土産店が作る干物は飯がうまい
目次 輝く魚、見惚れる手さばき、昔ながらの天日干し 薄すぎない塩加減は、酒よりも米がすすむ 青果の行商からはじめて50年 輝く魚、見惚れる手さば…
「勝占(かつら)のいちごは、ほぼ大阪の中央卸売市場本場に出荷しているんです。全国一の高値をつけてもらっているんですよ」。
朝日を浴びて鮮やかさを増すいちごに見惚れていると、その傍らで手際よく収穫をすすめる、西岡さち子さん。いちご農家、西岡産業の4代目です。西岡家は江戸時代中期からさまざまな作物を作り続けてきた歴史ある農家。1970年よりいちごを栽培しています。
「勝占いちご」。
じつは徳島県内でもほぼ出回っていない、レアないちごです。勝占とは、徳島市南部に位置する町の名前。その周辺を含めて勝占地区と呼ばれ、いちごの産地です。そもそも徳島県はいちごの栽培が盛ん。県西部、南部などに産地があり、さまざまな品種が育てられています。
中でも徳島市は日照時間も長く、とくにこの勝占地区は東側に位置する紀伊水道から温暖な海風が流れ込むため、夜間でも冷え込みづらいのが特徴。甘いいちごが育ちやすい条件を満たしていることから、1970年、関西向けのいちごを作る産地として計画的に整備されました。そのため、農協に集められた勝占いちごはほぼすべて、大阪市中央卸売市場本場に出荷されています。
当初、60軒近くあったいちご農家も現在(2023年)では30軒ほど。西岡産業は勝占地区内3か所にハウスを持ち、いちご栽培歴50年を超えました。
「家を継ぐつもりはなかったんですが、子どもができたことをきっかけに食べものにこだわるって大事だなあ。食べものを作る仕事っていいなあと思うようになって」。 2011年3月の東日本大震災時、東京でITコンサルタントをしていたさち子さん。妊娠がわかり、その秋に夫婦でさち子さんの地元、徳島にUターンしました。でも、農業はきつい仕事だからと、両親は継ぐことに反対したと言います。
「親を見てきたらわかってはいたのですが、農業に休みはありません。でも、別の仕事をしたからこそ気づけた農業の良さもあって。また、6次化(いちごの生産だけでなく、いちごを用いた製造&加工、販売にも取り組むこと)に可能性も感じ、私の得意分野が活かせることもあるのではと、いちご農家を継ぐと決めました。何よりもいちごが大好きですしね」。
さち子さんは出産を経て、2013年頃からいちご農家の一員として本格的に働き始めました。
勝占いちごは産地の成り立ちの経緯から、大阪市中央卸売市場との特殊な関係性が長年に渡って続いています。 「通常、生産者は消費者の声を直接聞く機会はあまりないのですが、私たちの場合、市場の仲買人さん(仲卸業者)を介して何かあるとすぐに電話が入るんです。『味が悪いぞ』『見た目が悪いぞ』『買わんぞ!』って。そのフィードバックに、いつもおびえていて(笑)」。
この一見、厳しい言葉は勝占を信頼しているがゆえ。その証拠に各産地から大阪市中央卸売市場に集まってくる無数のいちごの中で、さちのかとゆめのかにおいては勝占いちごに全国一の高値がつけられることが多く、トップクラスの卸値価格をキープし続けているのだそう。
「見た目がいいだけのいちごを作るなら栄養をあげなければできるんです。でも、味もよくないと許されない。だから、見た目よし、味よしのいちごを実らせる努力を先々々代からずっと、ずーーーーっとし続けています。プレッシャーは相当ですが、そのおかげで関西の食品流通に携わる玄人さんの間では『勝占だったら間違いない』と言ってもらえるようにまでなりました」。
また、さちこさんは農水省が取り組む<農業女子プロジェクト>にも参加。そこで知り合った全国のいちご農家の仲間と交流を楽しみつつ、苗づくりや肥料、資材などの情報交換を積極的に行い、アンテナを張っています。
加えて、“仲買人さん”という勝占いちご農家共通の絶対的存在がいることで、横のつながりも深く、強い。 「みんな大阪が怖いんです(笑)。手を抜けないし、このぐらいでいいだろうという妥協がない。だから、みんなで一緒に苗づくりに励んだり、出荷時のサイズなどを見極める『目慣らし会』を年に1度開催したりしています」。
さち子さんとともに栽培から収穫、出荷まで広く携わるのは母、まゆみさん。88歳になる祖母、露子さんは今なお、現役。おもに農協用に出荷するいちごの選別、パック詰め作業を担当する戦力です。そして、ハウス全体を見回り、栽培管理をしているのが父の弘司さん。みんなの相談役のような役割を担っています。さち子さんのそばにはいちごとともに歩んできた大ベテランばかり。
「お父さんは栽培中のいちごを味見するだけで何が足りないか、何をしたらいいかがわかるんです。いちごのことが一番わかる人」と教えてくれたのは、まゆみさん。「もう全部詰めれたよ」と、にっこり笑う露子さん。積み上げてきたそれぞれの経験が、次の世代をサポートし、またこの家のいちごの品質を担保していることがよくわかります。
西岡産業では農協を介さずに個人販売しているいちごも「西岡いちご」とは称していません。扱ういちごはすべて「勝占いちご」の名前で。その理由を問うと、「個人名よりも産地を、勝占ブランドを盛り立てたいから」と迷いのない答えが。また、勝占いちごがこの先も長く持続するように、定年後や若い世代の跡継ぎを増やしていきたいと後継者づくりにも意欲的に取り組まれています。
ところで、いちごは鮮度が命ですよね。 しかも、いちごには追熟がありません。収穫後も赤い実は濃くなっていくので追熟して甘くなっていると勘違いする方も多いようですが、収穫日を境に糖度は少しずつ落ちていくのだそう。……ということは、農家直送が一番おいしい実を味わえるということ!
「市場出荷だと出荷日翌日がせり、その後お店に並ぶので、口にするまで収穫からどうしても3,4日は経ってしまいます。その点、注文をしてもらえれば摘みたてを送るので断然、新鮮です」。 しかも、先に述べたとおり、勝占いちごは関西圏以外、店頭で見かけることはレア。おいしいいちごを一番おいしい状態で味わってみたいなら、モールで注文するのが一番!
品種はさちのか、もしくはゆめのか。その時期もっともおいしいほうが届きます。取り扱い時期は4月末までですが、収穫状況次第。あくまでも予定です。勝占いちごは甘くてジューシー。同じ品種でも生産者によってこんなにも違うものか……と驚いてしまうほど。指名買いされるのも頷けます。
そして、さち子さんが農家を継いで2013年に商品化したのが、ジェラート。出荷しきれなかったり、作業中に何かしらの理由で潰れてしまったりと、どうしてもできてしまう規格外のいちご。もちろん、味はまったく劣らないので、それらをぜいたくに使ったおいしいものを作りたい、という想いから生まれました。
<ぜいたくいちご>はいちごそのものを味わっているかのような濃厚さ。<いちごミルク>は果肉が残るいちごジャム「にしおかジャムいちご」をリッチに混ぜ込んだやさしい味わい。どちらも世代を問わず、喜ばれる本物の味。
「市販のいちごミルク味のアイスを食べると、いちごが負けていて残念だなあと思うことがあって。ミルクに負けないくらい、いちごをしっかりと感じられるジェラートを作りたかったんです」と、さち子さん。
県内でさえなかなか出合えない勝占いちごですが、月に1日(毎月最終日曜日)だけ、新町川ボードウォーク沿いで開催される「とくしまマルシェ」に出店されています。おもに、不揃いなお徳用いちごやパウチに失敗したジャムなどを販売。コロナ禍で出店を見合わせていた時期を経て、今年からはできるだけ毎月出店したいと考えているそうです。
「ありがたいことにリピーターさんが多く、早々に売り切れてしまうことも多いのですが、直接お客さんの声を聞けることが励みになっています。だから、いちごのない夏場もジェラートやかき氷などが出せたらいいなあと計画中です」。
そんな話を伺っていると、開催時間前から常連さんの姿がちらほら。この日も太陽の光を浴びてとびっきり輝く摘みたていちごに吸い寄せられるようにお客さんが近づいてきます。なるほど、ここマルシェでも幻のいちごなのかもしれません。
いちご農家 西岡産業
徳島県徳島市大原町千代ヶ丸98
tel.088-662-0590
http://nishioka3gyou.com
いちご農家 西岡産業の商品は、Lacycle mallでお買い求めになれます。
4世代続くイチゴ農家が「自分の子どもにたべさせたいものを作る」をコンセプトに愛情込めて栽培した『勝占(かつら)いちご』。平置き梱包の2パックセットです。