「木頭杉」の間伐材を有効活用
無塗装、無漂白の一膳の箸が山を救う

「木頭杉」の間伐材を有効活用 無塗装、無漂白の一膳の箸が山を救う

地域の財産を次世代へつなぐために

徳島市中心部から車を走らせ、山深い景色の中を進むこと約2時間。
西日本で第二の高峰、剣山の南麓に位置する那賀町・木頭地区到着します。

およそ1000人が暮らす小さな集落。
標高1000メートルを超える四方の山々の高さに圧倒され、集落沿いを流れる那賀川のきらめきに胸が高鳴ります。

▲木頭へ向かう道中、空と緑と川が織りなす美しい風景が広がります。黄色い橋は出合橋。
▲緑がかったやわらかな青色を帯びた清らかな那賀川。
▲標高300メートル、徳島の最深部ともいわれる那賀町木頭地区。

山に囲まれた木頭では、奈良時代より林業が産業の柱でした。
寒暖差が激しい気候に耐え、たくましく育った杉は「木頭杉」と呼ばれ、上質なブランド木材としてかつては京阪神において高値で取り引きされていました。

時は流れて現在、海外から安価な木材が大量に輸入されるようになり、国内の林業は衰退。木頭もその例外ではなく、杉の行き場が失われたために手入れの行き届かない杉林がぐっと増えてしまいました。

そこで、「何とかしたい」と手を挙げたのが地域で土木事業を行う「廣間組」の西田靖人さんです。

▲木頭生まれ、木頭育ちの西田靖人さん。

「木頭杉は昔から地域の大切な資源です。しかし、需要がないと山がほったらかしになって木々が混みあい、太陽の光が地表に届かない森林になります。すると杉の成長も妨げられ質が下がる……。悪循環になってしまうんです。
だから僕は小さなものからでも木頭杉の需要を生みだそうと木工製品を作ることにしました」。

間伐材の箸で森を元気に

2017年、西田さんはオリジナル木工商品の企画・製造を行うべく、「廣間組」の関連会社「Wood Head」を創業。

木頭杉の中でも原料に選んだのは、”間伐材“でした。間伐とは木を間引きすること。増えすぎた成長途中の木を伐採することで森林の健全な成長を促します。
伐採は主に曲がったり、折れたりしている木が選ばれ、切った後は処分されることがほとんど。

西田さんはそこに目をつけ、この間伐材を杉のプロダクトに生かそうと考えました。

▲材料となる木頭杉の間伐材。年輪の詰まった丈夫な木材を選んでいます。

そうして、間伐材を五角形に削りだした「五稜箸(ごりょうばし)」が誕生。
通常、木工製品は、使い勝手を考慮して漂白剤や防カビ剤、塗料などが使用されています。
一方で「五稜箸」は、木頭杉の色や手触りを自然のままに伝えるために、あえて無塗装、無漂白。杉が持つ抗菌作用や撥油性(油をはじく性質)を生かし、できるだけ体に優しく仕上げています。

▲杉は軽さも特性のひとつ。「五稜箸」はわずか5グラム!

「杉本来の香りを感じてもらいたくて。塗装するとせっかくのいい香りが飛んでしまうんです。その分、表面が繊細なので丁寧に扱わないと傷がつきますが、だからこそ、杉そのものと向き合ってもらえたらと思います」。

また、五角形にしているのは2つの理由があります。
1つは手にフィットしやすく、持ちやすくするため。もうひとつは、木頭含む旧5町村からなる那賀町を五角形に見立て、各地域が力を合わせて明るい未来を築く様を表現しています。

▲五角形の面はそれぞれの木の表情が出ていて個性豊か。大きい手、小さい手、いろんな人の手になじむ持ち手の太さを研究し、8ミリに削りだしています。

「木頭は柚子以外のお土産品がなかったので、新しい村の名産として広めていきたいですね。買い求める人が増えることは木頭杉の需要につながります。そうすれば放置されている杉林にもきちんと手が行き届くようになると思っています」。

 また、木頭杉に触れる機会を増やすため、工房にて「箸づくり体験」も開催。カンナを使って五角形に削り出し、2時間程度で“マイお箸”を作ることができます。

▲箸づくりを行っている通称「わんだぁ工房」。ここで体験も受け付けています。
▲木頭の小学6年生と中学3年生は卒業制作で「五稜箸」づくりに挑戦。

木頭を「ヤマザクラ」の名所に

もうひとつ、「廣間組」と「Wood Head」が木頭の美しい自然風景を後世に守り継ぐために行っているのが「山櫻プロジェクト」。
地元の小・中学生からお年寄りまで地域の有志と協力し、古くから日本の野山に自生するヤマザクラを植樹する活動をしています。

▲木頭地区に咲くヤマザクラ。白い花びらと赤みがかった葉が特徴。
▲2020年のヤマザクラの植樹に集まったプロジェクトのメンバー。

「ヤマザクラはこの辺でもなじみ深い花だったんですが、年々減少してきていました。保全活動をしながら新たに植えて、ゆくゆくは木頭を桜の名所にしたいと考えています」。

2015年からスタートしたこのプロジェクト。驚くのは、種から植えていること。
「山に落ちているヤマザクラの実を拾いにいくんです。毎年3000個くらい集めて大事に育てています。そのうち芽が出るのは半分。苗木が育って植樹まで辿りつけるのは最終的に40~50本ほどです」。

▲山中で拾い集めたヤマザクラの実。果肉を除いて種を取りだします。

苗木まで育ったヤマザクラは、「イノクボ」と呼ばれる山の中のくぼ地に植樹。
「標高600メートルくらいの日当たりがいい場所です。苗木は種から面倒を見ているので娘みたいな存在。暑い日が続くと、山の上まで水をあげに行ってしまうほど過保護に育てています。
種まきしてから花が咲くまでに最低6年かかるんですが、去年(2020年)初めて花が開いて! ちっちゃい花だけど、すごくうれしかったですね」。
西田さんは目尻を下げ、父親のような表情で開花の日のことを語ります。

「6年で250本のヤマザクラを植えてきました。目指すのは千本桜。この木頭に住む人たちの自慢になれるように頑張ります」。

▲少しでも桜を長く楽しめるように、ヤマザクラと開花時期の違うシダレザクラもところどころに植えているそう。

今も昔も、木頭の人々は山とともに生きています。見渡せば豊かな森林、清らかな川、美しい花がある。これからもずっと、この自然と共存していくために、手をかけながら暮らしていく。
それが山里の未来につながっています。


Wood Head
徳島県那賀郡那賀町木頭出原字イシノモト28-1(廣間組内)
https://www.woodheadkito.com/


Wood Headの商品は、Lacycle mallでお買い求めになれます。

五稜箸木頭朱杉 一膳ギフト
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