有形文化財“谷屋”で仕込む
ふるさとの新しい味「日和佐ビール」

有形文化財“谷屋”で仕込む ふるさとの新しい味「日和佐ビール」


旅で出会った“住みたいまち”

美しい砂浜に、真っ青な海。徳島県南部にある美波町が有する「大浜海岸」は、アカウミガメの産卵地として知られています。この海に導かれ、移住を決めたのが、熊谷亜未(くまがいあみ)さん。潮風漂うこの町で、地ビールの醸造所「日和佐ビール」を営んでいます。

大浜海岸
▲大浜海岸。日和佐とは、美波町内の旧町名。現在もこの地域の呼び名として親しまれています。
日和佐ビールの熊谷亜未さん
▲熊谷亜未さん。醸造から瓶詰め、ロゴやラベルのデザイン制作、イベント出店まですべて一人で手がけています。

宮城県出身の熊谷さんは、東京で7年間、センサー開発に従事していました。旅が趣味の熊谷さんは「そういえば四国に行ったことないな」と思い立ち、年末年始の休みに四国一周の旅に出かけます。それが2015年のこと。

「四国のことを何も知らなかったので、高松空港に着いたら、初日はとりあえず車で行けるところまで行こうとして、最初の宿泊地に決めたのが日和佐でした」と振り返ります。

そのときに泊まったのが、大浜海岸の目の前にあった、今はなき国民宿舎「うみがめ荘」でした。到着したときにはすでに真っ暗。そこで見た星空に目を奪われたと言います。

「夜があけて目に入ってきた海や、まちの雰囲気がとてもいいなと思って。これまで“また行きたい”と思う場所はたくさんありましたが、本当に“住みたい”と思う場所と出会ったのはここが初めてでした」

それから6年後の2021年、熊谷さんに転機が訪れます。当時勤めていた会社の上司に、自分の人生から逆算して仕事の目標を考えるよう促され、これからの生き方について改めて考えるようになりました。

熊谷さん
▲「自分が好きなものづくりに関わる仕事がしたいと思っていました」と熊谷さん。

「老後に日和佐で暮らせたらいいなと考えていたのですが、そういえばどうして今じゃダメなんだろうと、ふと思って。仕事がないから住めないのなら、探してみようと気軽な気持ちで調べてみたら、地域おこし協力隊の募集を偶然見つけたんです」

その後、会社を退職して選考に挑み、見事採用。2022年に日和佐へ移住しました。


有形文化財“谷屋(たんにゃ)”でビールが生まれる

地域おこし協力隊としての主なミッションは、2017年に、国登録有形文化財となった旧廻船(かいせん)問屋「谷屋(たんにゃ)」で地ビールを醸造することでした。

かつて日和佐は、阿波藩の南方の廻船業の一拠点として発達しました。廻船業で栄えた豪商の一つが谷屋です。1870年ごろに建築された建物には、海沿いのまちならではの珊瑚を使った珍しい壁や、波をモチーフにした欄間などの建具が残っており、往時の隆盛をしのばせます。

国登録有形文化財「谷屋(たんにゃ)」
▲国登録有形文化財「谷屋」。“あわえ”と呼ばれる細い路地が入り組んだ、古い漁村集落の中にあります。
母屋の隣にある醸造所
▲母屋の隣にある醸造所。もともとは納屋があった場所だそう。
谷屋(たんにゃ)の中
▲谷屋の中は粋な空間。営業日には購入したビールをそのまま室内や縁側で楽しむこともできます。

地域おこし協力隊の任期は3年。着任して1年目は、月の半分は岡山の醸造所に通い、ビールづくりの修業に励みました。当初は、2年目に酒類製造免許を取得し開業する予定でしたが、免許取得に必要な工事が遅れ、免許が交付されたのは3年目の11月。

「屋号は『日和佐ビール』と決めていました。2年目は日和佐で醸造できなかったので、修業先で仕込んだビールを樽で持ち帰り、地元のイベントでカップに注いで販売していました。他にも、地域おこし協力隊の仲間と一緒に町内の公民館で居酒屋をしたり、地元の『居酒屋つくし』でお手伝いをさせてもらったりしていました」

そして、2025年1月、ついに念願のビール醸造所をオープン。移住から3年の間に、地元の人たちとのつながりもでき、今では「こんなん採れたけど、ビールに使える?」と声をかけてもらうこともあるのだとか。


一人で仕込む小さな醸造所

「ビールづくりの仕事はとにかく重いんです」と笑う熊谷さん。ビールの入った樽や、箱いっぱいに詰められた瓶、原料の麦芽など、とにかく重いものを持ち上げる作業が多いそう。

そんな身体を動かす大胆さと隣り合わせに、ビールづくりには繊細さも求められます。

大きな樽をかき混ぜる、仕込み中の熊谷さん
▲1日がかりの仕込みは、月に2〜3回。発酵を待つ間には、瓶詰めやイベント出店などの仕事を行います。

「小さな醸造所なので、メーカーさんのような厳密な温度や湿度の管理ができるわけではありません。少量生産で手作りしているので、全く同じビールはどうしても作れないんです。同じレシピでも混ぜ方やその日の気温で微かな変化が生まれるので、その要因を探っていくのは面白いです」と話します。

麦汁の温度や糖度を細かく記録している様子
▲製造途中で麦汁の温度や糖度を細かく記録している様子。

まちの魅力をビールが運んでいく

ビールづくりの原動力をうかがうと、話は自然と美波町のことへ向かいました。

「美波町は、素敵な場所や事業者さんが本当に多い場所です。でも、その良さは来てもらって初めて深く伝わることだと思います。一方で、ビールはここでつくって、他の場所で売ることができます。だから、手に取ってもらった日和佐ビールが美波町に来るきっかけになったらいいなと考えながらビールをつくっています。そして来てくれた人には、まちの魅力がきっと伝わると思っています」

ラーメン店の軒先で販売する様子
▲地元で人気のラーメン店「阿波尾鶏中華そば 藍庵」の軒先でポップアップ販売する様子。お客さんと直接話せるイベント出店はこれからも大切にしたいと話します。

熊谷さんの思いが込められた日和佐ビールは、どれも地域の風土を感じるフレーバー。その種類は季節や時期によって異なりますが、取材時(5月中旬)、3本セットに入っていたのはこちら。

日和佐ビール3種
▲左から「Glowing Ember」、「Ocean Saison」、「AWABANCHA Ale」。

日和佐漁協がくみ上げた地下海水を使った「Ocean Saison(オーシャン・セゾン)」は、ほんのり塩味のミネラル感があり、暑い日やお風呂上がりに飲みたくなる味。阿波晩茶を使用した「AWABANCHA Ale(アワバンチャ・エール)」は、阿波晩茶の香りや酸味がふわっと広がり、余韻を感じながら味わいたい一杯です。備長炭オイルが溶け込んだ「Glowing Ember(グローイング・エンバー)」は香ばしい香りと、どっしりした飲み口で満足感たっぷり。もちろん阿波晩茶も、備長炭も、地元・美波町産です。

「ビールづくりで大切にしているのは、素材の個性が引き立つことです。また、日和佐ビールの中でも味わいが似ないように心がけています。この味が一番好き、と思うフレーバーに出会ってもらえたら何よりです」と熊谷さん。今後も地元の人の声を聞きながら、徳島らしい味わいを探したいと話します。

また、熊谷さんは地域の関係者と協力しながら、新たな取り組みの実現に向けて動き始めています。

「美波町には、国道沿いにある四国八十八ヶ所第23番札所・薬王寺や、道の駅日和佐を中心にたくさんの人が来ています。そこから海側の方に行くと、さらにたくさんの魅力的な事業者さんがいるのですが、そこへの動線がなかなか見えにくいと感じています。このエリアは平地なので、十分歩いてまわれる。うまく人の流れをつくって、もっと美波町の魅力を知ってもらえたらと考えています」

日和佐のまちなみ
▲日和佐のまちなみ。海へと続く日和佐川の河口付近。

県南のスポットやアクティビティ、飲食店を紹介するInstagramのアカウント(@shikoku.hajikko.trip)も、友人と一緒に開設しました。

“住みたい”と思った景色に導かれ、美波町へ移住した熊谷さん。今では、このまちの魅力と地域の恵みをビールとともに、まちの外へと届けています。


日和佐ビール
徳島県海部郡美波町日和佐浦184-3
https://hiwasabeer.com
Instagram @hiwasa_beer




日和佐ビールの商品は、Lacycle mallでお買い求めになれます。

クラフトビール3本セット

ひとりで仕込む小さな美波町のブルワリーから、クラフトビール3本をお届け。 味わい、ラベルデザインや名前にも一つひとつ意味を込めています。美波町の空気を感じられるビールをぜひご自宅で。