非常用トイレから食器まで
那賀町の森林を活かす“木粉”

非常用トイレから食器まで 那賀町の森林を活かす“木粉”

約95パーセントが森林のまち、那賀町

徳島市から車で約2時間、徳島県南部に位置する那賀町へ。
1000メートル超の剣山山系と海部山脈の深い山々、その谷間を大きく蛇行しながら流れる清らかな一級河川・那賀川。この大きな自然には訪れるたびに圧倒されます。

そんな自然豊かな印象そのままに、なんと町の森林率9割以上! そのうちの約8割は杉などの人工林です。年間3000ミリを超える豊富な降水量と、昼夜の寒暖差が大きいことが杉の成育に適しており、林業がこの町の産業を支えてきました。

▲ 那賀川上流にある長安口ダム湖付近に架かる出合(であい)ゆず大橋。

しかし、高度経済成長期以降、外国産の安価な木材の普及によって次第に国内の林業は衰退。那賀町も例外ではなく、町の人口減少とともに林業従事者数も減少。現在では、那賀町の若手林業従事者を中心に「山武者(やまむしゃ)」と呼ばれる組織が立ち上がり、若手育成を進めていますが、それでも広大すぎる山の管理は追いつきません。


余りある地域資源から新素材を開発

そこで、那賀町の豊かな森を活用すべく誕生したのが、高品質な木材パウダー「木粉(もくふん)」です。

「パウダー化することで、木の成分が抽出しやすくなったり、さまざまなものと混ぜ合わせて木質化させたり基材にしたりと、木材の活用の可能性が広がります」とは、木粉の製造開発を行う「那賀ウッド」の代表・庄野洋平さん。

森林資源の活用を模索していた那賀町が、東京に本社を持つコンサルティング会社「エイト日本技術開発」や、「木頭森林組合」などと共同出資をして2014年に「那賀ウッド」を設立。地域活性などを推進しながら、木粉による商品開発をおこなっています。

那賀ウッド代表の庄野洋平さん
▲那賀ウッド代表の庄野洋平さんは阿南市出身。竹林が身近にある環境で育ち、阿南市の放置竹林問題にも働きかけています。

「豊富な森林資源があっても、放置され、手入れが行き届かないと山は荒れていってしまいます。保水がうまくいかず、土砂崩れなどの災害を起こしてしまうことも。森林資源の活用を通じて、地域振興だけでなく、山の環境保全をして災害を防いでいけたら」


純度100パーセント、国産木のパウダー

さて、そんな「木粉」とは一体どんなものでしょう。
ノコギリで切ったあとに出る「おが粉」をイメージするかもしれませんが、木粉はさらに粒子の細かなものを指します。その細かさは例えるなら「きな粉」。

そして、その特徴はなんといっても高品質なことです。町内で育った木頭杉や阿南市で育った竹など、生産地が明らかな木材の背材や端材のみを使用しているから。建物の解体などにより出た廃材などはそもそも原料としていないため、それらに付着している粘着剤や防腐剤などの不純物が混ざることはありません。

つまり、木粉は木そのもの。不純物のない国産100パーセントの木材パウダーを製造しています。

材料となる町内産「木頭杉」の背材や端材
▲材料となる町内産「木頭杉」の背材や端材。製材時に出る副産物をうまく活用しています。
数値が低いほど粒子が細かいパウダー
▲ 数値が低いほど粒子が細かいパウダー。この状態でも木材の性質や機能を備えています。

企業などからのリクエストに応じて粒度や色目を調整したオーダーメイドの木粉製造を行っており、全国各地からの「地元の木材を使って商品づくりをしたい」という声にも応えています。

木粉化しても、木材が本来持っている「吸水性」「消臭性」「断熱性」「抗菌性」「生分解性」の特徴は変わりません。木粉を他の素材と混ぜ合わせることで、ベンチや遊具、塗り壁、線香など、木質の特徴を持ち合わせた多種多様な製品づくりに用いられているようです。


非常時のトイレとしても本領発揮

なかでも注目を浴びているのが、木粉ならではの吸収性や消臭性を活用した「木粉簡易トイレ」。那賀ウッドのオリジナル人気商品です。被災時はもちろん、レジャー時や緊急時にも使えるので、車やカバンに備えておくことがおすすめのアイテムです。

2017年に「ウッドデザイン賞」を受賞した木粉簡易トイレ
▲木粉簡易トイレ。2017年に木の良さや価値を再発見させる製品などに対して表彰される「ウッドデザイン賞」を受賞しました。

木粉に少量の高分子ポリマーを加えて開発した「木粉凝固パウダー」と汚物袋が1セット。便座などに袋をかぶせて用を足したあと、木粉凝固パウダーを1袋分かけると、水分をすばやく吸収し、あっという間にゼリー状に固めてしまいます。あとは、便座から袋を外して結んで処理するだけ。しかも、杉が持つ爽やかな香りや消臭力が嫌な匂いを防いでくれるのも嬉しいポイントです。

那賀ウッド公式You Tubeの「杉パウダー活用の『木粉簡易トイレ』瞬間的に凝固する様子( https://www.youtube.com/watch?v=c-s1oTMFfIs )」では、杉パウダーが水分を素早く吸収して凝固する様子や、簡易トイレの使い方をご覧いただけます。

自然由来で、使い勝手も良いことから、個人から自治体、避難所に至るまで幅広く利用されています。

那賀ウッドの商品は、Lacycle mallでお買い求めになれます。
国産杉活用 木粉簡易トイレ1回セット×10個


植物生まれのやさしいプロダクト

また、木粉から生まれた食器「BOTANICAL」シリーズは、パナソニックプロダクションエンジニアリングとの共同開発で誕生。木頭杉や阿南市の竹の間伐材を木粉化し、そこへ樹脂を混合して金型に流し込むことで形成したプロダクトシリーズです。

▲「BOTANICAL」シリーズのタンブラー。写真左は竹、写真右は杉の木粉から製造されています。

タンブラー以外にも、お皿、スプーンやフォークなどのカトラリーも揃っています。軽くて丈夫なうえ、熱に強いのが特徴。陶器やガラス製品とは異なり、落としても割れにくい素材であることからアウトドアでの使用や、子どもやシニア世代の普段使いの器にもぴったりです。

「不純物のない高品質な素材を使用していることから高い衛生面が評価されて、2023年には那賀町内の小中学校の給食の食器として試験的に使用され、好評を得ました」と、庄野さん。


那賀町の美しさも発信を続ける

木粉の商品展開だけではなく、地域の学校や企業などと連携しものづくりも行っている那賀ウッド。県立那賀高校<森林クリエイト科>の実習の一貫として高校生たちと木頭杉を使ったスマホスタンドなどの商品を共同開発したり、那賀ウッドによるディレクションのもと、町内の製材所と阿南市のサーフボード職人とで木頭杉の無垢材を使ったサップボード「KUKU(クク)」を製作したりしています。

▲那賀高校と共同開発した商品たち。手前はスマホスタンド。奥は自分で仕上げるカトラリーキット。

那賀ウッドの商品は、Lacycle mallでお買い求めになれます。
木頭杉のスマホスタンド すだちくんVer.

▲「もみじ川温泉」近くの川口ダム湖で開催したSUP体験。(写真提供:那賀ウッド)

特に、木頭杉のサップボードは、全長4メートルの無垢材を4枚張り合わせながらも、大人がボードの上に立っていられる浮力とバランス力を持ったものにするために工夫と技術を重ねた大作。デザインとしての美しさも認められ、2019年にはCOOL JAPAN AWARDを受賞しました。

「良い山は良い川に、良い川は良い海に…と、全部繋がっています。良い川を体験してもらうことは良い山を知ってもらうことにもなると思うんです」と、不定期でSUP体験ツアーを企画しています。

「那賀町の自然の美しさや素晴らしさをもっと伝えていけたら」と話す庄野さん。那賀町の森林資源に新たな価値をつくり、その環境をより良く保ち、町の魅力を発信していく、素晴らしい循環が那賀ウッドの活動から生まれていました。


那賀ウッド
徳島県那賀郡那賀町吉野字弥八かへ1番
tel. 0884-62-1163
https://www.nakawood.co.jp/



那賀ウッドの商品は、Lacycle mallでお買い求めになれます。

ボタニカルタンブラー2個セット【那賀町・杉&阿南市・竹】

木や竹などの植物資源を粉砕加工した高品質のパウダーと樹脂を混合した植物由来の食器。杉Ver.は那賀町の木頭杉、竹Ver.は阿南市のたけのこ農園から出た間伐竹を使用。軽くて丈夫なため、アウトドアでも活躍。