収穫したてのすだちをその日のうちに
清々しい香気を放つ農園からの贈り物

収穫したてのすだちをその日のうちに 清々しい香気を放つ農園からの贈り物

すだちの木がズラリ、1000本!

すだち農家の朝は早い。収穫期を目前にガラスハウスの農園には7時前から働く人たちの姿が見られます。ここを営むのは「農園直送すだち(株式会社あしらい)」の、平尾奎人(けいと)さん、香未(よしみ)さんご夫妻。

農園に一歩足を踏み入れると、180度、見渡す限り、濃緑でツヤのある葉をもりもりと茂らせたすだちの木・木・木! その規模に圧倒されていると、 「約5500㎡に約1000本のすだちの木が植わっています」と教えてくれたのは奎人さん。「2反(約2000㎡)を家族4人で、というのが一般的でしょうか。この規模を2人でやっているところは……ありませんね」と笑います。

▲すだちの木1本1本、見回りながら、声をかけ、手をかけて。

農業経験ゼロからすだち農家へ

もともとはトマトの水耕栽培をしていた巨大なガラスハウス。2017年、奎人さんは放置されたままになっていたこの場所と出合いました。農協を通じて知り合ったベテランのすだち農家さんや支援してくれる方々との縁、すだちに抱いていた憧れのような思い。導かれるように、農業経験ゼロからすだちの生産にトライすることを決めました。

とはいえ、そこはガラスハウス。夏場の暑さはゆうに45℃を超えます。 「鳥がうっかり入ってくると、一周しないうちにパタッと倒れてしまう。そのくらい暑いんです。それにビニールハウス栽培はあってもガラスハウスで栽培しているところはほかにありません。周りの方々からもうまく育たないんじゃないかと言われ、最初はすだちの苗木を鉢植えの状態で10鉢程度をガラスハウス内に置いて試してみました。すると、案外順調に育ち、大丈夫だねって話になり、本格的にすだち農園にしようと動き出しました」。

▲5000㎡はテニスコートおよそ21面分の広さ!

敷き詰められていた水耕栽培の設備を自力で撤去。いざ、すだちの木を植えようと土壌検査をしたところ、石灰が多くまるでグランドの土のようだったと振り返ります。アルカリ性が強いと木は育たないため、阿南市の山土に入れ替えることに。すだちが本来育つ自然環境に近づけた土壌づくりを行いながら、苗木を植えて……をひたすら一人で繰り返すだけ。1年かけて、奎人さんは広大なすだち農園へと生まれ変わらせたのです。

▲繁忙期には人の手を借りて。刺身に、焼酎にと、皆さんもすだち愛が深い。

環境に優しい栽培で自然に寄り添いながら

「まだまだ試行錯誤をしながら栽培をしていますが、昨年、農協の方にも褒められて自分たちのやり方に手ごたえを感じるようになってきました。数年前までは師匠であるすだち農家の方がひとつひとつ手取り足取り教えてくれていたのが、今では時折覗きに来てくれる程度。『この調子でやったらええわ』とか『きれいな実ができたなあ』とか言ってくださるのがうれしいですね」と、香未さんはすだちの実に触れ、笑みを浮かべながら話してくれました。

▲「今年も理想的なすだちに育っています」と香未さん。
▲香未さん自作の虎の巻。日々の備忘録からトラクターの乗り方まで!

すだちの天敵、ハダニを食べるダニを海外から輸入したり、養蜂家の方に来てもらって蜂を放ったり、いわゆる天敵農法(害虫を食べる天敵を放つことで害虫を駆除する方法)を試されたこともあったそう。

「最初の2年くらいは完全無農薬に挑戦しましたが、色ムラができたり、傷がついたりと、明らかに見た目が落ちるんですよね。農協に持っていっても無農薬だからと高値がつくわけでもなく、むしろいやな顔をされるだけ。だから、できるだけ土壌に影響の少ない農薬などを用いながら、見た目も中身も誇れるすだちを作ることに切り替えました」。

▲「自然の産物なので毎年どう実るか、楽しみでもありドキドキです」とも。

ガラスハウスだとシカやイノシシ、カラスなどの獣害被害もなく、天候に左右されないのがメリット。
「木の生育も早いし、雨でも作業ができます。一年を通して地道な作業が多いですが、手をかければかけるほど応えてくれる。皮が薄くて果汁をたっぷり含んだ香り豊かな実がなるんですよ」。

▲3月になると花が咲き、ジャスミンのような甘い香りを放ちます。
▲めしべの下にはすだちの赤ちゃん。3,4月はトラブルなく育つよう花びらを振り落とす作業が続きます。
▲5,6月は毎日トゲ切りと摘果(実を間引くこと)が続きます。
▲摘果はためらわず。結果的に、見た目もよく栄養豊富なすだちに。

また、ビニールハウスでは加温(気温の低い時期に加温器具を用いてハウス内を温めながら栽培すること)のところも多いようですが、ここは無加温。四季の移ろいとともに、できるだけ自然に近い環境で育てたいという思いも。取材中、チョウやてんとう虫、ヘビ!にも遭遇しました。

手摘みしたすだちをすぐに届けたい

一年でもっとも忙しい収穫期になると、朝5時に起きて、7時前から11時頃までみっちり収穫。午後は出荷や発送作業に追われ、気が付けば20時。帰宅後は夕食を食べて気絶するように寝るだけ。これをお盆まで毎日繰り返します。 「注文をいただいたら収穫したその日のうちに発送したいんです。とにかく新鮮なすだちのおいしさを味わってもらいたい。日が経つほど、香りも味も変わってしまうので」と香未さん。

▲収穫したら選果機で大きさを選別後、目視でキズの有無などを見定めます。

スーパーなどの店頭に並んだすだちを手にするまで、だいたい収穫後およそ3~5日は経っている場合が多いのに対して、この農園から発送する場合、最速で注文した翌日には届きます。まさに直送だからこそ。このこだわりもあって、「農園直送すだち」にはリピーターが多く、信頼を得ています。

「一度自宅用に購入された方がまた注文してくださると、励みになりますね。二度目、三度目が贈答用だと、贈ってくれるの? うれしい!って」。 「新鮮なすだちは香りも色も味も格別です。私たちのすだちを喜んでくださる方たちが増え、長いお付き合いができることを目標にしています」と奎人さん。

▲「今年もすだちをとって夏を乗り切ります」と平尾さんご夫妻。

平尾さん夫婦のすだちのある食卓

平尾さんご夫妻はともに千葉出身。じつはお二人とも社会人になるまですだちを味わったことがなかったと言います。奎人さんは祖父母の暮らす徳島に引っ越してきて初めてすだちを口にし、これまで味わったことのない香りやおいしさに衝撃を受けたんだそう。

▲「祖父母の庭にもすだちの木があってよく食卓に出てきましたね」と奎人さん。

「地元の人にとっては当たり前でしょうが、柑橘を料理に取り入れる食文化は千葉にはないんですよね。もちろん、徳島の野菜や魚もおいしいですが、一番はやっぱりすだち。夏場、食欲がないときでもすだちをかけるだけでおいしく食べられる。もう欠かせない存在です。この食文化を次の世代に繋げる仕事を続けていけたらと思っています」(奎人さん)。

「私も結婚のご挨拶に伺った際、おばあちゃんが袋いっぱいのすだちとはちみつを持たせてくれたのが最初です。すすめられたとおりに水で割って飲んでみたら、すっごくおいしくて。それに何にでも合いますよね。とくに今の時期はみそ汁に必ずひと絞り。実家の祖母に教えたらすっかり気に入ったみたいです。毎日絞るからすぐなくなってしまうようで『すだちを送ってね』と何度か言われました(笑)。あと、中華料理にかけるのも好きです。さっぱりとまた違った味わいが楽しめておすすめですよ」(香未さん)。

▲平尾家の食卓より。「あれもこれも……全部おすすめです!」とのこと。

そのほか、すだちの楽しみ方は『暮らしとおしゃれの編集室』内、「今日のひとしな」でも少しご紹介しています。

保存方法は穴をあけたビニール袋に入れて冷蔵庫へ。むき出しで保存するのは乾燥して劣化も早くなるのでNGです。熟して黄色くなったものもまだまだ楽しめます。香りがまろやかになり甘みが引き立つので天ぷらや炭酸水、酢の物などにどうぞ。ちなみにお二人の師匠もこの”黄色いすだち”が好みだとか。

続けて口を揃えて話してくれたのは、徳島の水のこと。

「とにかく水がきれいで感動しましたね。関東近辺の海は深緑色で臭い。でもここから近い北の脇海岸に行ったら臭わないのでビックリして」。 「よく歌に『潮の香り~』なんて表現がありますが、ウソばっかり、ヘドロでしょ?って、ずっと思っていたんです(笑)。でも、徳島の海や川はいつも澄んでいて下が見えるし、何より全然臭くない! この水をもとにすだちも実り、ほかの野菜や果物も育つんですからおいしくなるはずだよねぇと実感しましたね」と、香未さん。

▲農園から近い、北の脇海岸。「穏やかで雰囲気のいい海岸です」と二人の癒しスポット。

今年も二人の深い愛情と自然の恵みを存分に浴びてすくすくと育ったすだち。収穫期を迎えた今、爽やかで華やかな香りが農園いっぱいに漂っています。


農園直送すだち(株式会社あしらい)
徳島県阿南市見能林町南林695
tel. 080-8715-7158
https://ashirai.co.jp/