


井本養蜂園
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