[連載コラム][第28回]
今日は、どこから見てみましょうか。

[連載コラム][第28回]<br>今日は、どこから見てみましょうか。

「葉っぱの町」ならではの体験を創り出そう!

このコラムでは、上勝町での東の暮らしぶりを綴っている。でも、どれだけの方がそもそも上勝町のことを知っているのだろうか?ふと疑問に思う。

「あの、ごみをたくさんの種類に分けている所でしょ」という方。正解です。私たちは普段から、ごみを45種類に分別し、リサイクルしている。

「苔のキレイな山があるよね」。こちらもその通り。「山犬嶽」と呼ばれる標高997.6mの山があり、巨石群と水苔が美しい、癒しスポットがある。

最も多い回答は「葉っぱビジネスの町だよね」だと、私は思っている。

料理を引き立たせ、また食べる人に季節感を感じてもらう演出に使われる「つまもの」。そのつまものを生産し、販売するビジネスは20年前に始まり、今では町の大事な産業の一つとなっている。皆さんも一度はレストランや居酒屋で、笹の葉や紅葉、南天などの葉っぱを見たことがあるのではないか。上勝町に来たことがない人もいると思うが、もしかすると、知らぬ間に上勝町と接しているかもしれない。

カシの木の葉っぱの箸置き。丸めて止める方法は、地元のおばあちゃんたちに教わった。

そんな葉っぱの町にあるカフェとして、私たちは普段からランチにつまものを添えたり、カシの木(どんぐりができる木)の葉をくるりと巻いて、箸置きとして使ったりしている。加えて今年は、初めてモーニングに挑戦。イチジクの葉をお皿にして、モーニングプレートを提供した。さらに、9月は蓮の葉が旬だと農家さんに聞き、「白玉団子と自家製餡子の蓮の葉包み」という和スイーツが登場。オープンしてから10年が経っても、“初めて”が、まだまだたくさんある。

私たちは、葉っぱを直接お客様に販売するわけではない。カフェとして、空間や時間を過ごしてもらう場として、どうやって葉っぱに触れる「体験」を作るかが役割である。何を伝えたいのかを考えながら、試行錯誤していく。クリエイトする、と言えばかっこいいのだが、「頭の体操」といった感覚に近い。いかに柔軟に考えて形にするか。

今年初めて挑戦したモーニング。トーストが収まるほどの大きなイチジクの葉。

先の和スイーツ「蓮の葉包み」を例に出せば、蓮の葉の大きさや美しさなど、私たちが農家さんから蓮の葉を受け取った時に感じた感覚を、大事にすることにした。

上勝での暮らしの中で、葉っぱは身近にあるものだが、普段葉っぱに触れることがない方もいるはず。だからこそあえて、葉っぱで団子を包み、お客様に開けてもらう形にした。必ず手に取って触れて、葉っぱを体感できる。目の前に顔がすっぽり入りそうなほど大きな蓮の葉があったら……。きっと驚いてもらえるだろうな。そんな体験をして欲しい!という気持ちを込めて、このスイーツに「蓮に手を。」と名付けた。

上勝町で葉っぱを商品として販売している「株式会社いろどり」。この会社が最近新しく始めた、葉っぱに関する取り組みについても触れたい。「葉っぱ相談室」だ。

“日常に彩を添える”というコンセプトで、葉っぱの可能性を模索する実験的な取り組み。

私も葉っぱ相談員の1人として参加。お揃いのユニフォームを着用し、「推し葉っぱ」を手に持って。

デザイナーやアーティストに葉っぱを使って、いろいろな提案をしてもらう。初回は葉っぱのフレームを作るワークショップが開催され、私も参加したが、普段とは違った葉っぱの使い方にワクワクした。ワークショップの様子は「葉っぱ相談室」に掲載されているので、ぜひチェックしてほしい。写真を見るだけでも癒される。毎週木曜日に更新されるSNSもぜひ(木の日だから木曜日更新!)

こういった活動を通じて、つまものだけではなく、上勝町と町外の方が関わるきっかけができると嬉しいな、と思っている。

葉っぱのことだけで、語れることはたくさんある。だけれど、これからは語りに加えて、一緒に体験してもらう場を、私たちはカフェを通じて作っていきたいと思う。


〈今月の草花〜上勝だより〜〉

9月の草花を選ぶのは、とても難しかった。スター選手が多すぎる。ヤマユリ、オミナエシ、サルスベリ、ミズヒキ、タマスダレ……。悩んでいたら、コスモスも少し咲き始めた。うーん。でもやっぱり、夏から秋への移り変わりを最も感じさせてくれるのは、この花だと思う。ヒガンバナ。別名マンジュシャゲ。その咲き方も独特で、今回撮影したものは咲く途中のものである。

今の棚田とヒガンバナ。秋です。 写真提供:渡戸香奈

色、形、佇まい、名前。どれをとっても、ユニークさが際立っている。この花が咲くと、少し怖いような、寂しいような……。カフェのスタッフに聞くと、同じく寂しさを感じる人もいれば、群生して咲いているのが華やか!と話す人もいた。

カナダ人、ベルギー人のスタッフにも聞くと、「英語ではスパイダーリリーと言うよ」と教えてくれた。花の形がクモに似ていることから、その名前が付いているという。彼らのイメージは、可愛さや美しさだという。特に稲穂が実る時期は、黄色い稲穂に赤が映えて一層きれいだ、と。生まれ変わりを感じる花とも言っていて、私の感じ方とずいぶん感覚が違うのは、育ってきた国や環境の違いなのだろう。

花言葉参考図書:『植物画で彩る 美しい花言葉』(二宮孝嗣著/ナツメ社刊)