太平洋を望む“四国の右下”へ
「みなみ阿波」の海岸線を巡る
【第1回】ちいさな漁村を巡る

太平洋を望む“四国の右下”へ 「みなみ阿波」の海岸線を巡る 【第1回】ちいさな漁村を巡る

はじめに

“四国の右下”とも呼ばれて親しまれてきた「みなみ阿波」。徳島県第2の都市「阿南市」を含む徳島県南部エリアを指す総称です。阿南市から高知県境に向かって西に進めば、町の9割が森林という山深い「那賀町」へ。一方で、阿南市から国道55号を南下し、太平洋に向かって車を走らせれば、四国最東端の蒲生田岬(かもだみさき)や、ウミガメが産卵に訪れることで知られる大浜海岸、断崖絶壁の千羽海崖(せんばかいがい)など、太平洋沿岸の雄大な自然が残る「美波(みなみ)町」、「牟岐(むぎ)町」、「海陽(かいよう)町」に訪れることができます。

これら1市4町からなる「みなみ阿波」は、山間部では木頭ゆずや相生晩茶など、太平洋側の町では伊勢エビやアワビなど、山の幸にも海の幸にも恵まれた食材も豊かなエリアです。

第1回は、「みなみ阿波」のちいさな漁村を巡ります。

第1回 ちいさな漁村を巡る



地元で獲れた海の幸を干物に

徳島市内から南へ車を走らせること、およそ1時間。阿南市の平野部を抜けて美波町へと入ると次第に山道に。この辺りの太平洋沿岸部は複数の岬や入り江が織りなす“リアス海岸”で、入り組んだ海岸線にできた狭い平地に集落が点在しています。大小さまざまな漁師町が形成されていて、独特の風情と文化を育んでいます。

▲由岐港の様子。小高い山になっている近くの城山公園に登れば、由岐港一帯を見渡すことができます。

特に、美波町由岐(ゆき)地区にある由岐港では、夏にはアワビの海士漁、秋から冬にかけてはイセエビ漁が盛ん。旬の時期には由岐産直市「あわびの市」や「由岐伊勢エビ祭り」を開催し、ちいさな漁師町に大勢の来客を迎えて毎年賑わいをみせています。

▲「濵宮海産」2代目の濵宮誠司さん。

由岐港の目の前に水産加工場を構える「濵宮海産」へ。
地元漁協に水揚げされた鮮魚介類の販売・卸売のほか、干物や惣菜等への加工をしているこちらは、毎週日曜になると徳島市に隣接する石井町まで出向き、農産物直売所「百姓一」に出店。10年以上、“由岐からのお魚屋さん”として親しまれ、「県南の新鮮な魚を買える」と毎週楽しみにしている常連さんもいるようです。

▲先代から受け継いだみりん風味の調味液に一晩漬け込むのがポイント。

また、「濵宮海産」では、地元の魚を使った干物も人気。アジやサバ、カマス、ボウゼ、ヒメチ、トビウオなど、これまで50種以上の魚を干物に加工してきたと言います。旬の時季には、ウツボやハモ、タチウオなどの珍味が出ることも。年末年始には宴席にぴったりの豪華な「伊勢エビの一夜干」や「アオリイカの一夜干」が登場することもあるので、ぜひチェックを。

▲長さ約1キロにわたる白浜が美しい田井ノ浜海水浴場。室戸阿南海岸国定公園内にあります。

小さい頃から海を間近に感じながら育った濵宮さん。由岐のおすすめスポットを尋ねると、子どもの頃の話をしてくれました。

「すぐ近くの田井ノ浜海水浴場の右の岩場に鉄人28号の顔に似ているから、地元の人らが“鉄人岩”って呼んびょる大きな岩があってな、小学生の頃はそこでよく遊んびょったよ」。

由岐港から車で約4分。田井ノ浜海水浴場に立ち寄ると、この日はサーファーたちが波に揺られていました。白い浜辺のすぐ脇にJRの線路が走っていて、海開き期間中には臨時駅、JR田井ノ浜駅が開設されます。夏限定の幻の駅として鉄道マニアの間でも人気です。列車を降りれば徒歩0分で海に到着! 西日本屈指と言われるきれいな水質と、遠浅の海なので、子ども連れにもおすすめの海水浴スポットです。


昔ながらの石臼でつくるかまぼこ

田井ノ浜海水浴場からさらに4分ほど車を南へ走らせて、美波町木岐(きき)地区へ。こちらもちいさな港を中心に形成された漁師町です。

▲JR木岐駅すぐの川沿いには手入れの行き届いた遊歩道があります。春には満開の桜並木が楽しめるそうです。

JR木岐駅から程近くに店を構える「にいや蒲鉾店」。昭和22年創業のこちらは、海部郡で唯一残るかまぼこ店です。

朝から買いにやってくる人たちのために、早朝からもくもくと蒸気が満ちた工場内でかまぼこの製造を行っています。

▲ 「にいや蒲鉾店」の新矢裕洋さんと美由紀さん。
▲ 石臼の中で擦り上げた魚肉と調味料を練り合わせ、写真右のちくわ焼き機に移します。
▲くるくると回りながら焼かれているちくわ。どんどんきれいな焼き色が付いていきます。
▲朝10時ごろにはこの日製造するちくわがすべて焼き上がります。

この日はちくわの製造日。
出来立てのちくわをいただくと、プリプリとした弾力ある歯ごたえ、そして何よりも一段と魚の風味が濃い味わいに驚きました。

「生の魚から作んよるけんなあ」と、3代目の新矢裕洋(やすひろ)さん。

阿南市の椿泊漁協から「エソ」を中心にかまぼこの原料となる魚を直接仕入れ、一匹一匹手作業で内臓などを切り落としたあと、骨や皮を取り除いて魚肉のみを採集していくそうです。

▲天ぷら(揚げかまぼこ)用のすり身をつくる新矢さん。

濃い風味の秘密は、新鮮な生魚を使うことだけではなく、先代から受け継いだ石臼も重要な存在。石臼は温度上昇を抑える効果があるそうで、その結果、魚の風味を逃すことなく練り上げられるのです。

「石臼の方が生魚がきれいに擦れる」と新矢さんは話します。

▲あわび、うに、かに、かずのこ、えびの切り身を贅沢に混ぜ込んだ珍味かまぼこセット。お酒のアテや贈答にぴったり。
▲「ごんげんさん」と名付けられた名物の焼きちくわ。

にいや蒲鉾店のちくわの包装には「ごんげんさん」と書かれています。
その由来を尋ねてみると、地元では「権現さん」と呼ばれて親しまれている満石(みついし)神社にちなんで名付けたと教えてくれました。


地元の人に愛される“権現さん”

そんな“権現さん”は、新矢ご夫婦のおすすめのスポットということで、帰りに立ち寄ってみることに。

▲満石神社へと向かう遊歩道から。

木岐の漁港の脇を抜けて、海沿いの細い遊歩道を歩いて向かいます。
気持ちの良い海の音を聴きながら歩くこと5分ほど。満石神社に到着しました。

▲木々に囲まれひっそりとたたずむ満石神社。
▲満石神社境内にある井戸水は「イボ取りの水」として知られているそうです。

“イボの神様”として知られる満石神社。境内にある名水を求めて遠方から訪れる人もいるそうです。また、境内周辺には「木岐椿公園」が整備されていて、春になるとたくさんの椿の花が見られるとか。

昔ながらの細い路地が残り、歩いて回れるほどコンパクトな漁師町はちょっとした散策にぴったり。ぜひふらりと訪れてみてはいかがでしょう。

▲満石神社へ向かう道中で見られる風景。遠くには紀伊水道。ちょうど海女漁の船が出ていました。

第2回では、さらに南へ。美波町と海陽町の珍しいお土産をご紹介します。


濵宮海産
徳島県海部郡美波町港町西9-6
tel.0884-78-0675
http://wwwd.pikara.ne.jp/hamamiya/index.htm

にいや蒲鉾店
徳島県海部郡美波町木岐535-1
tel.0884-78-0286
https://niiya-kamabokoten.info/

美波町観光協会
https://www.minamikankou.jp/



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